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高強度コンクリートが実現した居住性の高いタワーマンション 地震への周到な準備を!

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

重さの割に強度が小さいコンクリート

コンクリートは、1平米の面積で支えられるのは2000トンくらいです。コンクリートの重さは1立米当たり2トンちょっとですから、直方体の形で無垢のコンクリートの塊を作ると、1000メートルの高さの構造物まで作ることができます。このくらいの高さになると、コンクリートは自分の重さで変形し、50センチ程度縮みます。これがコンクリートの堅さになります。

ちなみに、鉄の強度はコンクリートの10倍以上、重さは3倍ちょっと、堅さは10倍くらいです。従って、重さ当たりの性能は、鉄の方が、3倍以上高いことになります。木は軽いので、さらに性能が高い材料です。

直方体や円筒の形のままでは、1000メートル程度の高さしか作れませんが、ピラミッドのように四角錐や円錐の形にすると、直方体や円筒の体積の1/3になるので、重さも1/3になります。その結果、3倍の高さ、3000メートル程度の高さの構造物を作ることができます。まさしく、富士山のような規模のものになります。バベルの塔やピラミッドの形が四角錐や円錐の形をしている理由がよく分かります。

コンクリートで作れる建物の高さ

建築物の場合は、中に人が住む空間を作る必要がありますから、無垢の直方体をくり抜く必要があります。このため、重さを支える部分(柱)がずっと小さくなります。一方で、くり抜かれている分だけ重さも小さくなります。

コンクリートでできた建物の重さは、大体、床面積1平米当たり1トン位です。60センチ角の柱で、6メートル角の床を支えるとすれば、柱の大きさ(断面積)は、その柱が支える床面積の1/100程度の面積になります。各階の階高が4メートル程度だとすると、建物の体積1立米当たりの重さは0.2トンちょっとになりますから、無垢のコンクリートの1/10程度の重さ(密度)に相当します。

1/10の重さを1/100の太さのコンクリートで支えることになりますから、支えることができる高さは、無垢のコンクリートの1/10になります。すなわち100メートル位の高さの建物なら作ることができそうです。

ですが、強度ギリギリまで使うのは危険なので、一般に3程度の安全率を確保して建物の設計をしています。そうすると、30~40メートル程度が建物高さの限界になります。これは、10階建て程度の建物に相当します。

どうしてマンションではコンクリートが好まれる?

コンクリートは鉄に比べて強度が1/10程度です。建物の重さは、鉄骨系の方がコンクリート系より数割軽い程度なので、鉄骨の柱の断面の大きさは、コンクリート系の柱の1/10程度で良いことになります。この結果、柱が細くなり、軟らかい構造になって、強風が吹くと横に揺れやすくなってしまいます。事務所と違って住宅は、居住性が重視されますので、風が吹いても揺れにくい、堅い鉄筋コンクリートの方が適しています。

また、材料の性能が悪い分、沢山の材料を使うので、断熱性や遮音性も高まります。住戸の境に鉄筋コンクリートの耐震壁があれば、耐震性も遮音性も高まります。さらに、鉄骨系のビルに比べ、コンクリート系の方が安価に建設することもできます。こんな理由で、分譲マンションの多くは鉄筋コンクリートで作られています。

タワーマンションを可能にした超高強度コンクリート

鉄筋コンクリートの欠点は高いマンションを作ることができないことでした。ですが、最近になって、強度が極めて高い超高強度コンクリートが開発されました。

コンクリートは、セメント、骨材、水を混ぜて作るのですが、水が少ないほど強度が高くなります。ですが、水が少ないと流動しにくくなって、沢山の鉄筋がある型枠の中に隙間なくコンクリートを打設することが難しくなります。これを解決したのが、セメントに混ぜる化学混和剤です。

高性能AE減水剤という混和剤を加えることによって、少ない水でも流動性のあるコンクリートを作ることができるようになりました。その結果、通常の5倍以上の強度のコンクリートが開発されました。これによって、高層のタワーマンションの建設が可能になったのです。今では高さ200メートルものマンションが出現しています。

最近では、揺れを抑えるために免震タワーマンションも増えてきました。

大都市に高層のタワーマンションが林立するなんて、一昔前には誰も想像できませんでしたが、技術開発によって、高層階から大都市の夜景を楽しみながら快適に過ごすことができるようになりました。ただ、大地震で停電すると、エレベータが止まり、水のポンプアップもできなくなりますから、災害時のための周到な準備が必須だと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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