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サンクスギビングのお祭り気分も吹っ飛ぶ!?米ゴルフ界のボール規制への喧騒

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
タイガー・ウッズの影響力はやっぱり多大。あちらこちらが反応しているが、、、(写真:ロイター/アフロ)

 米国はサンクスギビングを迎えているが、米ゴルフ界はやけに騒々しく、和やかなホリデー気分とは、ほど遠い。

 コトの発端は、やっぱりこの人、タイガー・ウッズ。近年のゴルフボールの進化がゴルフコースに与える影響を危惧したウッズがESPN局のポッドキャスト上で警鐘を鳴らした発言が、ゴルフ関連団体や用具メーカーなどへ、いろんな形で飛び火しているのだ。

 ウッズの発言とは、以下のようなものだった。

「ゴルフボールに対しては、何か手を打たなければいけないと思う。このままボールが進化し続ければ、8000ヤードのゴルフコースが必要になる日も決して遠くない。

それは、恐ろしいことだ。そんなコースを(あちらこちらに)造るに足る十分な土地はなく、ゴルフにまつわる様々な状況を複雑化するだけだ」

 近代テクノロジーを駆使して開発されたボールを使用することで、選手たちの飛距離が格段に伸びている昨今。そのままだとスコアが伸びすぎて、エキサイティングな試合展開にはならないという考えに基づき、近年、ゴルフコースは全長あるいは各ホールの距離がどんどん伸ばされている。

 かつては6000ヤード台だったコース全長が7000ヤードを越え、7500ヤードを越え、今年の全米オープンは史上最長の7741ヤード。ウッズは、そうやって「いずれは8000ヤードになる」事態を危惧し、警鐘を鳴らしたのである。

【ボール規制賛成派は多数派だが、、、、】

 実を言えば、ここ数年、ゴルフ界のレジェンドたちも同様の危惧の念を口にしてきた。ジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤー、グレッグ・ノーマンもその1人。そして今回はウッズだった。

 そして、そんなレジェンドたちに追随する姿勢を見せたのは、全米オープンを主催するUSGA(全米ゴルフ協会)のエグゼクティブディレクター、マイク・デービスだった。

 米ウォールストリート・ジャーナル紙のインタビューに応えたデービス氏は、選手たちの飛距離の飛躍的な伸びに対応するため、コースを伸長させるために費用がかさんでいること、それがゴルフというゲームをお金のかかるスポーツと化していることを説き、ボールの進化に対する何かしらの歯止めや規制の必要性を暗に示した。

 ブリヂストンゴルフのCEO、アンヘル・イラガン氏も米ゴルフ・ドットコムのインタビューに応え、デービス氏と同様の内容を口にした。

「(プロの)ツアーにおいては、何らかの方法でボールを規制するなどの標準化(均一化)が必要だ。昨今の選手たちの飛距離は、あまりにも伸びすぎている」

【ボール規制反対派が反撃しているが、、、、】

 USGAのデービス氏とブリヂストンゴルフのイラガン氏の発言に真っ向から反撃したのは、タイトリストの親会社であるアクシネットのCEO、ウォーリー・ユーライン氏だった。そう、2010年の全米アマ覇者であり、今季から米ツアー正式メンバーになったピーター・ユーラインの父親だ。

 ユーライン氏はUSGAのデービス氏のインタビュー記事を掲載した米ウォールストリート・ジャーナル紙に手紙を送るという形で激しい反対意見を述べた。

 「ボールの進化とコースの伸長、それがゴルフのコストを押し上げていることとの関連性を示すエビデンスがない」と、まずはクールな弁護士のごとき言葉を綴った。だが、そこから先は、やや感情的とも思える言葉が続いていた。

 「ただコースを伸ばすだけの設計家は想像力が不足している」とコース設計家を批判したかと思えば、ウッズのスポンサーであるブリヂストンゴルフに対しても過激な反論をぶつけていた。

 「世界におけるマーケットシェアがベリースモールなブリヂストン(ゴルフ)は、スタッフプレーヤーであるタイガー・ウッズのコメントを利用して、“飛ばないボール作り”を狙う新たな戦略に出ようとしているのではないか?」

 ボールの進化がゴルフというゲームにもたらす影響に対し、コースを伸ばすことだけで対応しようという考えは短絡的だというユーライン氏の指摘には、まったく同感。コースを「伸ばす」以外に、難度をアップさせる方法がゼロであるはずはない。

 

 “飛ばないボール作り”という新たなマーケティング戦略に出たという下りは、それがその通りなのかどうかはさておき、外からとやかく言うことではないだろう。いや、ボールの開発競争が多様化するのだから、むしろいい話なのかもしれない。

 だが、その良し悪しはさておき、今、求められていることは、誰かが誰かの言葉尻を捉えるようなケンカ腰のやり取りではない。

 ボールの進化とその影響をどう受け止めるか。その影響に対し、何をどう対処していくか。

 それは、プレーヤー、コース設計家、用具メーカー、ゴルフ関連団体といったゴルフに関わるすべての人々に投げかけられている課題。ゴルフに関わる誰もが想像力と創造力を駆使して、最善の方向を見い出していくべき、壮大なテーマである。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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