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安倍政権の支持者も批判者も簡単に騙される 対策としての検証法と国連が始めた「ちょっと待って運動」

古田大輔ジャーナリスト/ メディアコラボ代表
ミスリードな説明がついた動画の事例

「ネトウヨが/パヨクが、デマを拡散させている」という批判がある。安倍政権支持者の一部が相手を「パヨク」、逆が「ネトウヨ」とお互いを侮蔑し、間違った情報を故意に、または無知から拡散させていると罵倒しあう。

残念ながら、政治信条に関わらず、誰でも誤った情報を拡散させる可能性がある。特に自分が批判したい相手を批判する材料になる情報ほど、真偽の検討もなしに簡単にシェアしてしまう。具体例とともにその対処法を解説する。

「コロナ対策もせずに、国会にも出ずに」は誤り

安倍首相夫妻が仲睦まじく、木造りの家具をドアに取り付ける長閑な動画。「コロナ対策もせずに、国会にも出ずに平凡な毎日を送りたいのなら、辞任すべきだ」というコメントともに7月27日にTwitterに投稿され、8月6日現在、5200回超リツイートされている。

Twitterで拡散した安倍首相夫妻の動画
Twitterで拡散した安倍首相夫妻の動画

「こーゆー時に日本という国の首相が」などと怒りのコメントを寄せる人が多いが、この動画は新型コロナウイルスが拡散している2020年に撮影され、公開されたものではない。

Mike Bird氏が2019年5月2日に「安倍晋三がカナダから持ち帰ったビーバー型ドアノッカーを設置(原文は英語)」というコメントとともに投稿したものだ。

元動画を見つけるのは、難しくない。拡散したツイートの動画の下には、動画の元々の投稿者の名前が「Mike Bird」と記されている。これはツイッターの公式機能だ。ここをクリックしたら、彼のTwitterアカウントに飛び、ウォール・ストリート・ジャーナルの記者だとわかる。

あとは動画や画像つきのツイートがまとめられている「メディア」のタブをクリックして、溯っていけば見つかる。この人物は動画や画像つきのツイートが多いので、より簡単に見つけたい人にはTweetDeckの利用をお勧めする。

TweetDeckはTwitter公式のツールで、複数のカラム(列)で見たいツイート、探したいツイートを一覧表示できる。しかも、検索項目を細かく設定できる。

TweetDeckの画面
TweetDeckの画面

この場合、検索設定でツイート主を「Mike Bird(アカウント名は@Birdyword)」で、動画つきのツイートを検索すればよい。さらに、首相の名前を入れてツイートしただろうと推測できるので検索ワードに「abe」と入れれば完璧だ。すぐに見つかる。

TweetDeckの検索設定画面
TweetDeckの検索設定画面

動画自体は改変されていない本物だが、1年前の動画を現在の動画と勘違いさせるような文言をつけて投稿するのはミスリーディングだ。実際に動画を現在のものとミスリードされている人たちもいた。

これは、安倍政権に批判的な人たちが、批判の材料となる動画を、批判感情とともにシェアするケースだ。冒頭に掲げたように、逆のパターンもある。

「デモによって感染が広がっている」も誤り

夜の街で安倍政権の退陣を求めて声を上げるデモの動画。「ピコーン!私… #小池百合子 都知事が言ってる #夜の町 クラスターの正体わかっちゃいましたw」という言葉とともに、7月26日に投稿された。

Twitterで拡散した安倍政権の退陣を求めるデモの動画
Twitterで拡散した安倍政権の退陣を求めるデモの動画

こちらは8月6日現在2000回を超えてリツイートされ、「お店は一生懸命に感染対策しているのに」などと批判が寄せられた。

だが、こちらの動画も今年のものではない。動画の中で叫ばれている言葉「俺らの税金花見に使うな」で検索をしてみると、2019年11月12日に実施された反政権デモに関する記事やツイートが見つかる。

