首位との差は縮まり、可能性は広がった。 松山英樹、サンデーアフタヌーンにベストを尽くせ

首位のスピースと2打差の3位でマスターズ最終日に挑む松山英樹。可能性は広がった(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

【元気のない声だった】

マスターズ3日目をイーブンパーの72で回り、通算1アンダー、3位タイで最終日を迎えることになった松山英樹。

だが、ホールアウト後、彼は元気のない声で、こう言った。

「(明日の最終日を)もう少し差がないところでプレーしたかった」

それは、言うまでもなく「残念」を意味しいていた。

オーガスタには今日も強く難しい風が吹き続けていた。その中で、前半で1打伸ばし、後半、アーメンコーナーをすべてパーで切り抜けた。

14番では10メートルの難しい下りのラインを慎重に読み、ほとんど触るだけのような微妙なタッチでほんの数十センチだけ打ち出し、そこから先は傾斜任せに転がしてカップに沈めた。見事なバーディーパットに観衆は拍手喝采。その時点で松山は通算3アンダーとして、瞬間的にジョーダン・スピースと首位に並んだ。

 

しかし、続く15番(パー5)ではピン奥12メートルに2オンさせながら、3パットして平凡なパー。そこから先は松山の何かが変わってしまった。16番も3パット、17番は第2打をグリーン奥へこぼして連続ボギー。18番でもバーディーを奪い返すことはできなかった。

「トップとの差や雰囲気に緊張したのではなく、(15番の)イーグルパットの難しさに緊張した。そこからは、うまくストロークができなくなった」

松山がホールアウトした時点では、まだプレー中だった首位のジョーダン・スピースとは4打の差があった。松山は、その「4打」を大きな差と捉え、「もう少し差がないところで最終日を戦いたかった」と残念がった。

【何が起こるかわからない】

「悪いなりに、まとめていたけど、最後の3ホールで悪いのが出ちゃった」

1打の重みは、いつだって重い。だが、マスターズの3日目の終盤に落とした2打の重みは、優勝を現実的に狙える位置に立つ松山にとっては、例えようもないほど重かった。だからこそ、順位では3位の好位置でありながらも、彼の「残念」の度合いはすこぶる大きく、だから元気のない声になっていた。

だが、もはや希望はないのかと言えば、そんなことはない。少なくとも、松山自身が1つでも2つでもポジティブに考えようとしているところに希望が持てる。

15番以降、パットの感覚は狂ったとはいえ、「ショットに関しては、17番はボギーは打ったけどティショットは悪くなかったし、18番はティショットもセカンドも悪くなかった。パットだけがうまくいってなかった感じなので、それを早く戻すことが大事」。

そうやって、パットが悪かったならばショットに光を見い出す姿勢をあえて取り、彼は必死に前を向いた。

「トップとの(4打の)差は大きいけど、このコースなら(4打差は)あってないようなもの。僕が初めて出たマスターズのときも、ローリー(マキロイ)が4打差でリードしていて(後半で大崩れした)ああいうこともあるし、そうならなかったとしても、自分が伸ばせば4打差はまだまだチャンスがある。明日までにストロークをしっかり修正したい」

そう、何が起こるかわからないのがゴルフの魅力であり、不思議でもあり、本質でもある。

そして、その不思議な本質は、2連覇を目指して首位を独走してきたスピースのゴルフにも当てはまった。通算6アンダーまで伸ばしていながら、17番でボギー、18番でダブルボギーを叩き、終わってみれば、通算3アンダー。

瞬く間に、スピースと松山との差は2打に縮まった。

サンデーアフタヌーンに人々の夢がはためく
サンデーアフタヌーンに人々の夢がはためく

【少年の夢、少年のころからの夢】

初日は終盤に苦しみ、「可能性をつぶさなくて良かった」と言った松山は、2日目に巻き返して5位タイへ浮上。そうやって彼は自力で可能性を広げた。

3日目を終えたとき、4打あったスピースとの差は、スピースが崩れたことで2打へ縮まり、そのぶん松山の可能性は今度は他力で広がった。

自然との戦い、コースとの戦い、相手との戦い。いろんな戦いがあるのがゴルフなのだから、可能性を広げるものだって、いろいろであっていいはずだ。

この日、松山が18番グリーンにやってきたとき、グリーン奥のメディア用に確保された椅子席の一番端に、10歳ぐらいの白人少年が座っていた。傍らには父親らしき男性が立っていた。大人たちの後ろに立っていると少年の視界が全部さえぎられてしまうため、父親はついつい息子を空いていたメディア用の席に座らせてしまったのだろう。

「ダディ(お父さん)!あれがマツヤマだよ。世界のベストプレーヤーの一人だよ。フェニックスオープンで優勝した。リッキーとプレーオフで勝ったんだ」

少年はよほどゴルフ好きらしい。大人びた口調で自慢げに自分が知るマツヤマ情報を父親に話し、松山がバーディーパットを打った瞬間、身を乗り出して眺め、自分のことのように悔しがるポーズ。

松山の3日目は確かに終盤に失速したけれど、少なくともこの少年は、松山に憧れ、自分を重ねながら松山のプレーを眺め、目をきらきらさせていた。

明日の最終日、きっとこの少年は今日以上に目を輝かせながら松山を応援することだろう。その姿は、かつて世界の名手たちに憧れながらマスターズを眺めた松山少年とそっくりなのだと思う。そういう子供たちが、日本にも世界にも大勢いて、みな明日の優勝争いに釘付けになる。

そんな子供たちの夢を広げ、ゴルフファンの希望を広げるため、そして何より松山自身の少年のころからの夢を叶えるため。

サンデーアフタヌーンにベストを尽くせ、松山英樹――。

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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