「報道に信頼を取り戻す提言」に現役記者ら100人超も署名 若手・女性が求めるメディアの変革とは何か

社内調査の結果を報じる産経新聞の記事

新聞記者と東京高検検事長の賭け麻雀問題に対して、現役記者らが声をあげた提言書に、新聞協会会員社の記者らだけで100人超の署名が集まっている。発起人らは7月18日にオンラインでの公開シンポジウムを予定している。

目立つ若手や女性からの賛同

「ジャーナリズム信頼回復のための提言」は、賭け麻雀だけを問題視している訳ではない。取材対象と関係を深め、水面下で情報を入手して匿名の情報源として報じる「オフレコ取材」を偏重する慣習や職業文化が報道の信頼を損ねていると指摘。5つの問題点と6つの改善案を提言している。

ジャーナリズム信頼回復のための6つの提言

7月10日付で日本新聞協会に加盟する新聞・通信・放送129社の編集局長・報道局長に送付され、ネットでも公開して、賛同人を募集している。

発起人の一人となった朝日新聞記者で新聞労連委員長の南彰さんによると、提言書に名前を載せた賛同人とネットでの募集を含め、「新聞協会会員社の記者らだけで100人を超える賛同が集まっている」という。

特に目立つのが、入社1~5年程度の若手や女性。南さんは「特に若手は相当な危機感を持っている」と話す。

社会とメディアの乖離が信頼の欠如に繋がる

提言書に賛同した人たちからは、こんな声が寄せられたという。

「社会の常識とメディアの慣行が乖離し、信頼を失っている。このままでは存在意義を失う」

「朝から晩まで取材するのが記者の勲章と思って頑張ってきたが、体力も思考力も奪う。このままでは個人もメディアも持たない」

筆者(古田)はニュースメディア業界に関わる人たちが個人単位で参加・交流する「Online News Association」の日本支部オーガナイザーで、個人としても全国のメディア関係者と勉強会を開いている。こういった組織のあり方や働き方への不満はあちこちから聞こえてくる。

たんに長時間労働が辛いという話ではない。それだけ頑張っていても、根本的に自分たちが信頼されていないことへの危機感がある。

データとしてもそれは現れている。ロイタージャーナリズム研究所が世界各国のメディア状況を調査報告するデジタルニュースリポート2019年版。「ニュースメディアは権力を監視しているか」と各国の市民とジャーナリストに聞いたところ、監視していると答えた市民が最も少なく、ジャーナリストが最も多かった国は日本だった。

日本の記者は世界で一番、自分たちは権力監視していると思っており、読者は世界で一番そう思っていないという衝撃のデータだ。

Digital News Report2019
Digital News Report2019

多様性の欠如に繋がる長時間労働とセクハラ

女性からの賛同が目立つのも、働き方の問題が関係している。提言書は5つの問題点の一つとして「組織の多様性の欠如」を挙げ、こう書いている。

早朝夜間の自宅訪問、および公人を囲んだ飲食などを共にする「懇談」形式での取材の常態化が、長時間労働やセクシュアルハラスメントの温床となってはいないか。また、日本人男性会社員記者中心のムラ社会的取材体制を固定化し、視点の多様性を阻害していないか。

近年、新聞社やテレビ局の新入社員の男女比率は改善してきた。ところが、ここで指摘されている水面下の取材が多い政治部や社会部の当局担当者は、今も男性が多い。そして、幹部の多くはそれらの持ち場の経験者だ。

結果として、意思決定をするのはベテランの男性中心となり、組織の多様性は欠如し、報道のあり方も多様性が欠如する。

倫理や行動をどう見直すのか

賭け麻雀に社員が参加していた朝日新聞と産経新聞は、それぞれ問題を検証する記事を出した。朝日新聞は「報道の公正性や独立性に疑念を生じさせた」、産経新聞は「新聞記者の取材活動に不透明感を与えてしまった」と共に謝罪した。

朝日新聞は「記者行動基準を見直す」、産経新聞は「記者倫理や行動規範を徹底させる」と述べたが、その内容はまだ明らかではない。

発起人らが18日午後8時からオンラインで開かれる公開シンポジウムでは、登壇する10人中6人が女性だ。筆者も提言書の議論に加わった一人であり、シンポにも参加する。

メインテーマは「ジャーナリズムがやるべき6つのこと」。6つの提言は信頼の獲得を目指すものだが、そのためには現場で若手や女性が感じている「社会とメディアの乖離」や「ジェンダーギャップ」も重要なトピックになる。