ベルギー人プロゴルファー。 テロに屈せず、旅を恐れず、マッチプレーに挑む

ベルギー人プロゴルファー、トーマス・ピーターズはテロに屈せず、戦う意気込みだ(写真:Scanpix Denmark/ロイター/アフロ)

【マッチプレーは1対1】

テキサス州オースチンのオースチンCCで開催される世界選手権シリーズのデル・マッチプレー選手権は界ランキング上位64人だけが出場できるエリートフィールドだ。

シーズン最初のメジャー、マスターズを2週間後に控え、今、大きな’注目を集めているのはオーガスタでグランドスラム達成を目指すローリー・マキロイだ。

このところのマキロイは成績が今ひとつ振るわず、勝ち損なったり、池に落としたり、ダブルボギーを連発したりで「ミニ・スランプ」だと言われている。

マキロイ自身は「技術的な問題ではない。メンタルの問題。ミスを自分の心で克服できていない」と分析。

そして、そんな状態で挑むとしたら、通常のストロークプレーより、1対1のマッチプレーのほうがいいとマキロイは言う。

「155人を相手に戦うのではなく、目の前の1人を倒すことだけを考えればいいから、マッチプレーのほうがいい」

【唯一のベルギー人選手】

そんなマキロイとは逆に、マッチプレーだからこそ通常のストロークプレー以上に苦しい戦いを強いられるであろう選手がいる。

今大会出場者の中で唯一のベルギー人、トーマス・ピーターズだ。

ブリュッセルの空港と地下鉄がテロの犠牲になったことをピーターズは現地(テキサス州)時間の火曜日の早朝、続けざまに鳴り続けた携帯で知らされた。

すぐに家族や友人の安否を確認し、今のところ、彼の家族や大半の友人の中に直接の犠牲者はいないそうだ。しかし、地下鉄に乗っていたはずの友人1人とまだ連絡が付いておらず、何より愛する故郷の人々が命を落とし、傷を負わされたことへの怒りと悲しみは絶え間なく沸き上がってくる。

「何の罪もない人々を巻き込むなんて、、、、まったく理解できない」

その気持ちを抱きながら挑むマッチプレーは、きっと苦しい戦いになる。

ゴルフはメンタルなゲームだと言われるが、マッチプレーはストロークプレー以上にメンタル面に左右される。

マキロイが言っていた通り、ストロークプレーなら戦う相手は試合に出場している全選手であり、コースでもあり、自分の目には対戦相手が直接見えない時間のほうが長い。

だが、1対1のマッチプレーは常に相手が見えている。表情1つで手の内を見破ったり見破られたり、そんな勝負の駆け引きも求められる。となれば、心の平穏や安定は何よりの武器になり、心の動揺は往々にして不利になる。

2013年にプロ転向し、欧州ツアーを主戦場として戦ってきたピーターズ。昨年は2勝を挙げたものの、現在の世界ランキングは57位。マスターズ出場資格を得るための世界ランク50位以内に入るためには今週のマッチプレーがラストチャンス。

キャリアにおいても、夢のためにも、そんな大事な試合に挑もうとしていた矢先、彼の母国がテロの犠牲になった。

【テロに屈せず戦う】

とはいえ、ゴルフで戦うことはピーターズのプロフェッション。そのために世界各地を転戦することもプロゴルファーの仕事の一部。テロに襲われたからと言って、何かを変えたり、止めたりはしたくないと彼は言う。

「ブリュッセル空港は僕がこれまで何千回も利用してきた場所。テロに襲われたからと言って、飛行機で旅することを僕は恐れたりはしないし、旅の仕方を変えるつもりもない。本当に本当に悪いタイミングで悪い場所に居合わせてしまったら、そのときはヤツラが勝ってしまうのだろう。だが、それでもなお僕は何も変えない。何も恐れない」

テロに屈せず、僕は僕の仕事をする。そして、マッチプレーを立派に戦ってみせるーー

それが、ベルギー人選手、ピーターズの心意気。辛さや悲しみで心は揺れ動いているに違いない。だが、テロを憎み、テロに屈せず生きるという心意気が、マッチプレーを戦う彼の武器になってくれるのではないか。その精神が糧となり、今週、上位入りしてオーガスタへの切符を掴むのではないか。

それが、プロゴルファーであるピーターズが母国の犠牲者のためにしてあげられる何よりの追悼になるのではないか。

そう願わずにはいられない。

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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