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南海トラフ地震の「巨大地震警戒」と「巨大地震注意」の臨時情報とは

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:ロイター/アフロ)

南海トラフ地震に関連する情報(臨時と定例)

 中央防災会議防災対策実行会議が2016年に設置した「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ」の報告で、「現時点において、地震の発生時期や場所・規模を確度高く予測する科学的に確立した手法はない。」と指摘されました。このため、気象庁は、当面の対応として、2017年11月から、東海地震に対する警戒宣言の発令を凍結し、「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」を設置して、南海トラフ沿いで発生した異常な現象の観測結果や分析結果について、「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)」と「南海トラフ地震に関連する情報(定例)」を発表することにしました。南海トラフ沿いで異常な現象が観測された場合などには、臨時情報が発表されます。

南海トラフ地震に関連する情報の名称の決定

 その後、中央防災会議防災対策実行会議「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」が設置され、昨年12月に報告書がまとめられました。その報告に従って、本年3月29日に、発表する情報の名称が決定され報道発表されました。情報の名称は、「南海トラフ地震臨時情報」と「南海トラフ地震関連解説情報」の2種類です。

 南海トラフ地震臨時情報は、南海トラフ沿いで異常な現象が観測され、大規模地震と関連するかどうか調査を開始した場合と、調査を継続している場合、調査結果を発表する場合に示されます。また、南海トラフ地震関連解説情報は、調査結果を発表した後に状況等を発表する場合と、評価検討会の定例会合の調査結果を発表する場合に示されます。後者は、これまでの南海トラフ地震に関連する情報(定例)に相当します。

南海トラフ地震臨時情報

 南海トラフ地震臨時情報には、情報の受け手が防災対応をイメージし、適切に実施できるように、防災対応等を示すキーワードが付記されることになりました。キーワードには、「調査中」、「巨大地震警戒」、「巨大地震注意」、「調査終了」の4種類があります。調査中は調査を開始した場合または調査を継続している場合、巨大地震警戒は「半割れ」に相当すると評価した場合、巨大地震注意は「一部割れ」か「ゆっくりすべり」に相当すると評価した場合、調査終了は巨大地震警戒、巨大地震注意のいずれにも当てはまらないと評価した場合に相当します。

南海トラフ地震臨時情報(調査中)

 南海トラフの想定震源域やその周辺でM6.8程度以上の地震が発生した場合と、プレート境界面で通常とは異なるゆっくりすべり等を観測した場合に、臨時情報(調査中)を発表して、「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」を開催します。ここで、Mはモーメントマグニチュードで定義されます。

南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)

 臨時情報(巨大地震警戒)は、南海トラフ沿いのプレート境界でM8.0以上の地震が発生した場合に発表されます。震源域の7割以上が破壊したら震源域全体が破壊したとみなされますが、その場合にもこの情報は出されます。ちなみに、過去3回の地震は、1707年10月28日の宝永地震、1854年12月23日と翌24日の安政東海地震と安政南海地震、1944年12月7日と1946年12月21日の昭和東南海地震と昭和南海地震です。中央防災会議によると、これらの地震のモーメントマグニチュードは、8.9、8.6と8.7、8.2と8.4とされています。もっとも規模の小さい昭和東南海地震でも8.2なので、しきい値の8.0はそれなりに安全側の値と言えそうです。課題は、モーメントマグニチュードや震源位置を即時に精度高く評価できるかどうかです。

南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)

 「一部割れ」のときは、想定震源域のプレート境界で M7.0 以上、M8.0未満の地震が発生した場合と、想定震源域のプレート境界以外や海溝軸外側 50km程度までの範囲でM7.0以上の地震が発生した場合、「ゆっくりすべり」のときは、短い期間にプレート境界の固着状態が明らかに変化しているようなゆっくりすべりを観測した場合とされています。過去に「一部割れ」に相当する地震の直後に大規模地震が発生した事例が南海トラフ沿いでは知られていないこと、ゆっくりすべりの後にも大規模地震発生の経験がないことから、キーワードに差があります。

南海トラフ地震関連解説情報

 南海トラフ地震関連解説情報は、臨時情報の発表後に、地震活動や地殻変動の状況等を発表するための情報です。震源域周辺での事態の推移を解説するもので、とくに、「ゆっくりすべり」の時には多くの関心を集めそうです。多様な解釈がありえるので、気象庁の発表の仕方や、報道の伝え方などが課題となりそうです。

気象庁から発表される情報

 最も警戒すべき「半割れ」の地震が発生したときには、気象庁からは、緊急地震速報、震度速報、大津波警報が順に発表されます。その後、地震発生後5~30分程度で、南海トラフ地震臨時情報(調査中)が発表され、大規模地震の発生可能性についての調査が始まります。そして、評価検討会での検討を踏まえ、最短2時間後程度で南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)を発表し、大規模地震の発生可能性が相対的に高まっている旨などの発表をします。その後は、随時「南海トラフ地震関連解説情報」を発表し、事態の推移を解説することになります。ちなみに、南海トラフ沿いでM8クラスの地震が起きた場合には、一旦は、最大クラスの地震が発生したと考えて、予想被災地域全域に大津波警報などを発表し、震源域が明らかになると共に、津波警報や津波注意報に変更することになります。

 南海トラフ地震臨時情報に連動して、社会の対応もスタートします。その対応の仕方についても、同じ3月29日に内閣府(防災担当)から公表されました。「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン(第1版)」です。まずは、情報が発表される条件について周知し、その上で、その時の対応について、国民一人一人が考える必要があります。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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