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全米プロ、普通に考えればB・ケプカの完全優勝だが、松山英樹の大逆転勝利にも「0.9%」の可能性

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
2位に7打差の単独首位。ケプカの勝率は87.2%だが、一抹の不安も感じられる(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 全米プロ3日目が終わり、依然、ブルックス・ケプカ(米)が首位を独走している。

 初日にマークした「63」は戦いの舞台であるべスページ・ブラックのコースレコードだった。「65」で回った2日目を終えて、通算「128」は36ホールの大会最少スコア記録。そして、3日目はイーブンパー「70」で回り、通算12アンダー。2位と7打差は54ホールの大会記録だ。

 そんなふうに記録づくめの3日間を披露したケプカが、明日の最終日も単独首位を守り切り、完全優勝を遂げる可能性は、普通に考えれば、濃厚である。あくまでも「普通に考えれば」――。

 29歳のケプカは米ツアー通算5勝だが、5勝のうちの3勝がメジャー優勝だ。2017年全米オープンでメジャー初優勝、2018年に全米オープン連覇を果たし、その2か月後に全米プロも制して瞬く間にメジャー3勝を達成。世界ランキング1位にも輝いた。

 米メディアはケプカを「ザ・メジャー・マン」と呼んでいる。そんなケプカが明日の最終日にメジャー4勝目を達成する確率は、きわめて高い。しかし、それでもなお、一抹の不安がある。3日目のラウンド中、ケプカに笑顔はほとんど見られなかった。

「コース上で僕は誰よりもフォーカスしていた」

 ケプカの言葉通り、厳しい表情が高い集中力の反映だったのだとすれば、それはそれで納得がいく。まだ3日目、残る1日こそが勝負ゆえ、緊張感を維持しているがゆえの厳しい表情だったのだとすれば、それもそれで頷ける。

 しかし、ラウンド後もケプカの表情は険しく、その険しさの中に一抹の不安が垣間見えた気がしてならない。

【“Aゲーム”ではない】

 ケプカの厳しい表情が「集中力」や「緊張感」の反映であれば、それは彼の明日の勝利につながるものだ。しかし、もしもケプカの厳しい表情が「フラストレーション」の反映だったとしたら、明日の最終日、何が起こるかはわからない。

 コースレコードの「63」で回った初日のラウンド後はケプカは自身のゴルフに満足していたが、65で回った2日目のラウンド後は不満を露わにした。

「今日はバトルだった。昨日(初日)のような“Aゲーム”ではなかった。それなのにグッドスコアが出せたことには自分でも驚きだ」

 

 半ば自虐的なコメントを口にし、すぐさま練習場へ向かい、球を打ち続けたところにも、ケプカのフラストレーションがありありと見て取れた。

 それでも7打差で単独首位だったのは、2日間でわずか55パットというパットの冴えのおかげだった。

「これまでで最もいい感じ。今、1ピン(約2メートル半)以内なら世界の名手の一人だと自負できる」

 しかし、3日目はショートパットを外し、3パットする場面も見られた。3バーディー、3ボギーでイーブンパー、70。崩れることなく堂々首位を守ったが、スコアを伸ばすことはできず、2位との差は前日同様、7打差のままだ。

「いくつか短いパットを外したが、昨日(2日目)よりはいい」

 ショットは前日より改善されたが、前日までは一番の要だったパットがやや揺らいだこと、スコアを伸ばせなかったことは、3日目も彼のゲーム全体が“Aゲーム”ではなかったことを意味していた。

 その不満を活力に変え、明日の最終日を“Aゲーム”に持っていければ、彼のメジャー4勝目は達成される。

 だが、日に日に募らせているフラストレーションが、最終日の彼のゴルフを阻害する要因になってしまう可能性もゼロではない。

それが杞憂なら、それにこしたことはない。だが、その小さな可能性に一抹の不安もよぎる。

【独走態勢には脆弱さもある】

 米国に「Eagle(イーグル)」というゴルフの予想システムがある。エコノミストらが専門知識や手法を駆使し、ゴルフの大会で起こりうるあらゆる状況を考慮し、1億4000万超の仮設を立てて18ホール各ホールごとに1000回以上のシュミレーションを行なって、選手一人一人の勝率を弾き出している。

 全米プロ開幕前、「Eagle」が算出したケプカの勝率は、わずか2.6%だった。しかし、ケプカ独走態勢となった2日目後、彼の勝率は67.4%へ急上昇し、第3ラウンド終了直後は87.2%まで跳ね上がっている。

 2位タイのダスティン・ジョンソンの勝率は4.4%。そして、6位タイの松山英樹は0.9%。普通に考えれば、ケプカ優勝は濃厚である(注・勝率は時々刻々と変化する)。

 しかし、可能性がゼロではない限り、何かが起こる可能性はある。大差を付けての独走態勢というものは、単独首位にいるたった一人が崩れたら、追随する多くの選手たちに一気にチャンスが訪れるという脆弱さと背中合わせだ。

  3日目の上がり2ホールを連続バーディーで締め括った松山は「伸ばせたので良かった」と、ケプカとは対照的な明るい表情を見せていた。

 ケプカと松山は現在8打差。計算上はケプカが4つ落として松山が4つ伸ばせば並ぶことになり、それ以上に松山が伸ばせれば、大どんでん返しも起こりうる。

 世界の多くは「87.2%」の確率が示す通り、ケプカの勝利を予想している。だが、私はケプカの3日間のゴルフや表情の中に一抹の不安を感じている。

 そして、日本のゴルフファンは、松山の大逆転勝利に望みをつないでいる。果たして松山は、わずか「0.9%」の確率をモノにすることができるだろうか。

 明日の最終日は、目が離せない。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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