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「災」「震」「乱」「絆」……「今年の漢字」に見る災害の記憶

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

今年の漢字

 昨年の12月12日に京都の清水寺で森清範貫主によって「災」の字の揮毫が行われました。これは、日本漢字能力検定協会が、漢字一字の公募を行って、最も応募数の多い漢字を、その年の世相を表す「今年の漢字」として公表するものです。1995年に始まり、12月12日を「漢字の日」と定めました。「いい字一字」のごろ合わせだそうです。昨年は、応募総数193,214票のうち、1位が「災」の20,858票、2位が「平」の16,117票、3位が「終」の11,013票で、以下、「風」、「変」、「暑」、「大」、「最」、「新」、「金」の順でした。「災」、「風」、「暑」は、島根県西部の地震、大阪府北部の地震、北海道胆振東部地震、西日本豪雨、台風12号、21号、24号、猛暑などを彷彿とさせます。「平」、「終」は平成の終わりに関わるのでしょうか。

24年間の「今年の漢字」

 1995年以降、24年間の今年の漢字を並べると、1995年「震」(阪神・淡路大震災)、1996年「食」(O-157)、1997年「倒」(山一証券などの倒産)、1998年「毒」(和歌山のカレー毒物混入事件)、1999年「末」(世紀末)、2000年「金」(シドニー五輪)、2001年「戦」(米国同時多発テロ)、2002年「帰」(北朝鮮拉致被害者帰国)、2003年「虎」(阪神優勝)、2004年「災」(新潟県中越地震や豪雨など)、2005年「愛」(愛・地球博)、2006年「命」(悠仁様誕生)、2007年「偽」(各種偽装事件)、2008年「変」(日米の政変、オバマ大統領当選)、2009年「新」(新政権、オバマ大統領、鳩山首相)、2010年「暑」(猛暑)、2011年「絆」(東日本大震災)、2012年「金」(金環日食、ロンドン五輪)、2013年「輪」(東京五輪決定)、2014年「税」(消費税増税)、2015年「安」(安保法案)、2016年「金」(リオ五輪)、2017年「北」(北朝鮮問題)、2018年「災」(一連の災害)でした。複数選ばれたのは、「金」の3回と「災」の2回です。

「今年の漢字」の候補に多くなった漢字

 これまでの今年の漢字の候補で3位以内の漢字を調べてみました。一番多く候補になった漢字は「乱」で、6回も候補になっています。1位になったことはありませんが、2位と3位が3回ずつあります。2つ目に多いのは「金」の5回、3番目は「災」の4回、4番目は「震」「戦」「不」の3回です。「金」は、オリンピックが開かれた2000年、2008年、2012年、2016年と、大型倒産が続いた1997年に候補になっています。

災害・事故と関わりのある「今年の漢字」の候補

 「乱」と「災」と「震」は災害との関わりがありそうです。「乱」が選ばれたのは1995年、1998年、1999年、2000年、2001年、2003年、「災」は1995年、2004年、2011年、2018年、「震」は1995年、2004年、2011年です。また、2度登場する「変」は2008年と2016年に候補になっています。また、2010年の「暑」も気になります。

 さて、1995年、1998年、1999年、2000年、2001年、2003年、2004年、2010年、2011年、2016年、2018年には何が起きていたのでしょうか。

危うい漢字が候補になった年の災害・事故

 「震」の1995年には、阪神・淡路大震災で6000人を超える人が犠牲になりました。1998年には、和歌山でカレー毒物混入事件が、1999年には、東海村のJCOで臨界事故があり、2000年には、鳥取県西部地震、有珠山噴火、三宅島噴火、東海豪雨と災害が続き、日比谷線の脱線衝突もありました。

 21世紀になって、2001年には、芸予地震や、明石の花火大会での歩道橋事故、歌舞伎町のビル火災などが起き、2003年には、苫小牧でタンク火災が起きた十勝沖地震や朱鷺メッセの連絡デッキ落下が起きました。

 「災」の2004年には、新潟・福島豪雨、福井豪雨、紀伊半島南東沖地震、新潟県中越地震など災害が相次ぎました。また、「暑」の2010年には、熱中症で1731人もの方が亡くなりました。

 「絆」の2011年には、2万人を超える犠牲者を出した東日本大震災に加え、前震や誘発地震などが多数発生しました。震災直前には新燃岳が噴火し、震災での福島原発事故、天竜川の川下り船の転落死亡事故もありました。

 2016年には、震度7を2度記録した熊本地震に加え、鳥取県中部の地震、糸魚川火災、軽井沢スキーバス転落事故、博多駅前道路陥没事故などがありました。

 そして、「災」の2018年は、島根県西部の地震、大阪府北部の地震、北海道胆振東部地震、草津白根山噴火、北陸豪雪、西日本豪雨、台風21号、24号など災害が多発しました。

 さて、今年の12月12日にはどんな漢字が選ばれるのか楽しみですね。災いに関わる漢字ではなく、夢のある漢字を望みたいものです。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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