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日本でも被害が出たアメリカ大陸の超巨大地震から60年、火山噴火から40年

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロイメージマート)

60年前に起きた超巨大地震

 今から60年前、1960年5月22日15時過ぎ(日本時間では23日4時過ぎ)に、南米チリの太平洋沖でモーメントマグニチュード(Mw)9.5の超巨大地震が発生しました。観測史上最大の地震です。この場所では、海洋プレートのナスカプレートが大陸プレートの南米プレートの下に沈み込んでおり、日本列島と同様の沈み込み帯に位置します。この地殻変動によって盛り上がってできたのがアンデス山脈です。

 チリ地震の余震域の大きさは800km×200kmにも及び、広域に海底が大きく盛り上がったことで、強い揺れと大津波が発生しました。15分後には約18mの津波がチリ沿岸部を襲い多くの人が犠牲になりました。また、地震後には周辺の火山活動も活発化し、38時間後に噴火したコルドン・カウジェ山をはじめ1年以内に4つの火山が噴火しました。

日本にまで届いた津波

 津波は22時間半後の24日未明に日本にまで到達し、伝播途中の海底地形の影響で焦点効果が起き、数mの津波が沿岸を襲いました。津波による日本全国の死者・行方不明者は142人に上ります。三陸海岸では6mを超える場所まで津波が遡上し、岩手県大船渡市の53人、宮城県志津川町の41人など、岩手県と宮城県の太平洋岸で多くの犠牲者を出しました。1896年明治三陸地震、1933年昭和三陸地震に続く津波災害です。

 地球の反対で起きた地震ですから、当然、地震の揺れを感じることはありません。ただ、日本に津波が到達する7時間前にはハワイに津波が到達していましたので、その情報が活用できれば被害を減らすことができていました。このため、地震の後、アメリカ海洋大気庁の太平洋津波警報センターと連携して、遠地津波に備える体制がつくられました。

50年に一度の超巨大地震

 チリ地震の前後には、M9クラスの超巨大地震が太平洋周辺地域で集中して起きました。1952年11月4日に起きたMw 9.0のカムチャツカ地震や、1957年3月9日のMw8.6のアリューシャン地震、1964年3月28日のMw 9.2のアラスカ地震などです。

 実は、50年ぶりに、同じようなことが起きているとの指摘もあります。2004年12月26日に起きたMw9.1のスマトラ沖地震の後、2010年2月27日のMw8.8のチリ・マウレ地震、2011年3月11日のMw9.0の東北地方太平洋沖地震などです。多くの場合、地震後に近くで複数の火山が噴火しています。超巨大地震は50年に一度、固まって起きるのでしょうか?

300年前にもあった超巨大地震

 東北地方太平洋沖地震の後、過去の津波の痕跡が地中に津波堆積物として残されていることが注目されました。実は、320年前にアメリカ西海岸で起きた超巨大地震の痕跡が北海道に残っていました。アイヌ民族は文字を使わなかったため、北海道では昔の地震の記録は文書には残っていませんが、北海道大学名誉教授の平川一臣先生たちが、人工的な地形改変の少ない北海道の特徴を生かし、地下の津波堆積物を精力的に調査されました。その後、日本の古文書から津波到達の日も特定されました。これが、1700年1月26日に起きたMw8.7~9.2のカスケード地震です。この場所は、ファンデフカプレートが北米プレートに沈み込むカスケード沈み込み帯です。すでに地震発生から320年が経っており、近くにシアトル、ポートランド、バンクーバーなどの大都市もあることから、将来の地震発生が心配されています。

 実はこの時代にも、太平洋周辺で超巨大地震が起きていました。その一つは、今、最も心配されている南海トラフ地震です。1707年10月28日にMw8.7と言われる宝永地震が起きました。さらに49日後には富士山も大噴火しました。今でも宝永火口が富士山の南東麓に見えます。また、1687年10月20日にはペルーのリマ沖でM8を超える大きな地震があったようです。

山の形を変貌させた40年前の大噴火

 カスケード地震を起こしたカスケード沈み込み帯の東に位置する北米大陸西海岸には、カスケード山脈があり、多数の火山が連なっています。その一つ、セントへレンズ山が40年前の1980年5月18日に大噴火しました。2か月前から地震や噴火が続いていましたが、5月18日にM5.1の火山性の地震が起き、その揺れで斜面が大規模に山体崩壊しました。これによって、覆いを失った内部のマグマが噴出し、激しい爆風と大規模な火砕流が山麓を襲いました。その結果、セントへレンズ山の標高は2,950mから2,550mに減少し、美しい姿だった成層火山のセントへレンズ山の姿は大きく変わりました。2016年熊本地震での阿蘇大橋周辺や2018年北海道胆振東部地震での厚真町の山々の崩落からも分かるように、火山堆積物は地盤がもろく崩れやすいようです。南海トラフ地震と富士山のことを考えると、他人ごとではありません。

 今週は、超巨大地震・チリ地震から60年、地震の巣の近くで噴火したセントへレンズ山の噴火から40年です。太平洋の向こうの災害を通して、これからの地震・火山への備えを考えたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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