松山は「ツイッター事件」をどう生かすべき?

世界中から好奇の目を向けられた3日目の2人のスタート風景(写真/舩越園子)

キャデラック選手権最終日は穏やかな朝を迎えていた。大会2日目の13番(パー3)で松山英樹がグリーン面をパターで叩いてディボットを作り、それを直さずに立ち去ったことを後続組だったポールターがツイッターで「愚か者」とツイートした一件は、一夜明けた3日目には大騒動へ発展したが、さらに一夜明けた最終日は、すでに「ダンディール(done deal=終わったこと)」。この件でポールターや松山を追い回す欧米メディアは、もはや皆無になっていた。

ツイッターなどの、いわゆるSNSによって、瞬く間に世界中へ広まったこの騒動。それを中一日で早々に収束させることができたのは、松山がすぐさま謝罪したという素早い対応によるところが大きかった。

逆に、SNSの恩恵を受けた面もあった。3日目の朝、松山がポールターに謝罪したシーンは、待ち構えていた欧米カメラマンたちによってすぐさま撮影され、その写真や動画はわずか数分後にはネット上に流出。

ポールターの傍に立った松山は、キャップを取り、通訳とポールターの顔を交互に見つめながら、叱られる子供のように神妙な顔で頷いていた。その表情、その様子から、たとえ一言も松山の英語の肉声が聞こえてこなくても、彼の反省ぶりや真面目な対応ぶりがひしひしと伝わったことは間違いない。

ラウンド後に詰め寄せた欧米メディアに対して、松山がきっちり答えたことも大きかった。

「(2日目は)いいプレーができてなくて、イライラしていたので、ついついやってしまった。反省している」。心の底から出た正直な言葉。そう受け取れたからこそ、欧米メディアは「そうだよね」と頷き、素直に反省する松山を、それ以上、取り沙汰しなかった。

【松山に好意的だった欧米メディア】

欧米メディアたちがこの一件を通じて抱いた感想や反応が気になる。それがいかなるものだったかは、そのまま彼らの胸の中に残り、もしも次に何かが起こったとき、必ず再び取り沙汰される。つまり、松山の今後に大いなる影響を与えることになる。

「ポールターが使った言葉がひどすぎたよな。idiotだもんなあ。ケンカを売るときに使う言葉だよな」

マスターズの“オフィシャルペーパー”で知られるオーガスタ・クロニカル紙のスコット・ミーショー記者は、しみじみそう言った。

英語には「バカ」を意味する言葉がいくつかある。他には「stupid」「silly」「crazy」などなど、他にもいくつもあって、それぞれに意味合いの強さやニュアンスの違いがある。ポールターが松山に向けた「イディオット」は「あまりにも強い言葉。ケンカを売る言葉以外の何ものでもない」。ミーショー記者は、ひどく顔をしかめながら、そう説明してくれた。

「ポールターは160万人ものフォロワーが付いている自分のツイッターで松山を批判するべきではなかった。批判するなら松山に直接言葉を向けるべきだった。松山は松山で、パターでグリーンを叩いたりするべきではなかった。そのマナー違反は制裁を受けるべき。叱られて然るべき」

USAトゥデイ紙のスティーブ・ディメグリオ記者は、そんなふうに喧嘩両成敗的な意見を口にしながらも「でも、やっぱり、あんなふうに公けにすべきじゃなかったよなあ」と、ポールターに批判の目を向けた。

「2日目は強風が吹いて、どの選手も苦しみ、イライラしていた。ポールターがなぜ松山のことをわざわざツイートしたか?そりゃあ、78を叩くゴルフをしていたポールターのフラストレーションのハケ口になったんだと思う。松山もフラストレーションのハケ口として、パターでグリーン面を叩いたんだろう」とは、ESPN.COMのボブ・ハリッグ記者の言。

こんなふうに米メディアは概してポールターに批判的で、松山に好意的。そうなった背景には、前述した松山のクイック対応以外に、実はもう1つ、別の事情があった。

【落ちた信頼。重なった偶然】

かつて、若かりし日のポールターは、髪をカラフルなピンクや黄色やブルーに染めて米ツアー会場に現われ、マスターズ委員会からお咎めを食らった。ポールターは必死で反論した。「僕はいつも僕らしくありたい。みんなと同じでは嫌だ。これは僕のパーソナル・アイデンティティなんだ」。

