マスターズ出場を決意したタイガー・ウッズ、王者の処し方

今年、2試合に出場後、戦線離脱していたが、マスターズ出場を決意(写真/舩越園子)

【Breaking News】

米国東部時間4月3日の昼下がり。スマホの待ち受け画面に「BREAKING NEWS」の文字が走った。

臨時ニュース?何だろう?思わず目をやると、そこには「タイガー・ウッズ、マスターズ出場決意!」と書かれていた。

大慌てでパソコンを開くと、米ツアーのサイトでも、米国の主要メディアのサイトでも、すでに「タイガー・ウッズ祭り」が始まっていた。「出るよ」と言っただけで、米国中、世界中のメディアを一斉に動かすこの威力。ああ、いまなおウッズはゴルフ界の王者だ。そう思わされた瞬間だった。

【戦線離脱】

すでにゴルフファンの間では周知の事実だが、「病めるウッズ」は今年のマスターズ出場が危ぶまれていた。「病める」と言っても、それは病院で治療してもらえるような傷病ではなく、アプローチ・イップスと呼ばれるゴルフファー独特の病い。

その症状が公けになったのは昨年12月。「タイガー・ウッズの大会」と呼ばれるヒーロー・ワールド・チャレンジの際、グリーン周りで、まるで素人のような小技のミスを繰り返すウッズの姿にゴルフ界は驚愕させられた。

そして今年。2月の米ツアーのフェニックスオープンでは2日目に82を叩いて予選落ち。次なるファーマーズ・インシュアランス・オープンではアプローチ・イップスの症状がさらに悪化し、初日の12番で途中棄権。

その直後。「戦えると思えるまでは、ツアーから離れる」という一言を残し、ウッズは戦線離脱してしまっていた。

【アプローチ・イップス】

イップスは、そもそもはパットの病に使われる言葉だが、近年では、ドライバー・イップスとか、アプローチ・イップスなどという使われ方もするようになった。

イップスの原因は「主に精神的なこと」とされているが、具体的に、いつ、なぜ、心の中で何をどう思ったからイップスになったのかといったことは、本人にも周囲にも、まずわからない。原因不明ゆえ、決定的な治療法も薬もなく、いわばゴルファーが突然襲われる奇病、難病なのだ。

まさか、そのイップスにウッズがかかるなどとは世界中の誰一人として想像していなかった。もちろん、ウッズ自身も。

だからこそ、これからウッズはどうなっていくのか。イップスは治るのか。ウッズは戦いの場に戻ってくるのか。再び勝てるのか。それとも、このまま姿すら見せることなく、フェードアウトしていくのか……。

それは、人々にとって大きな関心事となり、まずはシーズン最初のメジャーであり、ウッズが圧勝という形でキャリア初のメジャー勝利を挙げたマスターズに出るか出ないかが注目の的になっていた。

【暗中模索】

とはいえ、ウッズのマスターズ出場を願っていた人々の中で、一体そのうちの何割がウッズの優勝を信じているかと言えば、おそらく1割にも満たないだろう。

過去4勝を挙げたオーガスタとの相性の良さは言うまでもない。だが、最後に彼の地で勝利を挙げたのは10年も前のこと。2008年の全米オープン以後はメジャー優勝から遠ざかり、それどころか、米ツアーでの優勝からも、すでに1年半以上も離れてしまっている。

そして、さらにはアプローチ・イップスにかかり、昨年の暮れから新しく契約を結んだスイングコーチ(注・ウッズは「コーチ」ではなく「コンサルタント」と呼んでいる)のクリス・コモが、どこまでそのヘルプになるかは、いまだ不明の状態だ。

先が見えないトンネルの中で、文字通りの暗中模索を続けているウッズ。巷では「もうタイガーはダメだな」「絶対絶命」「すでに過去の人」なんて声も上がっている。

だが、その一方で、人々はウッズの復帰を心待ちにしている。勝てずとも姿を見たいと願っている。

だからこそ、今週の火曜日(3月31日)にウッズのプライベートジェットがオーガスタ空港に停まっているのが目撃された途端、そのニュースは瞬く間に世界中へ広がり、今日(4月3日)、ウッズがマスターズ出場を決意したニュースは瞬時にして世界中を駆け抜けた。

すでに世界ランクは104位。そこまで落ちてしまったウッズの復帰を、なぜ人々は望むのか。

その答えは、ウッズの王者だからこその苦境への接し方、処し方を見たいからだ。

トーリーパインズから逃げるように去って行った姿は寂しかった(写真/舩越園子)
トーリーパインズから逃げるように去って行った姿は寂しかった(写真/舩越園子)

【挑んでほしい】

ウッズ自身、今年出場した米ツアー2試合で情けない姿をさらけ出したときは、「僕のような人間は、これ(イップスを抱えながらプレーすること)を衆人環視の下でやらなければならない。それはタフすぎる」と、弱気な言葉を吐いていた。

ファーマーズの初日の途中で棄権を決意し、トーリーパインズの駐車場から去ろうとしていたウッズは、ポリスやツアー関係者に守られながら、唇をへの字に結び、逃げるように姿を消した。

かつて世界ランク1位の座に、誰よりも長く、実に683週間も君臨した王者が、「最後は逃げ出して、それで終わり」になってしまったら、そんなウッズに夢を託してきた誰にとっても、あまりにも悲しく、寂しすぎる結末だ。

たとえイップスがまだ直っていなくても、たとえ大叩きしても、最下位になっても、かつて世界中が本気で応援し、世界中が感動させられた王者ウッズだからこそ、どんなときも最後まで王者らしく立ち向かってほしい――人々の想いは、きっとそこに凝縮されている。

オーガスタには魔女が棲む。魔女は奇跡をも起こすと言われる。けれど、ウッズが今年、優勝するなんて奇跡は起こらなくていい。

ただ、挑んでほしい――世界はきっと、そう願っている。

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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