小平智、勝つべくして、堂々勝利した米ツアー初優勝までの軌跡

今年は必死に出場したマスターズもすでに来年の出場が決まり、可能性は広がるばかり(写真:ロイター/アフロ)

 小平智がRBCヘリテージをプレーオフで制し、米ツアー初優勝を遂げた。

 最終日、小平は首位を走っていたキム・シウから2打差の2位で先にホールアウトしたが、キムが後半に3つスコアを落とし、通算12アンダーで小平と並んでサドンデス・プレーオフへ突入。

 3ホール目の17番(パー3)で7メートルの長いバーディーパットを沈め、拳を握り締めてガッツポーズを取った小平を眺めながら、彼の歩みを思い返した。

【骨のある28歳】

 思えば、昨年の全米オープンを皮切りに、世界選手権シリーズのブリヂストン招待や全米プロといった世界の舞台で小平に会ったとき、彼はいつも「明日は60台を出したい」と言い続け、しかし、なかなかその目標を達成することができなかった。

 夏場には「クラブが割れてから、スイングが悪くなった。それまでできていたことが、できなくなった」と苦しんできた。

 世界ランキング50位以内でマスターズ出場という夢も、昨年末、実現しかけていたのに、ぎりぎりで圏外へ弾き出され、悔しさを噛み締めた。

 マスターズ直前までに世界ランキング50位以内を再度目指すラストチャンスに賭け、1月からアジアやメキシコ、アメリカで試合に出続けた。だが、スイングはなかなか改善されず、成績も振るわなかった。

メキシコ選手権のころは、おかしくなっていたスイングを取り戻そうともがいていた(写真/舩越園子)
メキシコ選手権のころは、おかしくなっていたスイングを取り戻そうともがいていた(写真/舩越園子)

 メキシコ選手権の開幕前、「今はマスターズ出場を目指すことが最大の目標ですよね?」と単刀直入に尋ねたら、小平は「いや、マスターズのことは、あんまり考えてません」。

「あえて考えないようにしている?」と問い直すと、「いや、本当に考えてない」。その返答は、小平の精一杯の強がりなのか、あるいは負け惜しみのフレーズなのかと最初は思った。

 だが、よくよく聞いてみると、なるほどと頷けた。

「僕は、ただマスターズに出られればいいっっていうだけでは嫌なんです。出る以上は、やれると思って出なければ意味がない」

 その後の成績次第で、もしオーガスタへの切符が手に入るのだとしたら、そのときに「僕は、やれる」と胸を張ってマグノリアレーンをくぐれるだけの技術をまずは身に付けておかなければいない。

 だから今は「自分のゴルフを良くすることしか考えてない」。だから「マスターズのことは本当に考えてない」。

 なるほど。なかなか骨のある28歳だと大いに感心させられた。

【これからは、良くなるばかり】

 そのメキシコ選手権は54位と下位に終わり、続くアーノルド・パーマー招待は予選落ち。だが、“異変”が見られたのは、その翌週のマッチプレー選手権の2日目だった。

フィル・ミケルソンと対戦したマッチプレー選手権2日目。最終的には敗北したが小平が自信を膨らませ、調子を上げるきっかけになった(写真/舩越園子)
フィル・ミケルソンと対戦したマッチプレー選手権2日目。最終的には敗北したが小平が自信を膨らませ、調子を上げるきっかけになった(写真/舩越園子)

 小平の対戦相手は、米国の国民的人気を誇り、メキシコ選手権で復活優勝を遂げたばかりだった上り調子の47歳、フィル・ミケルソン。誰もがミケルソンの圧勝を予想していたが、小平は前半で4アップまでリードを広げ、周囲を驚かせた。

「KODAIRA?WHO?」

 小柄ながら精緻なゴルフを披露していたジャパニーズ・プレーヤーに米メディアも大いなる興味を示し始めていた。最終的には上がり3ホールでミケルソンに追いつかれ、追い抜かれ、敗北。マッチプレー選手権では3日間3マッチを全敗する結果になったが、ミケルソンと同等と渡り合ったことは「自信になった」。

