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この20年で社会は安全になったのか? 社会の変化からみる災害への備え

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
現在の三宮駅北側

阪神淡路大震災から20年を迎えました。この震災では、大都市・神戸市直下の活断層がずれ動いたため、マグニチュード7クラスの地震にも関わらず、6400余名の犠牲者、10万棟の全壊家屋、10兆円の経済被害を出しました。その後、新潟県中越地震や中越沖地震を始め、兵庫県南部地震と同規模の地震が10回程度発生していますが、阪神淡路大震災以上の被害を出したのは、マグニチュード9.0の東日本大震災しかありません。人口密集による現代都市社会のもろさが理解できます。

阪神淡路大震災から20年経った今、我が国の社会はどのように変わったでしょうか。ここでは、NHK クローズアップ現代 20周年 特設サイトに掲載されている20年間の数字の変化を紹介しながら、安全の問題を考えてみます。いずれも1993年と2013年の比較です。

減少する若者人口と雇用の悪化

15歳未満人口は、2,084万人から1,659万人と、2割も減りました。若者の数は、災害後の回復力の源泉です。正規雇用者割合も79%から65%へと、2割減りました。災害後の回復力を高めるには、職の確保が欠かせません。

膨れる医療費と債務

国民一人当たりの医療費は、19.5万円から29.2万円へと、1.5倍にもなりました。このこともあり、国と地方の借金の合計は、333兆円から977兆円へと、3倍にも膨らみました。ちなみに、2015年3月末時点の国の借金額は1053兆円になっています(財務省発表)。公的な力のみでは、災害を防ぐインフラの整備が難しいことが分かります。家族の命は、自分で守るしかありません。

世帯収入と生活のゆとり

我が国の国民総生産は467兆円から520兆円へと、1割しか増えていません。1月当たりの世帯収入は、57万円から52万円へと減少しています。このためか、サラリーマンのランチ代は746円から510円へと、3割も減っています。一昔前は、サラリーマンがレストランでお昼ご飯を食べている光景をよく見ましたが、最近は、店頭で売っているお弁当をオフィスに持ち帰って、メールをチェックしながら食べていることが多いように思います。社会のゆとりが無くなっているようです。

社会の備蓄の減少

一方、社会はますます便利になっています。コンビニの店舗数は、23千店から47千店へと倍増し、また、レストランの数は、3,876店から12,429店と3倍にもなりました。宅配便荷物数も11.9億個から34.0億個へと3倍増です。コンビニには倉庫がなく、物流に頼るので、社会全体の備蓄が減っていることになります。また、家庭で食事を作らなくなると、家の食糧備蓄も減ります。このことに気づいている人は、家庭の備蓄を増やしています。

便利だけれど脆い社会

専業主婦世帯は915万から773万へと2割弱減り、家庭や地域を守る力が弱っています。また、効率よく家事をするため、システムキッチン普及率は26.3%から63.2%へ、食器洗い機普及率は28.7%にもなりました。携帯電話普及率は1.7%から106.8%、パソコン普及率は11.9%から77.3%、インターネット普及率は79.1%にも上ります。これらは、何れも電気がないと使えないものです。

さて、この20年で、社会は安全になったかどうか、我が家の変化を通して考えてみて下さい。もしも、危険が増えたと思うようでしたら、少しずつ災害への備えを進めてみませんか。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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