Yahoo!ニュース

2011年の東日本大震災に始まり新型コロナ禍に至る激動の10年

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

災害が頻発した2011年

 2011年は災害だらけの1年でした。1月に霧島連山の新燃岳が噴火しました。空振もあり窓ガラスが割れるなどの被害が多発しました。この噴火以降、阿蘇山、桜島、口永良部島など、霧島火山帯の火山活動が活発になりました。

 2月22日には、ニュージーランドでカンタベリー地震(Mw6.1)が発生します。地震規模は大きくありませんが、観光地のクライストチャーチで多くの建物が倒壊し、日本人の語学留学生も含め、多数の犠牲者(死者・行方不明者181人)が出ました。

 3月9日11時45分ごろには、三陸沖で地震(M7.3)が発生します。東北地方太平洋沖地震の前震です。翌10日6時24分にはM6.8の余震も発生しました。この前後、震源周辺でスロースリップがあり、東北地方太平洋地震発生へと近づいていきました。

 そして、3月11日14時46分に東北地方太平洋沖地震(Mw9.0、災害名称は東日本大震災)が発生します。死者・行方不明は約2万2000人にも及びます。M7を超える余震が多発し、遠隔地では誘発地震が発生しました。主な誘発地震には、3月12日3時59分の長野県北部の地震(M6.7)、3月15日22時31分の静岡県東部の地震(M6.4)、4月11日17時16分の福島県浜通りの地震(M7.0)などがあります。静岡県の地震では、富士山の噴火を心配した人たちもいました。

 夏からは豪雨災害が頻発します。7月27日~30日の平成23年7月新潟・福島豪雨では、五十嵐川や阿賀野川などが氾濫し、三条市などで大きな被害になりました。さらに、9月4日には台風12号により紀伊半島大水害が発生しました。2000ミリ近い降雨量で、河川の氾濫や土砂崩れが各地で発生し、死者・行方不明98人もの犠牲者を出しました。

 そして、10月31日に、1ドル75円32銭の歴史的円高をつけます。日本は、東日本大震災による被害と円高の中、経済的にも苦境に追い込まれていきます。

想定外と言われた東日本大震災の教訓

 日本では起きないと言われていたM9の超巨大地震が発生し、地震学者の多くは自信を失いました。この地震の後、地震の発生の仕方には階層性があり、数百年~数千年に一度、M9クラスの地震が起こり得ると考えられるようになりました。地中に埋まった津波堆積物からも過去の超巨大地震の存在が裏付けられ、南海トラフ沿いでもM9クラスの地震発生を念頭においた検討が進められることになりました。

 東日本大震災では、防潮堤を超える巨大津波が襲いました。このため、早期避難と津波避難施設整備、事前復興計画の重要性が指摘され、震災後、6月24日に津波対策の推進に関する法律が、12月24日に津波防災地域づくりに関する法律が制定されました。

 また、巨大地震に特徴的な長周期地震動が、遠隔地の東京や大阪の高層ビルを大きく揺さぶりました。このため、高層ビルなどの長周期地震動対策が本格化することになりました。

 被災地に加え、震源から離れた場所の旧河道や東京湾岸の埋立地で大規模に液状化が発生し、地中埋設管の損傷や家屋の沈下・傾斜などが起き、住宅地が大きな被害を受けました。仙台郊外の丘陵地では谷埋め盛土をした造成地が被災し、宅地の安全性の問題が話題になりました。東京湾岸では大規模なタンク火災も発生しました。公共交通機関がストップしたため、東京都心では深刻な帰宅困難問題が起きました。

 沿岸にあるエネルギー生産施設や港湾施設は、津波により多大な被害を受けました。中でも、福島第一原子力発電所は全電源喪失によりメルトダウンし、水素爆発などで大量の放射能を放出し、発電所周辺は帰宅困難地域になりました。家に戻れなくなった避難者は長期間の避難を余儀なくされ、福島県では関連死が直接死を上回りました。

 原子力発電所や火力発電所の停止で電力不足になり、計画停電が行われ、生活や産業に多大な影響を与えました。また、石油供給不足により、物流や通信に大きな影響が出ました。その結果、サプライチェーンに依存する製造業を中心に、産業が広範囲に停止する事態となりました。この地震での地震保険支払金額は過去最大の1兆2862億円に上ります。

 「想定外」という言葉が氾濫する中、多くの国民は、見たくないことを見ていなかったことを反省しました。ですが、震災から10年が経って、事前復興計画は遅々として進まず、首都圏への一極集中が進み、災害危険の高い沿岸低地に高層ビルが建設され続けています。また、通信、電力、ガスの自由化が進み、ライフライン維持のための安全投資も難しくなっているようです。債務が増え続け、社会インフラの整備も遅滞しています。

相次ぐ、豪雨、事故、噴火、地震

 2012年には、7月11日~14日に平成24年7月九州北部豪雨が発生し、福岡県・八女市や大分県・竹田市で土砂災害や洪水が起きました。12月2日には、中央自動車道上り線の笹子トンネルでコンクリート製の天井板が落下する事故があり、走行中の車両が巻き込まれました。この後、トンネルの天井版の撤去が各地で行われました。

 2013年には、10月16日に台風26号による暴風・大雨のため、伊豆大島で大規模な土砂災害が起きました。また、年末には、最大クラスの南海トラフ地震の発生を念頭においた南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法が制定されました。

