Yahoo!ニュース

台風15号から1か月、見えてきた課題と教訓

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:ロイター/アフロ)

金曜帰宅時には危機感を持てなかった小型で強力な台風15号

 千葉県を中心に大きな被害を出した台風15号は、9月5日(木)15時に南鳥島近海で発生し、9日(月)5時ごろに千葉市付近に上陸しました。6日(金)の夕刻には余り発達していませんでしたが、週末、海水温の高い日本近海で急に発達し、8日(日)21時に「非常に強い」勢力に発達しました。上陸時は、中心気圧960hPa、最大風速40m/sの「強い」勢力でした。

 台風15号はコンパクトで強風域が小さいので、接近するまでは強い風が吹きません。金曜の帰宅時点では予報円も大きく、多くの人は危機感がなかったと思います。気象庁が臨時の記者会見を開いたのは、8日(日)11時でした。最大限の警戒を呼びかけましたが、日曜の午後はまだ風もなく天気も悪くなかったので、企業の防災担当者も敢えて出勤を判断する状況にはなかったと思います。

交通途絶でもぬけの殻の東京都心と孤立した成田空港

 新幹線は、8日(日)15時以降から順次運行を取りやめ、首都圏の鉄道各社も最終電車を早めて、月曜の朝まで計画運休を予定しました。倒木や飛来物によって運行再開が遅れる中、遠距離通勤の人は出社できず、都心のビルはガラガラだったと思います。

 民間企業の危機管理担当者は、職場近くの防災宿舎に住むことは稀なので、多くの企業で参集が困難だったと思われます。自動車での近距離通勤が多い地方都市とは事情が異なります。

 一方、成田空港は、空港への足となる鉄道やバスが運休し、孤立状態となってしまいました。昨年の台風21号で問題となった海上空港の孤立が、都心から遠い陸上空港でも起きてしまいました。

東京に近すぎる経験不足の自治体

 千葉県は災害が少なく、役所も大らかな雰囲気のようです。県庁は県の西北端にあり、市町村数も54と多く、県は市町村からの被害報告を待ったようです。ですが、市町村は災害対応に翻弄され、停電による通信途絶で報告ができませんでした。東京電力が、11日(水)には停電復旧との見込みを示したこともあり、9日の段階では、被害の深刻さに気付くのは難しかったと思われます。

 被災地が東京に近いため、様々な機関の人間が日帰りで視察できます。このため、多様な意見が出され、バラバラの対応をとることで、混乱を招いた可能性もあります。この規模の災害では、県庁などの一元的な指揮が大切になりますが、指示・調整力が十分でなく、他地域から多数入った支援者は、受援力不足で十分な活動ができなかったようです。

被害把握と初動の遅れ

 消防庁によると、10月7日時点の被害は、死者1人、重傷者12人、軽傷者137人、住家被害は全壊214棟、半壊2,054棟、一部損壊38,036棟となっています。住家被害の8割以上を千葉県が占めています。消防庁が発表する住家被害数は、9月10日時点では335棟、19日に8,960棟、27日に21,988棟、10月7日に40,304棟と、今でも増加しています。

 台風翌日時点では、被害の1%以下しか把握できていません。ここに今回の災害の問題点がありそうです。情報把握の遅れが、初動の遅れにつながります。屋根の被害の概略把握なら、ヘリコプターやドローンで空中写真を撮影すれば容易に取得できるはずです。東京から1~2時間で行ける場所なのに、なぜ被害把握ができなかったのか検証が必要です。

停電復旧の見通しの甘さと復旧の遅れ

 この台風では、93万軒もの停電が発生しました。停電復旧の甘い見通しが状況を悪化させました。当初は11日中に全復旧するとの発表でしたが、14日に「復旧見通しは27日」と変更されました。最終的には、25日に全復旧したと報告がありました。

 昨年の台風災害に比べ、停電復旧が遅いと感じます。台風21号では、関西電力は220万軒の停電を5日後には99%復旧し、台風24号では中部電力は119万戸を3日で96%復旧させています。

 台風通過後は暑くなります。猛暑の中で停電し、エアコンや冷蔵庫が使えなければ、熱中症が増え、高齢者などは体調を崩します。エレベータや、水のポンプアップが必要で、窓が開かない高層マンションでは事態は深刻です。長期間停電すれば通信途絶や断水も発生します。停電の長期化が最初に分かっていれば、疎開や非常用電源の手配など、個々人や事業所は様々な対策をすることができたと思います。

 停電復旧が長期化した原因には、被害箇所の調査不足、復旧作業の調整力不足、外部支援者の活用不足などが考えられます。電力の自由化に伴う送発電分離が、災害対応力に影響していなかったかも気になります。

災害対応の検証と改善

 台風15号の被害の深刻さを受けて、政府は検証チームを10月3日に立ち上げました。1)長期停電及びその復旧プロセス・鉄塔等送電網に係る検証、2)通信障害に関する関係者間の情報共有・復旧プロセスに係る検証、3)国・地方自治体の初動対応等の検証、災害対応に不慣れな県・市町村への支援・平時の備えの在り方、の3点について年内をめどに検討を行い、報告をまとめることになりました。今後の自然災害に対し、改善すべき点を明らかにし、被害軽減に活かしていきたいと思います。

 今週末には、大型の台風19号の襲来が懸念されます。あらゆる組織、人が十分な備えをしておきたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

福和伸夫の最近の記事