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11月の地震 最古の南海トラフ地震や死者1万人とも言われる首都直下地震も起きていた

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
北伊豆地震で被災した火雷神社の断層、著者撮影

684年11月26日(グレゴリオ暦は11月29日)(天武13年10月14日) 白鳳地震

 古文書に記された最古の南海トラフ地震です。日本書紀には「大地震。挙国男女叺唱、不知東西。則山崩河涌。諸国郡官舍及百姓倉屋。寺塔。神社。破壌之類、不可勝数。由是人民及六畜多死傷之。時伊予湯泉没而不出。土左国田苑五十余万頃。没為海。古老曰。若是地動未曾有也。」と記述されています。土砂崩れや液状化の記述や、諸国の官舎、百姓の倉屋、寺塔、神社の倒壊、多くの人民と六畜(牛・馬・羊・豚・狗・鶏)の死傷、伊予湯泉(道後温泉)の湧出停止、土佐国の田畑の埋没など、未だかつてない地震と記されています。まさに典型的な南海トラフ地震だと考えられます。南海トラフは、1300年以上もの期間、古文書に繰り返し起きる地震が記録された世界でも稀な場所です。

1614年11月26日 (慶長19年10月25日) 高田地震

 会津、伊豆、紀伊、山城、松山などが広域で揺れた地震のようです。揺れが広い地域に亘るため震源については諸説あります。この地震の9年前には東海道を津波が襲った慶長地震が、3年前には1611年慶長三陸地震が発生しており、江戸幕府開府後の一連の地震の一つです。この地震の直後の12月19日に大坂冬の陣が勃発し、翌年の夏の陣で豊臣家が滅亡しました。これによって盤石の江戸幕府が始まりました。

1677年11月4日(延宝5年10月9日) 延宝房総沖地震

 福島県から千葉県に亘って大津波が襲い、500〜600人の死者が出たと言われています。この震源域の北側では、2011年に東北地方太平洋沖地震が発生しており、今、千島海溝沿いの地震と共に心配されている地震の一つです。

1755年11月1日リスボン地震

 ユーラシアプレートとアフリカプレートの境界で発生したM8を超える巨大地震です。ポルトガルの首都・リスボンでは、強い揺れでほとんどの建物が倒壊し、さらに津波と火災も発生し6万人とも10万人とも言われる死者を出しました。この地震によって、大航海時代に世界を席巻したポルトガルは衰退への道を辿りました。リスボン地震の甚大な被害は、ヴォルテール、ルソー、カントなど、当時の思想家たちにも大きな影響を与えたと言われています。また、イギリスを中心に農業革命や産業革命が始まり、ヨーロッパの人口が急増し資本主義の時代へと移行していきました。

1855年11月11日(安政2年10月2日) 安政江戸地震

 江戸直下で起きた地震で、死者は1万人に達すると考えられています。沖積低地での被害が大きく、大手町から丸の内の大名小路にあった大名屋敷に大きな被害が出ました。新吉原では廓全体が延焼して1,000人以上が死亡しました。水戸藩上屋敷では、水戸藩主・徳川斉昭を支える両田と言われた藤田東湖と戸田忠太夫が圧死し、水戸の尊王攘夷派にとって大きな打撃となりました。被害の大きかった場所には、今、高層ビルが林立しています。ちなみに、この年には、飛騨地震、陸前地震も起き、江戸地震の4日前には東海道沖でも地震が起きています。前年に発生した1854年安政東海地震・南海地震の誘発地震や余震かもしれません。この地震の後、地震や台風、コレラの流行などが続き、1858年には安政の大獄が起き、大政奉還へと向かっていきました。

1930年(昭和5年)11月26日 北伊豆地震

 丹那断層などの活動によるM7.3の地震で、静岡県三島市で震度6を観測し、死者・行方不明者272名を出しました。伊豆半島北部の山間部で、山崩れや崖崩れが多く発生し、堰止湖ができたり、貯水場の築堤が決壊したりしました。この地震に先立って、東伊豆や伊東沖、伊豆半島の西側で群発地震が発生しており、発光現象や地鳴りなどの宏観異常現象もあったようです。丹那断層は、国の天然記念物に指定され、実際に観察することもできます。この地震では、東海道本線の丹那トンネルを建設中で、トンネルの崩落事故も発生しました。この地震の前後には、1923年関東地震、1925年北但馬地震、1927年北丹後地震、1933年昭和三陸地震と地震が続発しています。地震の翌年1931年には満州事変が勃発し、時代が暗くなっていきました。

1938年(昭和13年)11月5日〜7日 福島県東方沖での連続地震

 11月5日17時43分にM7.5、19時50分にM7.3、翌11月6日にM7.4、11月7日にM6.9と、短い期間に規模の大きな地震が福島県沖で連続して起きました。福島県、茨城県、宮城県で最大震度 5を記録し、1m程度の津波もありました。あまり知られていない地震ですが、今、このように地震が連発したら、大騒ぎになりそうです。

2014年(平成26年)11月22日 長野県北部の地震(長野県神城断層地震)

 M6.7の地震で、糸魚川静岡構造線の一部の神城断層がずれた地震です。長野市、小谷村、小川村で最大震度 6弱の揺れとなりました。81軒の全壊家屋が出ましたが、幸い死者はありませんでした。この周辺では2004年新潟県中越地震、2007年新潟県中越沖地震、2011年長野県北部の地震などが発生しています。

2016年(平成28年)11月22日 福島県沖の地震

 M7.4の地震で、2011年東北地方太平洋沖地震の余震の一つと考えられています。最大震度 5弱でしたが、宮城県仙台港で予測を超える144cmの津波を観測しました。震源の破壊の仕方によって特定の方向に強く津波が伝わりやすいことが津波予測に考慮されていなかったためと考えられます。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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