新ルールの「是」と「否」

開幕第2戦で正直申告し、失格になったベン・クレーン(写真/平岡純)

【4年に1度】

2016年はオリンピックの年だが、ゴルフ界においては、4年に1度のゴルフルール改正の年でもある。

現行ルールの見直しと検討を続けてきたゴルフ総本山のR&AとUSGAは、米国時間の今月26日、いくつかのルール変更を発表した。そして、新ルールは来年1月1日から実施されることになる。

ロングパターによるアンカリングの禁止など、以前からすでに決まっていたルール変更もあるのだが、今回、新たに発表されたルール変更の中の1つである「失格免除」が、発表から数日が経過した今も米ゴルフ界で論議を呼んでいる。

現行ルールの下では、スコアカード提出後に「実は、あれはルール違反でペナルティだった」ことが判明した場合、過少申告によるスコア誤記で失格になる。

だが、今回変更された新ルールの下では、その場ではルール違反だったことを知りえなかった場合に限り、「科されるべき罰打+スコア誤記に対する2打罰」を足しさえすれば、失格になることなくプレーが続行できることになった。(注:計算ミスなどによる過少申告は今後もスコア誤記=失格)

【正直者の失格が来年からは失格ではなくなる】

このルール変更を聞いて、すぐに思い出されたのは、先週の開幕第2戦、シュライナーズホスピタル・オープンで自ら失格になったベン・クレーンのことだ。

クレーンは、初日のラウンドで自分が打ったある一打が、「あれは、もしかしたらハザード内だったのかもしれない」という疑義を、初日のプレーを終えて宿に引き上げた夜になってからふと抱き始め、2日目の朝、自らルール委員に告げた。

そのときは、すでにクレーンの第2ラウンドのスタート時間が迫っていたため、ルール委員はとにかく第2ラウンドをプレーするようクレーンに伝え、その間に調査を進めた。その上で、第2ラウンド後にクレーンと協議。その結果、「ハザード内でソールした」という結論に至り、クレーンは初日の過少申告による失格となった。

これが、新ルールの下では、ハザード内でソールしたことに対する2打罰とスコア誤記に対する2打罰、合計4打をスコアに足しさえすれば、クレーンは失格にならず、プレーを続行できることになる。

ベン・クレーンのような、あっぱれな正直申告が今後は消えてしまう?(写真/平岡純)
ベン・クレーンのような、あっぱれな正直申告が今後は消えてしまう?(写真/平岡純)

【メリット、デメリット】

なぜ、このルール改正が論議を呼んでいるのか。その背景には、この改正がもたらすであろう両極端のメリットとデメリットが考えられるからだ。

まず、メリットは、スコアカード提出後の「正直な自己申告が増える」可能性が高まるかもしれないこと。

今回のクレーンは、失格になることを覚悟の上でスコアカード提出後に自己申告し、実際、失格になったわけだが、新ルール下では、たとえルール違反だったと結論されても、失格という最悪の事態だけは避けられるわけだから、少しでも疑義を抱いたプレーヤーが「疑わしきは申告する」ケースが増えるという自浄効果が期待できる。

逆に、可能性として考えられるデメリットは「疑わしきはとりあえず黙っていよう」というケースが「その場」で増えるかもしれないことだ。

現行ルールの下では、事後にルール違反とみなされたら失格という重い処分になってしまうから、失格を避けるためにも「疑わしきは、その場でペナルティを自ら科す」。それは、いわば現行ルールがもたらす罰則効果だ。

だが、新ルールでは、どうせ失格にはならないのだから「とりあえず罰打なし」でスコアカードを提出し、そのままで済めば儲けもの、ルール違反を後から指摘されたら「えっ?違反だったんですか?知らなかった。じゃあ、2打+2打(場合によっては1打+2打)を足します」と言えばいい。そんなふうに新ルールを逆手に取って、ギャンブル的にルール違反と罰打を逃れようとするケースが出てくる可能性もある。そんなワーストケースも危惧されている。

【ルール・イズ・ルール】

もちろん、紳士のスポーツであるゴルフにおいて、そんな小ずるい違反逃れをしようとするプレーヤーは存在するはずもないという前提であれば、新ルールがもたらすかもしれないデメリットは無視してしまえばいい。

そもそも、ゴルフのルールはプレーヤーを罰するためではなく、救済するためのものという前提に照らせば、今回の新ルールは、まさにプロゴルファー救済策。

賞金やさまざまなポイント、シードや生活もかかっているプロゴルファーにとって、失格は重すぎるから、せめて罰打にとどめるという新ルールは、明らかにプロゴルファーを守るための保護策だ。

それが「甘すぎる」という声も上がっている。だが、1打の重みが非常に重いプロゴルフ界で3打も4打も罰打が加われば、順位は大きく後退するわけだから、新ルールにもそれなりの重みはある。

新ルールが本当に妥当な保護なのか、それとも過保護か。それは、来年1月1日以降、蓋を開けてみなければ、わからず、現時点では判断しようがない。

けれど、今回のクレーンのように、失格を覚悟してでも自己申告するというあっぱれな行動が、今後、見られなくなることは確かだ。

その昔、ゴルフは、ただただ、あるがままの球を打つものだった。ルールに違反したら、ただただ正直に自己申告する。それが、ゴルフというものだった。

そんなゴルフの本質を思えば思うほど、新ルールに対して、今、米ゴルフ界で論議が巻き起こっている現象は頷ける。新ルールを取り沙汰する人が多いということは、新ルールに首を傾げている人も多いということ。「ゴルフヒストリーにおける最も馬鹿げたルールが発表された」という見出しを掲げた米メディアもあったほどだ。

とはいえ、ルール・イズ・ルール。決まった以上、それに従うことも、ゴルファーのあるべき姿ではある。

だが、勇気ある正直者が潔く去っていくあの姿は、もう見られないと思うと、やけに寂しい。

東京都出身。早稲田大学政経学部経済学科卒業。百貨店勤務、広告代理店勤務後、89年に独立。93年にゴルフジャーナリストとして渡米以降、米国に常駐。米ツアー選手や関係者たちと直に接しながら築いた信頼関係、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの面白さ、厳しさなどを独特の表現でときに優しく、ときに厳しく発信し続けている。選手のヒューマンな一面を描き出しては綴る“舩越節”、”園子節”には根強いファンが多い。

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