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東京の不思議さからみた災害危険度

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

魅惑のまち「東京」

東京は魔物のような魅力を持っています。全国から東京に憧れて多くの若者が集まります。東京にいると東京の特殊性を忘れ、常識を間違えることがあります。そこで、地方人の立場から東京の特徴を通して、防災上の課題について考えてみたいと思います。

若者が集まる東京

東京都には、毎年、他の道府県から10~20代の若者が35万人くらいが転入します。全国の大学生290万人のうち73万人が東京都の大学に通っています。人口比10%の東京に大学生は25%も居ます。さらに、大企業や官公庁も東京に集中していますので、就職のためにも若者が集まります。

地方出身職員が多い官公庁

東京都庁や区役所の職員の方々と話しをしていて驚くことがあります。多くの人が東京生まれじゃないことです。また、居住地も都外・区外の方が多いようです。地方では、県庁や市役所の職員の多くは地元出身者です。地元出身・居住でないと、地域特性の把握や、土地勘・地元愛などにも差が出てくるのではと感じます。

遠距離・狭小な住宅

東京は、隣接県からの遠距離通勤が多いようです。総務省の平成20年度統計によると、関東大都市圏の雇用者のうち1時間以上の通勤時間を要している割合は32%で、近畿大都市圏の22%、中京大都市圏の12%と比べ、厳しい通勤状況です。住宅の平均延べ面積も、全国平均94平米に対して64平米と最小です。ちなみに、大阪は75平米、愛知は95平米です。遠くて狭い住宅事情が、出生率の低さにもつながっていると思われます。

地域との縁の少なさ

東京は、独り身の人が多いようです。2015年の統計によると、単独世帯の割合は、全国平均33.3%に対し45.5%です。また、国立や私立の中学の生徒数の比率は、全国平均8.01%に対し、東京は26.44%と最大です(2011年)。地元小中学校は地域コミュニティの中心ですが、東京では地域との関係が疎遠な人が多いと思われます。災害対応で重要となる地域力の弱さが気がかりです。

汗をかいて働く人の少なさ

東京は、第3次産業で働く人の比率が高い地域です。2005年国勢調査によると、全国平均67.2%に対して、東京は77.4%となっています。農業従事者や建設業従事者の割合が低く、災害後の復旧・復興に大きな力を発揮する汗をかいて働く人が少ないように感じます。

低い食料・エネルギー自給率

食料やエネルギーの自給力も地方と比べて劣っています。農林水産省によると2013年度の食料自給率はカロリーベースで全国平均39%に対し東京は1%です。また、新潟や福島、青森の原子力発電所に頼ってきた電気など、食料やエネルギーの他地域への依存度が高いようです。このため、他地域での災害の影響を受けやすくなります。

自然との距離が怖れを忘れさせる

地方では、少し車で走れば田園や自然に出会いますが、東京は都市圏が余りにも広大で、人工空間に囲まれて過ごしてしまいます。自然との距離感は、自然の怖さを忘れる原因になります。自然は、日常と非日常で姿を変えます。寺田寅彦が「日本の自然観」で述べた「大自然は慈母であると同時に嚴父である」との言葉を忘れないでおきたいと思います。

東京のまちの高い効率性は、他の道府県に支えられたものです。地方に対する配慮を忘れずに、東京の魅力を満喫したいものです。また、足元の災害危険度の高さを実感すれば、災害被害を減らすきっかけにもなります。災害を未然に防ぐため、地道な防災対策をしっかり進めたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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