ウッズ悲痛「一線を越えてしまった、、、」。人種差別問題に声を上げた米ゴルフ界の反応

タイガー・ウッズと父アール(故人)は人種差別のないゴルフ界を作りたいと願ってきた(写真:ロイター/アフロ)

 米ミネソタ州で白人警官の暴行により黒人男性が死亡した事件に対する抗議活動、そして人種差別に対する抗議活動は、全米各地へ、そして世界へも広がっている。

 これに対する米ゴルフ界の反応は、どちらかと言えば、スローだ。

 米ツアー選手の中でまず声を上げたのは、黒人選手のハロルド・バーナー、そしてタイガー・ウッズ。バーナーは「肌の色に関わらず、我々は(差別社会を)変えるため、お互いを必要としているんだ」とツイート。ウッズは「今回のショッキングな惨事は、明らかに一線を越えてしまった」と悲痛な声を発信した。

 米ツアーはウッズらのツイートをリツイートしたものの、それ以上のリアクションはあえて控えて静観しようとしている様子。

 そんな中、ブルックス・ケプカやリッキー・ファウラーなど数人の白人選手たちは、他のフィールドのアスリートらとともに真っ黒な写真をインスタグラムに投降して人種差別への抗議の意を示した。

 が、これには「ゴルフだけに集中しろ」などと批判が殺到したというから、この反応はケプカやファウラーにしてみれば、まったくの予想外だったに違いない。

 米ツアーは6月11日のチャールズ・シュワッブ・チャレンジから再開される予定で動いており、当面、選手やキャディらは米ツアーのチャーター機に乗って試合から試合へと集団で移動することになる。

 バーナーは、そのチャーター機の中で、人種差別の問題や今回の事件や抗議活動に関する「たくさんのトーク、たくさんの会話ができるはずだ。正直な話がしたい」と願いを込めて語っている。

 だが、国籍も人種もバラバラな150名超の選手やキャディたちが、チャーター機の機内で忌憚のない意見を交換し合うことは、果たして、できるのだろうか。

【黒人も白人も声を上げた】

 米ゴルフウィーク誌が「大きく耳を傾けよう:人種主義とゴルフ」と題し、米ゴルフ界に身を置く14名の言葉をそれぞれ1人称で綴る記事を発信していた。その記事の中で、自身の声を綴った大半は、黒人やアジア人などの非白人で、人種差別を受けた体験談が主体だった。

 米女子ツアー(LPGA)でプレーする黒人選手のマリア・スタックハウスはこう言っている。

「それは、いつも直接的だったり、暴力的だったりするわけではない。日常の些細なことの中で人種差別を感じることが多い」

 彼女はトーナメント会場でロッカールームに入ろうとした際、白人の警備員から呼び止められ、ID提示を求められたそうだ。

「私のIDに『プレーヤー』と書かれているのを見て、警備員は仲間の警備員に大声で『プレーヤーだってさ』と言い、IDを私へ返してからも、『へっ、プレーヤーなのかよ?』と不快そうな態度だった」

 そういう積み重ねに傷つくのだと彼女は綴っていた。

 素晴らしいと感じたのは、その記事の中で声を綴った人々の中に白人も含まれていたことだ。筆頭は、米LPGAのマイケル・ワン会長だったから、さらに驚かされた。

 ワン会長は20代後半のころ、プロクター&ギャンブルに勤務し、ブランド・マネージャーをしていたそうだが、その時代に人種の多様性へどう対応していくべきかという教育を徹底して受けたそうで、その経験がゴルフ界のリーダーを務めている今、とても役立っていると綴っている。

 米男子ツアーの選手で、現在は難病と闘病中のモーガン・ホフマンも白人として胸の内を綴った数少ない1人だ。そして、ホフマンの声は、強烈で驚かされた。

「僕の父親は極端な人種差別主義者で、だから僕は16歳のとき、自分の意志で家を出て、以来、実家には帰っていない。そういう人生の中で、僕は自分が持っているものとは何なのかを学んだんだ、、、、」

「今、抗議活動が起こっていること、大勢の人々が声を上げていることは、とても良いことだと僕は思う」

【ドリンクは「水撒き用の水道の蛇口」?】

 人種差別の問題は、あまりにも根深い。いろんな背景や社会情勢とあいまって複雑に絡み合うため、米国の人々でもその問題の根底にあるものを理解したり、解決策を見出したりすることが難しく、外国人にはまずもって理解不能だと私は思う。

 だが、この私も、マイノリティの外国人だからこそ体験したことを、ここで伝えることはできる。

 前述した米LPGAのスタックハウス選手の言葉が、私には我がコトのように感じられ、思わず頷かされた。

「日常の些細なことの中で人種差別を感じる」

 1990年代半ばごろ、私はジョージア州アトランタに住み、当時は自分のゴルフの腕を上げようと必死だった。あるとき、USGAハンディキャップが1桁まで向上したら、州の女子オープン出場資格が得られた。

 指定練習日に試合会場となる州内の名門コースへ1人で行った。巨大な施設だったので、右も左もわからず、受付をした際に「とても喉が渇いているので飲み物を買いたいんだけど、どこへ行けばいいですか?」と白人の若い従業員に尋ねた。

「ドアを出て、右に曲がって、右手の丘をどんどん登っていくと、そのてっぺんにありますよ」

「サンキュー!」

 私は言われた通り、すぐさま歩いて、一生懸命に丘を登った。てっぺんにあったのは、メンテナンスの際にコースに水を撒くための水道の蛇口だけだった。

 もしかしたら、白人の従業員にとっては軽い冗談のつもりだったのかもしれない。だが、悪気のないつもりであっても、そういう表現が誰かを傷つけることはしばしば起こり、あからさまではない差別、ちょっとした会話などの中にひそめられた差別は、私が米国で暮らした四半世紀の間、ずっとあり続け、残念ながら今もある。

 それに対して、ゴルフ界という1つの世界に何ができるのかと問われたら、そんな大きなチカラは、ないのかもしれない。

 だが、黒人やマイノリティの選手たち、大学ゴルフ部などの指導者たち、インストラクターたちのように、勇気を出して声を発することはできる。そして、ワン会長やホフマンのように、白人の立場から声を上げることは、一層大きな意味を持つ。

 どんな小さな声であっても、沈黙や黙認とは異なり、何かしらのチカラになるはず。私は、そう信じたい。

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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