 2014年には、7月30日~8月26日に台風11号、12号や大雨により平成26年8月豪雨が起きました。広島県で大規模な土砂災害が発生し、安佐南区や安佐北区で74名もの犠牲者が出ました。福知山市や丹波市でも豪雨による被害が発生しました。さらに、9月27日には、御岳山が水蒸気爆発しました。秋の晴天の土曜日11時52分、山頂は紅葉を愛でる行楽客で賑わっていたため、死者・行方不明者63人と言う戦後最大の火山災害になってしまいました。さらに、11月22日には長野県北部の神城断層でM6.7の地震が発生します。

 2015年には、5月29日に口永良部島が爆発的噴火をします。幸い、住民が速やかに島外避難してくれ、犠牲者は出ませんでした。また、9月9日~11日には、平成27年9月関東・東北豪雨が発生し、鬼怒川の氾濫などによって、常総市で大きな浸水被害になりました。多数のヘリコプターが逃げ遅れた住民を救出する様子がテレビに映し出されました。この年は、建築関係での偽装・改ざんが発覚しました。免震ゴムの試験データの偽装や、杭打ち工事のデータ改ざんなどです。翌年にも地盤改良工事の改ざんが見つかっています。

2度の震度7を経験した熊本地震

 2016年4月14日に熊本県の日奈久断層を震源とするM6.5の地震が、2日後の4月16日には隣接する布田川断層を震源とするM7.3の地震が発生しました。東北地方太平洋沖地震と同様、前震を伴う直下地震で、2度にわたって震度7の強い揺れを観測しました。2つの地震で、直接死は50人、関連死は豪雨災害を含め223人に上りました。2度の強い揺れで、古い木造家屋を中心に多くの建物が倒壊しましたが、前震によって損傷家屋から避難していた人も多く、直接死の人数は家屋被害に比べ少なめでした。この地震では、2000年以降の木造家屋の耐震性の高さが実証されました。地震保険支払金額は、東日本大震災に次ぐ3883億円でした。地震後は多数の余震が発生し、10月8日に阿蘇山が噴火しました。九州は、この10年、数多くの噴火、地震、豪雨と次々と災害に見舞われています。

 10月21日には、鳥取県中部の地震(M6.6)があり、倉吉市などで被害が生じました。鳥取県では、1943年鳥取地震、2000年に鳥取県西部地震があり、2つの震源域の間を埋めるような場所での地震でした。さらに11月8日に博多駅前道路陥没事故が、12月22日に糸魚川市大規模火災が発生しました。

激甚化する豪雨災害

 2017年7月5日~6日には、平成29年7月九州北部豪雨で、福岡県朝倉市、東峰村、大分県日田市で洪水や土砂災害により大きな被害を出しました。

2018年

 翌年2018年にも、6月28日~7月8日に西日本豪雨とも呼ばれる平成30年7月豪雨が起き、広島県・愛媛県などで土砂災害が発生し、倉敷市真備町では洪水が起きるなど広域的な被害が発生し、死者・行方不明者271人が出ました。さらに、9月4日には平成30年台風第21号が上陸し、関西空港が高潮で浸水し連絡橋が損壊するなど、関西地域を中心に大きな被害が出ました。この台風での損害保険支払額は1兆円を越え、過去最大になりました。9月28日~10月1日に襲来した台風24号でも東京、神奈川、静岡で大きな被害を出し、3千億円を超える損害保険が支払われています。

 この年には、4月9日に島根県西部地震(M6.1)、6月18日に大阪府北部の地震(M6.6)、9月6日に北海道胆振東部地震(M6.7)が起きました。大阪府北部の地震では1995年阪神・淡路大震災を超える歴代3位の1162億円の地震保険支払金額になりました。大阪府北部の地震ではブロック塀の倒壊やエレベータの閉じ込めが、北海道胆振東部地震では火山堆積物の土砂崩落・液状化やブラックアウトの問題が課題になりました。さらに、10月には、免震ダンパーのデータ改ざん問題が発覚しました。このように、2018年には様々な災害が発生したため、この1年を表す漢字は「災」になりました。

2019年

 2019年にも気象災害が続きました。9月9日に令和元年房総半島台風(台風15号)が上陸し千葉県を中心に強風による屋根の損壊や停電が問題になりました。また、10月12日には令和元年東日本台風(台風19号)による豪雨で、各地の河川が氾濫しました。両台風は42年ぶりに気象庁によって命名される台風になりました。ちなみに、15号の損害保険支払金額は歴代4位の4656億円、19号は歴代2位5826億円に上ります。

 この年には、6月18日に山形県沖の地震(M6.7)、7月18日に京都アニメーション放火事件、10月31日首里城焼失なども発生しました。

2020年

 今年2020年も7月3日~31日に令和2年7月豪雨によって熊本県の球磨川などの河川氾濫や土砂災害による被害がありました。近年の豪雨災害の激甚化は、治水対策を上回るものであり、流域治水や立地適正化などの総合的な対策が必要になっています。

 そして、こういった中、新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患(COVID-19)が世界的に流行しました。

 WithコロナやPostコロナを通して、新たな社会の有り方を模索することになりました。地震、噴火、台風、豪雨、感染症と、災禍が続いた10年間でした。債務増大と人口減少で社会の回復力が落ちていく中、少しでも事前対策を進め、被害を減らす努力をする必要があります。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

福和伸夫の最近の記事