南海地震から75年

 1946年12月21日4時19分、南海トラフ沿いでM8.0の南海地震が発生しました。昨日で地震から75年です。この地震による被害は死者・行方不明者を含めて1,330名とされています。太平洋岸には津波が押し寄せ、四国や和歌山を中心に大きな被害となり、瀬戸内海周辺でも広く被害が生じました。高知市では、地殻変動で地盤沈下したために広域に浸水し、道後温泉もしばらく枯れました。

 強い揺れ、津波、地盤沈下、温泉の変化は、南海トラフ地震が起きたときの典型的な特徴で、古文書にあるこれらの記述から過去の南海トラフ地震が特定されています。それによると、684年白鳳地震、887年仁和地震、1096年永長東海地震・1099年康和南海地震、1361年正平東海・南海地震、1498年明応地震、1605年慶長地震、1707年宝永地震、1854年安政東海・南海地震、1944年昭和東南海・1946年南海地震が、南海トラフ地震の候補に挙がっています。この地震履歴から、地震発生の長期評価が行われており、今後30年間で70~80%の確率で地震が起きると評価されています。

南海トラフ地震臨時情報

 南海トラフ沿いでの地震は、全域が一度に破壊する場合と、東西の震源域が分かれて発生する場合があります。1707年宝永地震の時には、東西の震源域がほぼ同時で、1854年安政地震の時には東海地震の約30時間後に、昭和の地震では2年後に南海地震が発生しました。東西どちらかで地震が起きると、残りの側では3年以内に後発地震が発生しています。

 現在は、南海トラフ沿いでの地震の連動のことが周知されていますから、今、東南海地震が発生したら、その後の2年間、南海地震の予想被災地の人たちは、ビクビクしながら生活することになります。実は、昭和南海地震では、地震発生前に、様々な宏観現象があったとの報告もあります。当時と違い、現在では様々な観測網が整備され、微小地震やスロースリップも観測できるようになっていますから、その情報をうまく活用できるかもしれません。

 2年前に、南海トラフ地震臨時情報を提供する仕組みが作られ、異常な現象を検知したら、地震被害を減らすための対応がとられます。南海トラフ地震震源域には、DONETやN-netなどの海底モニタリングシステムも整備されようとしていますから、今後、社会を守る防災情報が発信されることが期待されます。

南海トラフ沿いと共に心配される日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震

 南海トラフ沿いの地震と同様に心配されているのが、千島海溝沿いの地震です。地震調査研究推進本部が2017年12月19日に「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)」を公表し、Mw(モーメントマグニチュード)8.8程度以上の地震が30年以内に7~40%の確率で起きると評価しました。

 北海道には古文書などの資料が余り残っていないため、津波堆積物調査に基づいて、過去の巨大地震の履歴が調べられています。その結果、過去6500年間に超巨大地震が最多で18回発生しており、最新の活動時期は17世紀前半だったとのことです。候補の一つは、1611年慶長三陸地震だと思います。平均すると約340~380年の発生間隔で起きており、現在は前回の地震から400年程度経っているので、高い発生確率になったようです。

揺れと津波の予測

 2020年4月21日、内閣府から、最大クラスの日本海溝・千島海溝沿いの地震について、津波高・浸水域、震度分布が公表されました。想定された最大クラスの地震は、岩手県沖から北海道日高地方の沖合の日本海溝沿い地震と、襟裳岬から東の千島海溝沿いの地震の2つです。両方の震源域が同時に活動することは否定できませんが、予想される津波高は、2つに分けた場合と大差ないとの判断で、両モデルが作られたようです。地震規模は前者がMw9.1、後者はMw9.3です。東北地方太平洋沖地震のMw9.0や、中央防災会議が想定した最大クラスの南海トラフ巨大地震のMw9.1を上回る超巨大地震です。

 予測された津波高は、最大30m程度にも達し、岩手県宮古市以北では、東北地方太平洋沖地震を上回る津波高になっています。最も高いのは、北海道えりも町の30m弱で、根室市からえりも町付近で10~20m、苫小牧市や函館市で10m程度、青森県では八戸市で25mを超え10~20m、岩手県でも宮古市では30m弱で10~20mの場所が広がっています。 震度については、北海道厚岸町で震度7となっており、北海道から青森県、岩手県の太平洋岸で震度6強の揺れが予想されました。

甚大な被害予測結果

 昨日、12月21日、内閣府から、これらの地震による被害予測結果が公表されました。その被害は、南海トラフ巨大地震に匹敵する甚大なものでした。被害予測は夏季の昼、冬季の夕刻と深夜に対して行われました。冬季の深夜の被害が最大で、津波避難率が低い場合に最も大きな被害となっています。

 日本海溝沿いの地震では、死者数は最大約19万9千人、全壊・焼失棟数が約22万棟、経済的被害は約31兆円、千島海溝沿いの地震では、死者数は最大約10万人、全壊・焼失棟数が約8万4千棟、経済的被害は約17兆円でした。被害の殆どは津波によるもので、沿岸部の施設や港湾機能の被害が甚大です。港湾が使えなくなると、北海道への支援が滞るだけでなく、様々な農作物の輸送ができなくなり、日本全国への食品供給の影響が出ます。

 避難者の数は最大90万人と予想され、避難所が不足します。また、道路、鉄道、電気、ガス、上下水道、通信など社会を支えるインフラ、ライフラインも長期間の途絶が予想されています。

寒冷地ゆえの冬季の深刻な被害

 冬季に地震が起きると死者が急増します。日本海溝沿いの地震では、夏の昼であれば、早期避難を心掛ければ、約6千人の死者ですが、冬の深夜だと約4万7千人の死者になります。早期避難ができない場合には死者が14万5千人や19万9千人に膨らみます。千島海溝沿いの地震でも、早期避難ができた場合には、夏の昼は2万2千人が冬の深夜は4万4千人、早期避難が行われない場合には、9万人と10万人と差があります。

 とくに冬の深夜は、道路の凍結や、吹雪、停電などにより、津波避難に困難が伴います。さらに、津波と共に流氷が襲ってくる可能性もあります。暖が取れなければ、低体温症にかかる人も増えますから、避難所の防寒対策が鍵を握ります。停電すれば、水道管が凍結して破断します。また、本州などからの救援部隊は、寒冷地仕様の資機材を持たないため、救援にも限界があることが予想されます。このように、冬季に地震が起きると、様々な困難が予想されます。

被害の軽減のために

 津波による被害が支配的ですから、人的被害を軽減するには早期の避難しかありません。津波避難タワーの整備や早期避難によって、日本海溝沿いの地震では、死者数を最大約19万9千人から3万人に、千島海溝沿いの地震では、約10万人から約1万9千人に減じることができます。ですが、津波による家屋流出は減らないので、家屋被害や経済被害を軽減することはできません。これらを減らすには、高台移転の促進が必要になります。

 冬季には、吹雪や路面凍結などで、地震後の津波避難には困難を伴います。とくに、避難に時間のかかる高齢者などの要支援者にとっては、地震前の避難が望まれます。幸い、日本海溝・千島海溝沿いには日本海溝海底地震津波観測網(S-net)が整備されました。この観測情報を利用することで、南海トラフ地震臨時情報と同様の情報提供について検討されています。ただし、不確実な情報ですから、空振りも多いと想像されます。これを空振りと考えず、訓練のための素振りだと思って、活用の方策を考えたいと思います。