今季3勝目、通算17勝目を挙げた石川遼、成功を支えるものは何なのか?

研究熱心、練習熱心、努力の賜物。そして、もう1つ、石川には大きな魅力がある(写真:Haruhiko Otsuka/アフロ)

 石川遼が男子ツアーの今季最終戦、日本シリーズJTカップを制し、2015年以来の大会2勝目、通算17勝目を挙げた。

 

 28歳での生涯獲得賞金10億円突破は史上最年少となったが、そんな記録更新もさることながら、石川の土壇場の強さと弾ける笑顔を見て、日本のゴルフファンの多くが「良かったね」と心の底から拍手を送ったのではないだろうか。

【成功をもたらしたもの】

 日本プロゴルフ選手権と長嶋茂雄招待セガサミーカップを連勝した快挙に続く今季3勝目。石川にこの成功をもたらしたものは何だったのか?この成功の秘密は何なのか?そう考えたとき、浮かんでくる答えはいくつかある。

 人一倍、研究熱心で練習熱心な石川の努力のたまものであることは言うまでもない。たゆまぬ努力の結果、彼の技術が一層磨かれたからこそ、今季の3試合で、誰よりもいいスコアで回り切ることができた。

 長年、悩まされ続けてきた腰痛は常に石川の最大の敵だった。実際、「今年の春まで腰痛との戦いだった」と振り返ったシーズン序盤は、欠場や棄権を余儀なくされたこともあった。

 だが、「今年5月ごろからトレーニングをきつくして腰痛が改善された。プロになった16歳以来、今が一番いい状態でプレーできている。やりたいスイングができている」。うれしそうにそう語ったのは10月のZOZOチャンピオンシップのときだった。

 「技」も「体」も、いい状態であることを石川自身が実感しており、それが夏場の2勝に結び付いたことで、結果に裏打ちされた自信が高まり、「心」もいい状態だったのだと思う。大事な試合に臨むとき、心技体すべてが良好である状態を作り出すことは「言うは易し、行なうは難し」。それが実現されたことが、今季の石川の大きな成功につながった。

【最大の理由】

 だが、山あり谷ありだった険しい道を石川が歩み続けることができている最大の理由は、「心技体」以外のところにあると私は思う。「ハニカミ王子」時代から12年超、彼が長年、日本中から愛され続けている最大の理由は、彼のゴルフそのものというより、彼の人間性や人柄によるところが大きいのではないだろうか。

 華々しく日本ゴルフ界にデビューし、世界の注目を浴びながらマスターズに初出場し、米ツアーに挑み始めてから今日に至るまで、石川の人生とキャリアには本当にいろいろなことが起こってきたが、どんなときも、どんなに辛く悔しいときでも、彼が決して失わなかったのは謙虚な姿勢と感謝の気持ちだった。

 「20歳でマスターズ優勝」を夢見て出場していた18歳のときのマスターズ。前年に続いて予選落ちとなった石川は日本メディアの取材に臨もうとしたそのとき、溢れ出した悔し涙を止めることができなかった。

 涙と鼻水に濡れ、すっかり泣き顔になってしまった石川は、それでも日本メディアの群れの中に自ら歩み寄り、取材に応じようとした。最前列に立っていた私は、思わずティッシュペーパーを彼の手に握らせ、彼は涙声で「すいません」と言いながら涙を拭き、鼻をかんだ。

 囲み取材が終わり、その場を離れて歩き始めた私を、驚くなかれ、石川が追いかけてきた。ティッシュペーパーの包みの残りを両手で差し出しながら、「ありがとうございました」と彼は深々と頭を下げた。

 そうやって、ほんの小さな親切にも大きな感謝の気持ちを抱き、丁寧に謙虚に行動する。そんな石川の人柄が魅力となって溢れ出す。だから彼は多くのファンを惹きつけていることを、私はあのとき強く実感した。

【昔も今も】

 まだ18歳の若さだったから初々しかったのかと言えば、そうではなく、彼はその後も謙虚であり続けている。

 あれは、石川が米ツアーに参戦していた2017年の春のこと。ある試合会場で1対1のインタビューに応じてくれた石川は「あそこなら座って話ができますから」と言って、選手専用のラウンジを指さした。

 メディアのクレデンシャルではそこへ入室できない私のために、彼は別のクレデンシャルをどこかから持ってきて、私を招き入れてくれた。

 ラウンジ内にいた選手はほんの2、3名で、まばらだった。そのせいか、ドリンク類はセルフサービスの様子。すると石川は「舩越さん、何がいいですか?コーヒーですか?」と、私の飲み物まで用意してくれそうになり、「ああ、いえいえ、自分でやります。ありがとうございます」と慌てて遮ったほどだった。

 

 取材は「応じる」のではなく「取材していただいている」と石川は常に言う。そんな感謝の気持ちが謙虚な言動となって表れるのだろう。だからこそ、魅力的。あのときも私は、そう感じさせられた。

 そして28歳になった今でも、石川はやっぱり謙虚で親切で礼儀正しい。10月のZOZOチャンピオンシップの会見の際、壇上に座った彼は久しぶりに会った私に気付くと、壇上からわざわざ会釈をしてくれた。それは壇上に座った選手が滅多に取ることのない行動と言っていい。

 その前日のプロアマ大会でのこと。スタートホールのティグラウンドでは、係員が各組のアマチュア参加者たちにルールや決まりを説明していた。その様子をつぶさに観察していた大会運営スタッフの一人が、後日、こんなことを言っていた。

「石川遼はその説明を自分と同組のアマチュアたちと一緒に聞いていて、誰かが説明にちょっとでも首を傾げると、そのたびに丁寧に補足説明をしてあげていて、びっくりしました。アマチュアが説明受けているとき、傍にも来ず、離れたところで知らんぷりしていた選手も見かけましたけど、それと比べると、遼くんって本当にいい人なんだなあって思いました」

 魅力を知ったら、みんな好きになり、ファンになり、応援したい、応援しようと思うようになる。石川の人柄や姿勢が、そうさせる。たくさんの人々の応援がさらなる力になって石川を押し上げる。

 それが、石川の山あり谷ありの歩みを支え、石川自身を激励し、鼓舞し、だから彼は見事に復活の花を咲かせた。石川の優勝は、みんなの思いが実った優勝でもある。サンデーナイトから日本中で石川優勝のニュースが踊っている様子を眺めながら、彼の感謝の心と謙虚な人柄をしみじみ想っている。

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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