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東日本大震災から6年、地震と大学受験

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

合格発表直後に起きた東日本大震災

東日本大震災から6年が経ちます。私の所属する名古屋大学では、理系学生の多くは大学院に進学します。このため、今年修了する学生のほとんどは震災直後の4月に入学しました。6年前の本学の合格発表日は3月9日、大震災が起きたのはその2日後です。大学に合格した彼らは、新しい大学生活に期待を膨らませる中、凄まじい津波の様子を目の当たりにし、これからの先行きに不安を感じたと思います。

ちなみに、2011年の国立大学の前期日程の合格発表は3月6日~10日の間に行われました。東北大学、大阪大学、名古屋大学は3月9日、東京大学、京都大学は3月10日でした。

東京大学や京都大学の合格者の中には、震災当日は東京や京都で下宿探しをしていた人も多いと思います。当日は新幹線などの交通機関が途絶し、宿泊場所に苦労しただろうと想像されます。また、東北大学など東北地方の大学の合格者は、被害を受けた大学キャンパスや市内の様子を見て、4月以降の学生生活に不安感を抱いたのではないかと思います。大きな津波被害を受けた石巻市では、石巻専修大学の施設が避難所として転用されました。

中止や延期になった後期日程の入学試験

2011年の国立大学の後期日程入学試験は3月12日以降に予定されていました。多くの大学は震災翌日の3月12日が試験日でした。まさに、3月11日は、前期日程の合格発表と後期日程の入学試験の間の狭間の日でした。前期日程で不合格だった受験生は、震災当日は、後期日程入試の受験のために、遠隔の受験地に移動していました。被災地の大学では、受験する場所の下見中に、強い揺れに翻弄されることになり、翌日の受験に不安を覚えただろうと想像されます。また、被災地の受験生は試験どころではなかっただろうと思われます。

東北地方や関東地方の大学では、後期日程入試が中止、延期されました。また、多くの大学で、被災地の受験生向けに追試験が行われました。入試が中止された大学の多くでは、入試センター試験の点数で合否が判定されました。震災当時の河合塾の調べで は、後期日程を取り止めた大学が25大学、延期した大学が4 大学、追試験を実施した大学が35大学であったようです。

震災翌日に予定されていた入学試験を中止するには、受験生への連絡が必要になります。非常時の大学当局の対応の大変さが想像できます。

兵庫県南部地震も受験時期に発生

ちなみに、1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震は、1月14日~15日に大学入試センター試験の直後に発生しました。万が一センター試験当日に発生していたら大混乱だったと思います。阪神地域の受験生たちは、大変な思いをしながらその後の大学受験に挑みました。

当時、文部省は、2月3日に「阪神大震災で被災した受験生を対象とする特例入試の実施について」という文書を各国立大学へ送り、被災受験生の負担を軽減するために、被災市町村に住居か学校があり3月27日の時点でいずれの国公立大学にも合格していない受験生を対象に、一大学に限って受験が可能にしました。その結果、1,440人が受験し、347人が合格しました。

大学受験時期は寒い時期に当たるため、新型インフルエンザや積雪への対応などが、毎年話題になっています。

重要行事が目白押しの2月から4月

大学にとって、2月から4月は、重要行事が目白押しで続きます。入学試験、試験の採点、合否判定、合格発表、入学手続、卒業式、入学式、新入学生へのガイダンスなどです。いずれも個々の学生にとって、一生に一度の大切なことばかりです。震災時、専門学校の卒業式が行われていた東京・九段会館では、天井の崩落によって二十数名の死傷者が出ました。余震による被害も懸念される中、東北地方や関東地方では、卒業式を行えなかった大学も多くありました。

一方で、3月11日は、講義も無く、期末試験や卒業論文・修士論文の発表も終わり、大学内の学生が最も少ない時期です。研究活動は通常通り行われていますが、危険物を扱う実験も余り行われていない時期でもあります。大学内の施設や設備の損壊、家具・什器の転倒などにもかかわらず、大学内での被害は比較的少なくすみました。

大きな影響を受けた卒業生、新入生、留学生

3月は、大学生の入学・卒業で、引っ越しが多い時期です。被災地では、震災による卒業生の帰郷や就職、損傷した下宿の補修、ガソリン不足による運送業者の不足などのため、引っ越しが困難になった卒業生も多かったようです。下宿が空かなければ補修や入居ができなくなるため、新入生の下宿への入居も滞りました。施設や設備の被害を受けた大学も、仮校舎などの整備が必要となります。このため、入学式を自粛・延期し、始業時期を遅らせた大学も多くありました。例えば東北大学では、5月6日に学部別に入学式・新入生オリエンテーションを実施し、5月9日に授業を開始しています。また、留学生にも大きな影響が出ました。震災後、多くの留学生が帰国しました。

災害は時と場所を選びません。ここでは、大学という組織を中心に東日本大震災の影響を見てみました。この地震は、大学にとって一年で最も大切な時期に発生しました。いざというときのため、それぞれの組織が、個々の組織の態様や日時に応じて業務継続計画を作っておくことが大事なことがよく分かります。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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