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初日は10アンダー、5位タイ発進で笑顔。「忍耐こそが大事」と世界中のジュニアと自身へエール

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 いよいよ、タイガー・ウッズの「復帰戦」の幕が上がった。

 今年2月の交通事故で右足に重傷を負って以来、実に298日ぶりにウッズの実戦となったのは、12歳の長男チャーリーくんとともに戦う「親子大会」のPNCチャンピオンシップ(12月18日~19日)。

 2日間36ホールの戦いの舞台、米フロリダ州オーランドのリッツカールトンGCには、父親と弟のプレーぶりを見守ろうとやってきたウッズの長女サムの姿もあった。

 前日のプロアマ戦では黒づくめの出で立ちだったウッズ父子。試合初日となった18日は、明るいピーチ色のシャツに身を包み、父も子も明るい笑顔を輝かせていた。

 1番ティの周囲には、前日以上に大勢のギャラリーが詰め寄せ、数台のTVカメラと10名以上のスチール・カメラマンらに囲まれて、ほとんどメジャー大会のスタートホールの様相。

 その興奮と緊張の中、ウッズ父子はしっかりバーディー発進し、1番、3番、4番、5番とバーディーを重ねていった。

 フェアウエイを捉え、次々にピンそばに付けるなど、戦いの「主役」は出だしからチャーリーくんだった。父親ウッズは前日のプロアマ戦の疲れも出ていたのか、ティショットや長いセカンドショットは、やや精彩を欠いていた。

 7番ではウッズはティショットを打たず、チャーリーくんに任せたが、チャーリーくんはフェアウエイを外してしまうなど、ピンチに見舞われた場面も見られたが、そんなときは父親ウッズが見事なチップ&パットで息子をカバー。6番から9番は、すべてパーで切り抜け、折り返し後は10番、11番、13番、14番、15番と再びバーディーを重ねていった。

 乗用カートを使用していたウッズだが、カートを降りてショット地点へ歩く数歩も、ラウンド終盤は右足をわずかに引きずる仕草が見られ、痛々しかった。

そんな父親の痛みを感じ取っていたのだろう。チャーリーくんの表情には「僕がカバーする」と言わんばかりの気概と責任感が溢れ返っているようで、12歳のジュニアゴルファーというより、しっかりとした意志と戦意を持って戦うアスリートの顔をしていた。

 グリーン上では、ウッズのボールやマーカーを積極的に拾い上げては、慣れた手つきで父親に手渡したり、トスしたりしていた。ウッズが体をかがめて右足に負荷をかけることを最小限に抑えようという気遣いを自然にやってのけるチャーリーくんの姿に、父子の強い絆を感じさせられた。

 最終ホールの18番はパー5。フェアウエイからの2打目は、チャーリーくんがバンカーにつかまり、ウッズはグリーンをわずかに外した。が、チャーリーくんがナイスチップで30センチに寄せ、しっかり沈めてバーディー・フィニッシュ。

 10バーディー、ノーボギーの10アンダー、62で回り、首位のスチュワート・シンク父子から3打差の5位タイで初日を終えた。

「楽しかった。僕もチャーリーも戦うことが大好き。戦うことに慣れることを続けていくことが大事だ。ボギーを1つも叩かなったことは、去年より前進だ。明日は今日より多くのパットを沈めたい」

 18ホールを父子で完走できた喜びとノーボギーで回り切った喜びで、ホールアウト後のウッズには笑顔が溢れていた。

 この日、会場には米ツアーで戦う英国人選手のイアン・ポールターと息子ジョシュアくんがギャラリーとしてやってきて、ジョシュアくんはチャーリーくんと記念撮影をした。

 「かつて僕らがタイガーに憧れたように、ジョシュアは憧れのチャーリーとツーショット撮影。こうやって次なる世代が醸成されていくことは素晴らしい」とポールターは目を細めながら頷いていた。

 ウッズ父子が7位になった昨年大会は、当時11歳だったチャーリーくんが最年少だったが、今年はヘンリック・ステンソンの息子で11歳のカールくんが最年少。前日のプロアマ戦終了後のパーティーでは、ウッズ父子とステンソン父子が4人で仲良く記念撮影。

 PNCチャンピオンシップは、ウッズの復帰戦になるとともに、ジュニアゴルファーたちのデビュー戦となり、観戦している世界中の子どもたちの熱い視線も向けられている。

 そんな今大会に出ている意味を問われたウッズの返答は興味深いものだった。

「試合はむしろイージーなパートであり、ゴルフを向上させるのは、やっぱり日々の練習だ。練習したものを試合で試し、いざミスしたときはどう対応するべきかを経験で学んでいく。近道はない。時間はかかる。忍耐こそが大事なんだ」

 まるで自分自身に言い聞かせるかのように、ウッズが口にした「忍耐」が耳に響いた。

 明日の最終日はマット・クーチャーと息子のキャメロンくんの父子と同組で戦う。右足の状態、思うように飛ばせないショットも多く、焦りや苛立ちもあるのだろう。しかし、忍耐と父子の愛と絆で、明日の2日目を乗り切り、いい結果を得てくれたら、それが世界中の人々への何よりの勇気と元気になる。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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