それらのツイートで使われているハッシュタグ「#安倍は辞めろ1112」で動画つきのツイートをTweetDeckで探すと、同じ動画を投稿しているツイートにいきつく。

こちらも動画が改変されたわけではない。ただ、去年の動画に全く違う文脈のコメントをつけて、コロナが拡散している中でデモが開かれ、クラスターだと指摘することは誤りだ。

反安倍勢力に批判的な人たちが、批判の材料になる動画を見つけて、批判感情とともにシェアする。安倍政権に批判的な人たちが、批判の材料となる動画を、批判感情とともにシェアする事例と、構図はまったく一緒だ。

画像・動画のチェックツールで探せないときの対処法

筆者は日本でファクトチェックを広める認定NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」の理事で、国内事案を担当するエディトリアル・ディレクターを務めている。

先日はネット上の画像や動画の元ネタを探すツール「RevEye」や「InVID」を、その使い方とともに紹介した。

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だが、実はこのデモの動画の元ネタはこれらのツールでは見つからない。だから、動画の音声を手がかりに探している。こうやって、ファクトチェッカーたちは最新のツールから、地道な検索まで使って丹念に調べている。

一般的なネットユーザーがここまでするのは難しい。そういうときは、怪しいと感じたツイートのリプライを確認するとよい。誰かがすでにチェックして、元ネタを見つけてくれていることがある。

特に安倍政権支持・批判のような党派性が高いツイートについては、対立する陣営がお互いにチェックしているため、相互監視のリプライが付きやすい。実際にここで紹介した2つの事例にもそれぞれそのような検証リプライがついている。

そして、それよりも更に簡単な対策がある。

国連「#シェアする前に考えよう」

国連が始めた「Pause/ちょっと待って」キャンペーンだ。TwitterやFacebookなど、誤情報が拡散しやすいソーシャルメディア上で「#シェアする前に考えよう」と訴えるグローバルな運動だ。

国連のキャンペーン画像「Pause/ちょっと待って」
国連のキャンペーン画像「Pause/ちょっと待って」

日本ではFIJがこのキャンペーンに協力し、「#シェアする前に考えよう」「#シェアの前にケア」というメッセージをFIJアカウントからも発信している。

誰もシェアしなければ、デマはほとんど拡散しなくなる。外出を控えれば、ウイルスが広がらないのと同じだ。

現実には全くシェアをしなければソーシャルメディアを活用する意味合いが薄れる。であればせめて、外出する際にマスクをつけて注意するように、シェアをする際にも、それが本当にシェアに値するかちょっと考えてみることが大切だ。

国連広報センターの根本かおる所長はFIJにこうコメントしている。

「不安や無知に付け込むデマは、ウイルスを上回る速さで拡散しています。例えば、感情を掻き立てるSNS上のコンテンツによって引き起こされます。国連は最新のキャンペーン「Pause/ちょっと待って」を通して、感情に左右されない情報のシェアを呼びかけています」

「デマはあらゆる国で拡散されています。今回、国連の新しいキャンペーン「Pause/ちょっと待って」をFIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)とともに展開することは、日本におけるデマ拡散の防止と『シェアする前に考えよう』という考えの浸透に大きく貢献すると信じています」

(情報開示)

この記事はFIJリサーチャーの八木風香さん、武藤珠代さんの協力を得ています。

ジャーナリスト/ メディアコラボ代表

早稲田大政経学部卒。朝日新聞社会部、アジア総局、シンガポール支局長などを経て、デジタル版担当。2015年に退社し、BuzzFeed Japan創刊編集長に就任。2019年に独立し、株式会社メディアコラボを設立。2020年-2022年にGoogle News Labティーチングフェロー。同年9月に日本ファクトチェックセンター(JFC)発足とともに編集長に。その他、デジタル・ジャーナリスト育成機構事務局長、ファクトチェック・イニシアティブ理事など。USJLP2021-2022、ニューヨーク市立大ジャーナリズムスクール News Innovation and Leadership2021修了

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