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防災・減災で大切な四字熟語

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
野島断層保存館

「温故知新」で「未然防止」を

災害は繰り返しやってきます。そして、いつも新たな課題を生み出します。先人は、それを少しずつ改善することで災害を減らしてきました。過去の災害の教訓を学び、過去と現代の社会状況の差を分析した上で、現代の災害像を的確に予測し、その上で社会の不具合点を発見し、それを改善することで、災害被害を未然に防ぐことが可能となります。

「因果応報」を旨に被害原因の除去を

被害の発生原因を分析することは、災害を減らす基本です。被害の原因と結果を分析し、再び報いの被害を生じないように、被害原因を除去・改善することが防災対策の基本です。

「深謀遠慮」で「用意周到」な対策を

災害被害を減らすには、時空間の遠くと近くをバランスよく考える必要があります。昔と今と将来、短期と長期、身近なことと大局的なことなど、近視眼的にならず、深く考える姿勢が必要です。現代社会はスピードが速く、日常の目先のことを考えるので精一杯ですが、一度立ち止まって、必ず経験する将来の災害被害のことを考えたいものです。その上で、用意周到に災害を減らす準備を進めましょう。

「着眼大局」に「全体最適」で考え「着手小局」に「有言実行」

Think globally, act locally.の姿勢が何事にも必要です。大局的に災害被害軽減のための戦略を考える必要があります。縦割りの現代社会では、組織内の部分最適に陥りがちですが、大規模災害に対処するには、全体最適の姿勢が不可欠です。また、考えるだけでは被害は減りません。身近なところでの具体的な実践の積み重ねが災害被害軽減のための王道です。有言実行を旨としたいと思います。

「危険回避」と「事前防災」で被害軽減

被害を減らすには危険を回避することと、危険に遭遇しても大丈夫なように事前に対策しておくことが基本です。危険回避の基本は土地利用、事前防災の基本は耐震化や家具固定です。それに加え、災害後の早期回復のために様々な準備をしておくことも有用です。事業継続計画やタイムラインの作成、事前復興計画の作成などが考えられます。

「臨機応変」に「適材適所」で

災害時には、被害量と災害対応資源の早期把握に基づき、優先順位を決め、状況に応じて臨機応変に対応する必要があります。その際には、人的資源や資機材を適材適所で運用する必要があります。

「地産地消」、「自律分散」で被害波及を最小化

近年の災害では、地域間で相互に依存しているために、他地域の災害によってその影響が全国、世界に波及します。もし、それぞれの地域の自律性が高ければ、他地域の災害の影響を受けることはありません。また、物流が途絶えたときの影響も余りありません。地域の自律力を高めることが必要です。最近、コンパクト×ネットワークが叫ばれていますが、これも自律・分散・共助社会の形の一つです

地域に限らず、個人の生き方にも関わります。人生フルーツという映画が話題になっていますが、個々人がエネルギーや食糧を多少なりとも自給できれば、災害後の生活維持も容易です。何も江戸時代のような生活をしなくても、戸建て住宅なら、太陽電池と蓄電池、井戸、家庭菜園などのセットで何とかなります。我が家もまさに実践中です。将来は、自動運転、ドローン、エネルギー需給、井戸、浄化槽で、田舎での自立生活も容易になるかもしれません。

「自助努力」を「率先垂範」で

よく、自助、共助、公助は、7:2:1だと言われます。平時には公の力に期待できますが、大災害のときには公の力は全く足りません。まずは、自助努力を進めたいと思います。ですが、多くの方々にとって、防災対策は面倒臭く、楽観諦観もあいまって、色々理由をつけて対策を先延ばしにしがちです。このため、まちの顔役や公務員、教員など責任のある方々は、防災対策を率先垂範し、周辺の方々の行動誘発をしていただきたいと思います。現代社会は、少し個人の権利意識が強くなりつつあるようです、大規模災害に対しては、前政権で新しい公と言われたような市民参画や、ある種、滅私奉公的な考え方も必要になるかもしれません。 

地域の「相互扶助」に加え、「産官学民」が「一致団結」し減災の「連携協働」を

自助と公助をつなぐのが共助です。多くの人たちの力を結集することで、災害を乗り越えることが必要です。地域での助け合いである相互扶助は何よりも大切です。また、多大な債務を抱える中、公の力にも限界がありますから、産官学民が一致団結し、互いの役割を認識しつつ、災害被害軽減のため連携や協働を進めていきたいと思います。

ちなみに、先週6月1日に、産官学民が連携協働する「あいち・なごや強靭化共創センター」が名古屋大学に開設されました。

「自由闊達」に「創意工夫」で楽しい防災対策を

防災・減災というと、少し後ろ向きな感じを抱く人も多いかもしれません。ですが、防災・減災の活動は、地域の魅力発見や社会と接点を作るきっかけにもなります。また、外での活動は健康維持にも役立ちます。ぜひ、明るく、楽しく、前向きに、自由闊達な気持ちで、創意工夫しながら、防災対策に取り組んでみてはどうでしょう。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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