 そして「スイングが良くなる兆しが見えた。これからは、良くなることはあっても悪くなることはない」と胸を張り、世界ランキング46位でマスターズ出場が確定したときは、出られることを喜ぶ以上に、オーガスタで戦う準備が「間に合った」ことを喜んだ。

 そうやって小平は着々と前進していた。

【マスターズ28位でも“やれた感”7割】

 マスターズ開幕前。あるゴルフ雑誌で小平のマスターズまでの軌跡を特集する記事に「久々に現れた骨のある日本男児って書いたから、頑張ってね」と声をかけると、小平は「はい、ありがとうございます。頑張ります」と、うれしそうに笑った。

 彼はいつも有言実行だ。初出場ながら好発進を切り、余裕で予選を突破した小平は、トップ10入りも夢ではないほどのプレーで健闘し、最終順位は28位。

 目指していた「やれたかどうか」の手ごたえは「7割ですかねえ」と答え、初出場なりの知識や経験の不足により「マネジメントがまだできてない。もうちょい、できた。60台が出せなかった。また戻ってきて60台を出したい」と、さらに上を向いていた。

【入るべくして入った】

 その翌週のRBCヘリテージ優勝は、悔しい想いを重ねてきた小平が、数々の後悔や失敗をすべて実現させるべく挑んだ大会になった。

 初日に73を叩き、82位タイと大きく出遅れながら、2日目に63をマークして一気に巻き返し、3日目もアンダーパーの70で回り、首位から6打差の12位で最終日へ。

 その動きをもしも折れ線グラフにしてみたら、米ツアーのQスクール(予選会)を突破できずとも米ツアーへの道を諦めず、根気よくチャンスを伺ってきたこの5年間の彼の歩みを示すグラフと同じ山谷を描くはず。

 そして最終日、3連続バーディーで発進し、勢いづいていながら、8番で喫したボギーが悔やまれ、後半も3つバーディーを奪いながら終盤17番で喫したボギーが小平にとっては痛恨になった。

「達成感というより悔いが残る」

 首位から2打差の2位でホールアウトしたとき、小平はすでにトップ10入りしたことで出場できる次週のことを考えていた。

「来週出れるので、チャンスがあればモノにしたい」

 だが、ゴルフも世の中も、いつ何が起こるかは本当にわからない。「チャンス」は次週ではなく、その日のうちに到来した。首位だったキムがスコアを落とし、サドンデス・プレーオフへ。そして3ホール目で小平が勝利。

 それは、プレーオフ3ホールのみならず、ヘリテージの最終日のみならず、この大会の4日間のみならず、小平が今年になって挑んだ米ツアー6試合すべて、彼がこれまで挑んだ米ツアー15試合すべて、いやいや米ツアーのQスクールにひっそり挑んだ5年前から今日の日まで、すべての歩みの結実。

 堂々の歩み、堂々の勝利だった。

 日本人による米ツアー制覇は史上5人目。米ツアー15試合目の初優勝は日本人最速。そして、今年はRBCヘリテージ50周年の節目の年。「第1回(1969年)でアーノルド・パーマーが優勝したすごい試合。歴代優勝者もすごい選手ばかり。自分がそこに入れるとは思っていなかった」。

 いや、小平の歩みと意志の強さとたくましい精神力、それらに支えられ、向上した彼の技術力をもってすれば、入るべくして入った――そう頷ける勝利だった。

東京都出身。早稲田大学政経学部経済学科卒業。百貨店勤務、広告代理店勤務後、89年に独立。93年にゴルフジャーナリストとして渡米以降、米国に常駐。米ツアー選手や関係者たちと直に接しながら築いた信頼関係、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの面白さ、厳しさなどを独特の表現でときに優しく、ときに厳しく発信し続けている。選手のヒューマンな一面を描き出しては綴る“舩越節”、”園子節”には根強いファンが多い。

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