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厳罰化され、リストアップされる米ツアーのスロープレー新規定、戦々恐々と迎える選手、平然と迎える選手

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
ブライソン・デシャンボーはスロープレー常習だが、これからどうなる?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 米ツアーが2020年の年明けにスロープレー取り締まりのための新規定を発表することは、すでに昨秋から噂されていたが、今週のザ・アメリカンエキスプレス会場で、ついに米ツアーが新規定の内容を発表。大きな注目を集めている。

 新規定の最大の特徴は、これまでの「組」対象を「個人」対象に変更するという点だ。従来の規定では、前の組との間隔を空けてしまって「アウト・オブ・ポジション」とみなされたら、その組全体に対して警告や計測が行なわれていた。

 しかし、この「共同責任」方式では、スロープレーヤーと同じ組になってしまった選手が巻き込まれてしまうため、アンフェアだという批判や不満が以前から噴出していた。そうした声を受け、「組」ではなく「スロープレーヤー個人の(悪)習慣にフォーカスする」ために米ツアーが考案したのが今回の新規定だとされている。

 その内容は、プレーが遅いスロープレー常習者には厳しいペナルティを科す一方で、スローではないプレーヤーにはほとんど影響はなく、スロープレーヤーの巻き添えになる危険性も減るであろうフェアなものと言えそうだ。

【1日2回→1試合2回の厳罰化】

 まず着目すべきは、ペナルティの厳罰化だ。従来の規定では、1ショット40秒以内(最初に打つ選手のみ+10秒)の「持ち時間」を越えた場合が警告対象となり、1ラウンドに警告2回で1罰打とされていたが、新規定では1試合に警告2回で1罰打となる。

 わかりやすく言えば、たとえば、これまでは仮に毎日1回ずつ警告を受けながら4日間をプレーし、1試合に合計4回警告を受けたとしてもペナルティを科されることはなかった。だが、新規定では1試合に2度目の警告を受けた時点で1ペナを科されるわけで、そのぶん常習者には厳しいものとなる。

 さらに、2度目の警告を受けて1罰打を科されると、同時に5万ドルの罰金、3度目の警告でさらに2万ドルの罰金。別の試合で再度、同じように2度以上の警告を受けて1罰打を科されたら、さらに2万ドルの罰金となる。ちなみに、スロープレーヤーたちから支払われた罰金は米ツアーのチャリティ寄金に回されるそうだ。

【常習者をリスト化、非公開】

 新規定のもう1つの大きな特徴は、スロープレー常習者の名前を載せたリストを作成し、厳罰を科していくという点だ。

 米ツアーは日頃から「ショットリンク」という高度なデータ収集分析システムを利用して選手たちのショットやパットの統計を一般に公開しているが、その「ショットリンク」システムを活用し、選手1人1人の過去10試合における1ショットに要する平均所要時間を算出。毎ショットに平均45秒以上をかけている選手は「オブザーベーション・リスト」というものに名前が載せられる。これは、いわば「スロープレー常習者リスト」だ。さらに、前述した「警告2回で1罰打」を科された選手も、このリストに名前が載せられる。

 ひとたびリストアップされた選手は、以後、どんな状況においても「必ず1ショットを60秒以内でプレーしなければならない」と規定され、それを超えた場合は、現場にいるルール委員のその場の判断によって、即座に計測開始が可能になる。

 つまり、リスト入りしたスロープレー常習者には、計測という呪縛が有無を言わさず終始付いて回るという意味合いを持つ。

さらに、正当な理由なく1ショットに120秒以上を費やした場合は「極端なショットタイム」をかけたとして、ペナルティを科せられ、これを1試合に2度やると、やはりオブザーベーション・リスト入りする。

 ちなみに、オブザーベーション・リストはツアー側から選手へ文書等で通達される。データは毎ラウンド、きちんと収集され、毎週、きっちり更新されることになっているが、リストそのものはメディアや一般へは非公開だそうだ。

【ようやく腰を上げた?】

 ペース・オブ・プレーの問題、いわゆる「スロープレー問題」が取り沙汰され、米ツアーが取り締まりのための規定を設けたのは1994年まで遡る。

 しかし、米ツアーでスロープレーによる罰打を実際に科されたのは、翌95年のグレン・デイ以降、1人もいないというのはウソのような本当の事実だ(注・2017年にチーム戦で2名1組が1ペナを科されたケースはある)。

 

 その一方で、マスターズ委員会や全英オープンを主催するR&Aなどはスロープレー取り締まりに積極姿勢を見せ、近年も2013年マスターズで関天朗、同年の全英オープンで松山英樹に実際に罰打を科した。欧州ツアーも今年の年明けから取り締まり強化を開始している。

 そんな中、世界のトッププレーヤーたちが競い合う米ツアーでは、ブライソン・デシャンボーやJBホームズらを筆頭とする数名のスロープレーぶりが何度も問題化しているというのに、相変わらず実際に罰打が科されないのは「甘やかしすぎだ」と内外から批判が続出していた。

 そうした批判を受けて考案され、このたび発表された新規定は、罰打や罰金が強化され、嫌なリストに載せられるという「恐怖心」や「不名誉」を与えることでスロープレーを撲滅することが狙いである。

 着目すべきは、新しく定められた規定がいずれもスロープレー常習者に向けられたものばかりであること。

 言い換えれば、スロープレーヤーではない「健全なプレーヤー」「クイックプレーヤー」であれば、今まで通り、1ショット40秒以内の「持ち時間」だけを頭に置いていれば、それだけでOKということ。新規定が実施されようとも、自身は何も変える必要はなく、これまでのように同組のスロープレーヤーの巻き添えになることもなくなり、すべてはハッピーということになる。

 新規定は今年4月のザ・ヘリテージから実施される予定。このタイミングを戦々恐々しながら迎える選手もいれば、平然と迎える選手もいることになる。

 果たして、新規定の効果はどう出るか。その成り行きから目が離せない。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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