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動いているボールを打ち返したフィル・ミケルソンが謝罪

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
問題の13番で最終日に大袈裟なポーズを取ったミケルソンに観衆は冷ややかだった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 全米オープン3日目にシネコックヒルズの13番グリーン上で動いているボールをパターで打ち返し、「2罰打を受けるルールを活用した」と主張して物議を醸していたフィル・ミケルソンが「もっと早く謝るべきだった」「恥ずかしく、残念な行為だった」「ごめんなさい」という謝罪の言葉を一部の米メディアに送った。

 コトの次第をざっと振り返ってみよう。大会3日目の16日、土曜日はUSGA(全米ゴルフ協会)の予測を上回る日照りと強風の影響でシネコックヒルズのコース全体が干上がり、とりわけグリーンはコンクリートのように固くなり、下り傾斜になるとボールがどこまでも転がってしまうほど状態が悪化していた。

 「もはやプレー不能」と批判の声が上がっていた状況下、ミケルソンは13番のグリーン周りで右往左往した末、5打目に当たるファーストパットがグリーン外へ転がり出そうな勢いで転がり始めると、ボールを追いかけ、手にしていたパターで打ち返した。

 動いているボールを打った場合は2罰打が科せられる。が、動いているボールを意図的に打つ行為はゴルフにおいてご法度である。重大なルール違反行為に及んだ場合は失格になるという条項もルールブックには記載されている。

 なぜ、動いているボールを打ったのか。ミケルソンは、グリーン上やグリーン周りでさらに右往左往するより、「あえて2罰打を受けた」と語り、ルールの活用を主張。

 USGAのルール委員会もミケルソンの主張を認め、「2罰打のみ」を適用。そして「単にボールを打ち返しただけで重大な違反行為ではないので失格には当たらない」という裁定を下した。

 しかし、他選手や関係者、ファン、メディアからは批判の声が上がり、米メディアも「失格にすべきだったのでは?」「ミケルソンは自ら最終日を棄権すべきではないか?」と厳しいトーンで報じた。

 だが、ミケルソンは最終日もシネコックヒルズにやってきて、リッキー・ファウラーと同組でプレー。69で回り、48位タイで4日間を終えたが、待ち構えていた大勢のメディアを振り切り、取材を拒否して去っていった。

 その間、ミケルソンの妻エイミーは「フィルは3日目のラウンド後、(宿に戻ってから)批判の嵐が起こっていることを初めて知り、すぐにUSGAに電話をかけて、棄権すべきかと尋ねました。でもUSGAはルールの範囲内だから棄権する必要はないと答え、それでフィルは最終日もプレーしたんです」と一部のメディアに明かした。

 そして、問題の一件から4日後の20日早朝、ミケルソン自身が数人のメディアに謝罪の言葉を送った。

「もっと早くこうして謝罪すべきだったことは承知しています。でも、冷静になるまでに数日間が必要でした。あの週末は僕の怒りとフラストレーションが頂点に達してしまいました。恥ずかしく、残念な行為でした。胸を張れる瞬間ではなかったことは明らか。ごめんなさい」

 アメリカの国民的スター、ファンサービスを誰よりも熱心に行なう偶像的存在。そんなミケルソンが、優勝を悲願に掲げる全米オープンという場で、こともあろうに動いているボールをあえて打つという行為に及んだことは、誰にとっても驚きだった。

 だが、自分でも信じられないようなあやまちをおかしてしまうことは、きっと誰にもあるだろう。もちろん、今回の一件はミケルソンのどんなエクスキューズも聞き入れられないことは言うまでもない。しかし、一度だけのあやまちは、彼がこうして真摯に謝罪したのだから、許されてもいいのではないか。

 私は、今、そう思っている。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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