全英オープン会場の練習グリーンで、同じ場所に立ち続けながら一定のラインを練習し続け、両足の足跡でグリーン面を窪ませてしまったことがあった。それをR&Aのオフィシャルから咎められたポールターは「この全英で戦うために、どうしても練習したかったラインなんだ。あの位置しかないんだ。勝つための練習をやりたいだけやって何が悪いんだ?」と反論し、こともあろうにR&Aと大ゲンカになったこともあった。

そうやってポールターはしばしばトラブルを起こしたが、彼の必死さ、ひたむきさが滲み出ていたせいだろう。最初のうちは、周囲は彼に温かい視線を向けていた。

だが、温かかった周囲の視線が近年はすっかり冷たくなっていた。ことあるごとに、タイガー・ウッズを批判し、ババ・ワトソンを批判し、ツイッターという道具を使えば何だって言いたい放題という状況のポールター。そんな彼の言動の積み重ねが、結果的にポールターのイメージや信頼を低下させた。

今回の一件は、松山の行為を目撃し、指摘したのが、たまたま「そんなポールターだった」からこそ、批判の矛先がケンカを仕掛けたほうのポールターに向き、そのおかげで松山が助かったという事情もあったのだ。

松山自身、ポールターから指摘された13番以外はすべてに対して胸を張れるかと問われたら、きっとそうではないはずだ。あの日、松山のマナーが悪かったシーンは13番以外にも幾度かあった。

だが、ディボットを作る作らないはさておき、悪態を目撃され、指摘されたのは13番だけだったのも、たまたまと言えば、たまたまだった。もしも、胸を張れないシーンすべてを目撃され、指摘され、ツイートされていたら……。もしも、ポールターではなく、影響力の強いタイガー・ウッズやフィル・ミケルソンに指摘されていたら……。事態の広がりや余波は、まるで異なるものになっていたに違いない。

13番でパーパットを外したとき、松山が実際に作ってしまったディボットは本当のところ、どの程度のダメージをグリーンに与えたのか。ポールターがその場で呼んだ競技委員のラッセル・スワンソン氏(オーストラレイジアンPGA所属)は、こう語った。

「13番のグリーンサイドのマーシャルの証言で、その窪みが松山によるものであると確認できた。窪みは明らかにシュワーツエルのパットのラインを阻害する程度のものだった」

ここまではっきりと明言されたグリーン上のダメージ。それを作ってしまい、直さなかった松山は、前述した「たまたま」が重ならず、一つ事情が違っていたら、もっと悲惨な渦中の人になっていたかもしれない。だが、いろんな偶然が重なり、松山自身の正直さ、ひたむきさ、あどけなさも考慮してもらえたからこそ、今回は事態が早々の収束を見た。それが、とてもラッキーな経緯、結果であったことを、松山も関係者も日本のファンやメディアも、しっかりと肝に銘じておく必要がある。

米ツアーや世界の舞台は、ゴルフのプレーそのもののみならず、いろんな意味で、いろんな面で、想像以上に厳しい場所だ。

謝罪した際、松山はポールターから「みんなやってるから仕方ないけど、やったら直せ」と言われたそうだ。が、カッとなって悪態をつく行為を「みんなやってる」という前提で語るのはプロゴルファーのエゴだ。もちろん松山自身は「やらないのが一番いい」と語っていたわけで、せっかくの松山のそのピュアな前提が、先輩たちの妙な教えに染まっていってしまったら、それほど悲しいことはない。そうならないように松山も周囲も気を引き締めるべきだ。

「自分はそうしたいから」と我を通して、そうしてきた結果、ポールターに対する欧米メディアの信頼やイメージが低下していったこと、それが今回の一件で大きなモノを言ったことを、松山には反面教師として是非とも参考にしてほしい。

米ツアーや世界の舞台は「壁に耳あり障子に目あり」の厳しい世界だ。そこで戦う選手たちは、表舞台にいる限り、いつでもどこでも見られていることを自覚するべきだ。

スタープレーヤーであるという強い自覚と認識を常に持ち、それを貫く。それは、しんどいことではあるけれど、そうならなくてはいけない。それが世界中の子供たち、ジュニアゴルファーたちに夢と希望をもたらすスター選手の在り方なのだから。

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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