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コロナ禍に翻弄された双子姉妹ゴルファーが描く未来は「海が見える家と寄付」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
向かって左が姉・明愛、右が妹・千怜(写真提供/岩井家)

 今、日本のゴルフ界で大きな注目を浴びている双子の姉妹がいる。

 埼玉栄高校3年生の18歳、岩井明愛(あきえ=姉)と千怜(ちさと=妹)は、どちらも数々のジュニアタイトルを手に入れており、プロの大会に挑んだ経験もすでに6~7回ずつある。

 昨年は2人揃って日本女子オープンに出場。姉・明愛は14位タイでローアマに輝き、妹・千怜も40位タイと健闘して話題になった。その直後、千怜はスタンレー・レディスで52位タイになり、ローアマを獲得した。

 元々2人は、昨秋にプロテストを受けてプロゴルフの世界へ羽ばたいていくつもりだった。しかし、コロナ禍に見舞われた2020年の7月、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)はプロテストを翌2021年3月以降へ延期することを決め、2人が思い描いていた未来へのプランは大幅変更を余儀なくされた。

 それでも姉妹はすべてを前向きに受け止め、プロゴルファーへの挑戦と大学進学を同時進行していく新たなる道を歩もうと決めている。

 人生の岐路をコロナ禍に翻弄されつつも、気丈に前進し続ける双子姉妹。その素顔を見てみたくなり、とにもかくにも会いに行った。

【「サンタさん」にクラブをおねだり】

 姉妹揃ってトップジュニアになった2人だが、ゴルフのスパルタ教育を受けてきたわけではなく、ゴルフ・オンリーの生活をしてきたわけでもない。ゴルフを始めたきっかけは、むしろ偶然みたいなものだった。

 初めてゴルフクラブを振ったのは家族旅行先で遊び感覚で練習場に行った「4歳か、5歳のころ」だった。その後、「月1ゴルファーだった」という父・雄士が練習場に行く際、「アキちゃんも行く!」「チーちゃんも!」と付いていき、大人用のクラブを1時間以上も夢中で振り続けたのが小学1年生の夏だった。

 その年の12月、「サンタさんにゴルフクラブをお願いしたら、翌朝、ジュニア用クラブが置かれていた」と姉・明愛が話してくれた。

 それから姉妹は練習場に通い始め、翌年からはティーチングプロの指導も受けて、ジュニアの大会にも出始めた。だが、それでもゴルフ一辺倒にはならず、中学時代は陸上に夢中になり、姉・明愛はサッカーにも精を出した。

 両親は2人の自主性を尊重し、好きなことをやらせながら、父・雄士も「一緒に走るようになりました」。2つ年下の弟・光太も一緒に走り、一緒にゴルフクラブを振り、母・恵美子は全員の食事や健康管理にいそしみ、岩井家は毎日が合宿のような日々を送ってきた。

【コロナ禍のプラン変更】

 高校入学を控えたころ、2人は目指すものをゴルフに絞り、「ゴルフが強い高校に入りたい」と考えて埼玉栄高校に進んだ。

 2年生になった2019年、姉妹は「来年の秋に一緒にプロテストを受けよう」と心に決めていた。しかし、高校3年生の昨夏、コロナ禍でプロテストが2021年3月以降へ延期されることが発表され、2人は未来のプランを大幅に描き直す必要に迫られた。

 だが、2人とも持ち前のガッツと笑顔で受け止めた。ゴルフの調子が上がりつつある姉・明愛は「来年まで調子を合わせることを目指してやっていこうと思いました」。妹・千怜は「私はチャンスだと思いました。あまり自信がなくて少し焦っていたので、プロテストまで延期いなって、このチャンスを自分のものにしようと思いました」。

 「最悪のシナリオも、やっぱり考えた」という両親とともに出した結論は、プロへの道と大学進学の道を同時並行で進んでいくというものだった。

 埼玉栄高校を卒業後、2人は今年4月から埼玉県内にある武蔵丘短期大学にスポーツ特待生として進学することが決まっている。

 同大学にはゴルフ部があり、キャンパスにはゴルフ練習場がある。大学と連携している近隣の鳩山カントリークラブやカゴハラゴルフ(練習場)も利用できるため、勉学とゴルフの並走には便利であり、「練習環境がいいので決めました」と姉妹は明かしてくれた。

 入学式と前後しながら、妹・千怜は3月にプロテストの1次試験を受け、突破すれば5月に2次試験、6月に最終試験に挑む。姉・明愛は日本女子オープンのローアマ獲得によって1次、2次が免除されているため、6月の最終試験にいきなり挑む。合格すれば、プロゴルファーでありながら学業も追求する多忙で多彩な生活が待っている。

 双子姉妹が揃ってプロになった例は、日本では2010年にプロテスト合格を果たした久保啓子・宜子や池内絵梨藻・真梨藻、海外でも米ツアーでプレーしたタイ出身で韓国籍のアリー&ナリー・ウォングルキット(後にソンに改名)など数例しかない。

 だが、双子姉妹であることや、これまでに挙げてきた数々の実績もさることながら、私が岩井姉妹に会って一番感じたものは、彼女たちが日本のゴルフの魅力をもっともっと高め、日本のゴルフ文化を向上させていくアンバサダー的な存在になってくれそうだという期待だ。

【「海が見える家」と「寄付」】

 父・雄士は公務員。母・恵美子は看護師。弟・光太も姉たちと同じ埼玉栄高校でゴルフ部に所属しており、現在は3人の子どもたちが熱心にゴルフをやっている。練習やラウンド、大会出場、そのための遠征等々にかかる費用は想像以上だ。「だから月1ゴルファーだった私は、今では自分のゴルフは月1もやらずに我慢しています」と、父親は苦笑気味に明かしてくれた。そんな家庭の台所事情、やりくりしてくれている両親の努力や愛情を、姉妹はしっかり感じ取っている。

 プロゴルファーになって一番やりたいことは何かと尋ねてみたら、もちろん2人とも「勝ちたい」と思っているが、そう答える以前に、姉・明愛はこんな返答をした。

「大きな家を建てたいです。朝日がキラキラ光る海が部屋の中からガラス越しに見えるような大きな家を建てて、家族みんなで住みたいです」

 妹・千怜は「プロになって、賞金を稼いで、困っている人たちのために寄付をしたい。私たちにゴルフをさせてくれている両親や祖父母にも恩返しをしたいです」。

 岩井家には「4つの教え」があるそうだ。「人にされて嫌なことはするな」「一人ぼっちの人がいたら仲間に入れる」「困っている人がいたら助ける」「幼い子や女の子、弱い人には優しくする」。

 強いゴルファー、上手いゴルファーを目指す以前に、一人の良き人間になることを教えられて育った岩井姉妹は、だからこそ優しさや思いやり、感謝の心を抱き、お金の大切やありがたさも肌身で感じ、コロナ禍にもめげることなく、ポジティブ思考で前進している。

 そんな岩井姉妹のこれからの歩みが楽しみでならない。成績も楽しみだが、2人の成長がこれからの日本のゴルフ界の明るい希望になってくれそうで、それが何より楽しみでならない。

笑顔でインタビューに応えてくれた岩井姉妹。向かって左が姉・明愛、右が妹・千怜(写真提供/武蔵丘短期大学)
笑顔でインタビューに応えてくれた岩井姉妹。向かって左が姉・明愛、右が妹・千怜(写真提供/武蔵丘短期大学)

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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