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北海道胆振東部地震から1か月 強かった北海道、比べて見えた大阪府北部地震、都市の脆弱さ

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
震度7を記録した厚真町の地震計・筆者撮影

北海道胆振東部地震と大阪府北部の地震

 9月6日(木)の未明3時7分に発生した北海道胆振東部地震から1か月が経ちます。地震規模はM6.7、最大震度は7でした。3か月前の6月18日(月)7時58分に起きた大阪府北部の地震(M6.1、最大震度6弱)と比べ、地震規模も揺れも遥かに大きな地震でした。2つの地震は何れも陸域の直下で起きた地震です。

 数字上は、胆振東部地震の放出エネルギーは8倍程度、揺れは3倍以上大きな地震です。胆振東部地震で震度6弱以上の揺れになったのは、震度7の厚真町、6強の安平町、むかわ町、6弱の札幌市東区、千歳市、日高町、平取町で、この区市町の居住人口は約40万人です。これに対し大阪府北部の地震で震度6弱だったのは、大阪市北区、高槻市、枚方市、茨木市、箕面市の5区市で、居住人口は合わせて120万人になります。

土砂災害や強い揺れで多くの被害を出した

 消防庁(胆振東部地震は9月27日、大阪府北部地震は9月18日による)の集計によると、北海道胆振東部地震と大阪府北部の地震の犠牲者は41人と5人、全半壊の住家数は1,341棟と488棟です。41人の死者のうち、37人は震度7の厚真町と震度6強のむかわ町で亡くなり、36人は大規模な土砂崩壊があった厚真町で発生しました。また382棟の全壊建物のうち、液状化による被害を受けた札幌市を除くと、8割以上が震度6強以上の揺れとなった胆振東部3町が占めました。このように、死者は、強い揺れによる土砂崩壊が主原因であり、全半壊建物については、震度7や6強の揺れや土砂崩壊によるもので、何れも強い揺れになった胆振東部地震の方が大きな被害となりました。

軽微な被害は大阪府北部の地震の方が大きい

 しかし、両地震の負傷者は689人と454人と余り変わらず、一部損壊の住家数は7,404棟と53,751棟と、大阪府北部の地震の方が7倍も多くなっています。この原因は、人口の差と、建物の耐震性の差にありそうです。

 そこで同じ震度6弱だった場所での一部損壊建物の数を比較してみます。北海道胆振東部地震で震度6弱の揺れだったのは、札幌市東区、千歳市、日高町、平取町です。札幌市東区を除く3市町の人口は11万人、面積は2300km2、人口密度は約50人/km2です。この3市町での一部損壊住家数は、調査が不十分かもしれませんが、北海道庁(10月4日)によると314棟です。

 これに対し大阪府北部の地震で震度6弱だった大阪市北区を除く、高槻市、枚方市、茨木市、箕面市の4市の人口は約120万人、面積は300 km2、人口密度は4000人/km2で、4市の一部損壊住家数は大阪府(8月8日)によると35,392棟です。人口は10倍、人口密度は100倍、一部損壊数は100倍近く異なります。

 これから、同じ揺れを受けても、北海道の住家は大阪の住家に比べ被害は1/10でしかなかったことが分かります。

震度7だった熊本地震との違い

 震度7の揺れとなった2016年熊本地震(M7.3)の直接死は50人、住家被害は、全半壊が43,399棟、一部破損が162,479棟でした。地震の規模は異なりますが、全半壊数は胆振東部地震の1,341棟と比べ、大きく異なります。震度7だった益城町と西原村の死者は37人と8人、全壊住家数は3025棟と513棟でした。

 一方で、震度7の厚真町の死者と全壊住家数は36人と44棟です。益城町と西原村の人口は約33000人と約7000人で合わせて約4万人、厚真町の人口は約4800人です。人口が8倍なのに対し、全半壊棟数は80倍で、人口換算すると熊本地震では10倍もの被害です。

 厚真町の被害は吉野地区の土砂災害が支配的だったことを考えると、厚真町での揺れによる被害は、益城町や西原村の1/10以下だったと推察されます。

地震に強い北海道の住家

 先日、厚真町、安平町、むかわ町の震度7や震度6強の観測点を全て回ってきましたが、観測地点周辺での家屋被害は大きなものではありませんでした。被害が顕著だった建物は、商店街の2階建て以上で1階に商店がある耐震要素が不足した古い建物でした。これに対し、一般の住家の揺れによる被害は非常に少なかった印象があります。これは、過去の北海道の地震でも指摘されてきていたこと。寒冷地で人口密度の低い北海道の家屋は、凍土対策で基礎が頑強で、窓が少なく壁が多い、屋根が軽い、多くが平屋、と強い家屋の条件が揃っていいます。これが被害の少なさの要因だと思われます。

大都市の地震対策の大切さ

 北海道の住家に比べ、大都市に多い、軟弱な地盤に立地し、窓が大きく、2~3階建てで屋根が重い住家は、耐震的に問題を抱えています。それが露呈したのが大阪府北部の地震での膨大な数の一部損壊住家です。すでに、大阪府北部の地震での地震保険の支払額は1995年阪神・淡路大震災を超え、歴代3位の866億円に達しています。地震保険支払額から推定される一部損壊住家数は、行政が把握している数とはオーダーが異なりさらに膨大です。

 また、経済被害も、北海道胆振東部地震よりも大阪府北部の地震の方が多額のようです。大阪府の製造品出荷額は北海道の2.5倍以上に上り、産業集積度の違いに原因がありそうです。

 上町台地にある大阪管区気象台の震度は4だったのにもかかわらず、大阪府内のエレベーターは、保守対象数7万6千台程度に対し6万6千台もが緊急停止しました。

 私たちは、華奢な大都市の脆弱さについてもっと重大に受けとめ、都市の安全対策に励むべきだと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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