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熊本豪雨1年、熊本地震5年、雲仙火砕流30年を迎え、火山地域の防災を考える

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:ロイター/アフロ)

火山地帯で続発する災害

 九州で起きたいくつかの自然災害の周年を迎える中、熱海での土石流や九州の河川氾濫が映像で報じられ、火山地域の災害の怖さを感じた人が多いと思います。プレートが集まる日本では、プレートの沈み込みによってマグマができて火山が作られ、これらの火山が列をなして脊梁山脈を作っています。マグマだまりに溜まったマグマは、地震の揺れなどで発泡して噴火します。このため地震と火山噴火は少なからず関連します。熱海が位置する伊豆半島は、火山諸島がフィリピン海プレートと共に北西に移動して本州にぶつかってできた場所です。火山周辺には溶岩や火山灰などの火山噴出物が堆積しています。火山堆積物は強い揺れや豪雨などで崩れやすく、とくに大雨の後に地震が起きると、土砂災害が発生しやすくなります。

最近活発な霧島火山帯の噴火活動

 気象庁によると、九州には17の活火山があります。鶴見岳・伽藍岳、由布岳、九重山、阿蘇山、雲仙岳、福江火山群、霧島山、米丸・住吉池、若尊、桜島、池田・山川、開聞岳、薩摩硫黄島、口永良部島、口之島、中之島、諏訪之瀬島です。阿蘇山は阿蘇カルデラ、雲仙岳は妙見カルデラ、霧島山は加久藤カルデラ、若尊と桜島は姶良カルデラ、桜島は姶良カルデラ、硫黄島は鬼界カルデラの一部になります。

 このうち、有史以来に噴火した活火山は、鶴見岳・伽藍岳、九重山、阿蘇山、雲仙岳、霧島山、桜島、開聞岳、薩摩硫黄島、口永良部島、中之島、諏訪之瀬島の11火山です。また、過去10年間を見ると、阿蘇山、霧島山、桜島、薩摩硫黄島、口永良部島、諏訪之瀬島の6火山が活発に活動しています。これらは、何れも霧島火山帯に属していて、フィリピン海プレートの沈み込みによって作られた火山フロントに位置しています。この山々が九州を南北に縦断する脊梁山脈を形成しています。

九州を横断する別府・島原地溝帯

 九州は、日本の中では珍しく、南北に引っ張られる張力場にあり、その結果、別府から島原半島が東西に沈降して、別府・島原地溝帯という溝ができました。この地溝帯の西南に存在するひび割れが、2016年熊本地震を引き起こした日奈久断層帯と布田川断層帯です。地溝帯の北側には水縄断層帯があり、布田川断層の東側には別府・万年山断層帯が、西側には雲仙断層群があります。熊本地震の発生後には、余震の震源域が徐々に東側に移ったため、阿蘇山の噴火や別府・万年山断層での地震も心配されました。まさにそんな中、阿蘇山が爆発的に噴火しました。

 別府・万年山断層の東側に存在するのが四国を横断する中央構造線です。その上には伊方原子力発電所が、また、日奈久断層の南西には川内原子力発電所も立地しています。中央構造線の東には、1995年兵庫県南部地震を起こした六甲断層帯があります。

ひび割れはマグマの通り道にもなります。このため、地溝帯には、鶴見岳・伽藍岳、由布岳、九重山、阿蘇山、雲仙岳などの火山があります。これらは、白山から、大山、三瓶山と、東から西につながる白山火山帯の一部になります。雄大な景色が楽しめる阿蘇カルデラは、湖にならなかった珍しいカルデラで、カルデラ内では様々な農畜物が生産されています。

 火山のマグマは、周辺の地下水を暖めるので、周辺にはたくさんの温泉が湧きだしています。別府、由布院、黒川温泉、阿蘇の温泉群は、湯質も素晴らしいと思います。

火山が生み出した恵みと災い

 火山によって作られた九州の脊梁山脈は、季節風を受け止めて、雨の恵みをもたらします。一方で、線状降水帯ができると甚大な豪雨災害になります。一昨日も、鹿児島、熊本、宮崎の3件に大雨特別警報が発表されました。球磨川が氾濫して86人もの犠牲者を出した昨年の令和2年7月豪雨や、熊本、福岡、大分の3県で32人の犠牲者を出した2017年九州北部豪雨は記憶に新しいです。火山堆積物によって作られた急峻な地形は崩れやすく、土砂災害の原因にもなります。雨は、火山灰の地下に浸透し、美味しい湧水となって平地に現れます。熊本市は、水前寺公園をはじめ湧水や地下水に恵まれた全国屈指の場所でもあります。

 鹿児島や宮崎に広がるシラス台地も、加久藤カルデラ、阿多カルデラ、姶良カルデラ、池田カルデラなどの噴火によって作られました。水はけのよい土壌を活かして生産されるのがさつま芋です。美味しい水とさつま芋とくれば、芋焼酎が思い浮かびます。

 火山で作られた風光明媚な景色を愛でながら温泉に浸かり、阿蘇カルデラで育った馬肉などの恵みをつまみ、美味しい芋焼酎を楽しむという素晴らしい日々があります。一方で、地震、火山、水害、土砂災害とは隣り合わせです。こういった中、自然とうまく付き合う知恵が育まれてきました。

 人工物に囲まれた都会では忘れがちですが、九州の自然は、寺田寅彦の「自然は慈母であると同時に厳父である」の言葉を思い出させてくれます。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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