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Vol.4 ラグビー NTTドコモレッドハリケーンズの開幕3連勝を支える”脇役”の存在

福富信也東京電機大学理工学部/(株)ヒューマナジー代表取締役
高野大寿:撮影

第3節リコーブラックラムズ戦も手に汗握る展開で、またしても試合終了間際で大逆転勝利を収めることができ、チームは開幕3連勝を飾ることができました。トップリーグでの3連勝は、なんとチーム史上初の快挙です。

結果もさることながら、私が繰り返し訴えてきたことを意識してくれている選手たちには感謝しかありません。

「勝利を約束できるチームは1つもないが、全力で戦う姿勢だけは約束してくれ」

この言葉を胸に刻み、これからも戦い続けてほしいです。

まさに、今のレッドハリケーンズは「ONE TEAM」という言葉がふさわしいチームへと生まれ変わってきています。ただし、まだ成長段階であって、決して成熟したチームとは言えません。勝利に浮かれて気を緩めたら、それはすぐに結果に反映されてしまうことでしょう。

さて、このコラムでは、チームワークの強化・チーム力の最大化、いわゆるチームビルディングという立場でレッドハリケーンズをサポートしている私が、”チームはどのような課題に直面しているのか” “(表面化していない課題も含め)今後どのようなリスクが潜んでいるのか”、そのうえで ”どのような改善策を処方したのか(するつもりか)” を、わかりやすくご紹介しています。一般社会でも通じる組織論について、ラグビーをご存じない方でも楽しんでいただけるよう書いていきますので、よろしくお願いいたします。

現在、レッドハリケーンズの選手・関係者は、開幕3連勝によって「追い求めるチーム像、ラグビースタイルは決して間違いではなかった」と感じているはずです。だからこそ私は、日本代表選手や強豪国の代表クラスの選手を多く擁する、次節のパナソニック ワイルドナイツ戦が重要だと捉えています。強豪相手に、自分たちのラグビーがどれだけ通用するのか、チームの立ち位置と成長を確かめる絶好の機会です。

今回のコラム(Vol.4)では、今シーズンのレッドハリケーンズにとっての「最重要テーマ」に迫っていきたいと思います。最重要テーマとはいったい何なのか。それは、試合への出場機会に恵まれていないメンバー、つまり脇役の存在に関することです。脇役が主役級に頑張るチームこそがONE TEAMなのです。本当の意味で一体感のあるチームをつくる際、”脇役こそがカギを握る存在なんだ” ということを選手たちに伝えてきました。

今回のコラムが、ラグビーファンの皆さんはもちろんのこと、他のスポーツに取り組む方々の刺激になれれば幸いです。

“一体感” というのはどのような状態を指すのか

NTTドコモレッドハリケーンズ:提供
NTTドコモレッドハリケーンズ:提供

皆さんは、メンバー全員が1つの目標に向けてまとまっているチーム状態のことを、どのように表現しますか?

きっと多くの方が「一体感」「チーム一丸」という言葉で表現すると思います。

ちなみに、この何気なく使ってしまう「一体感」という言葉ですが、皆さんは「一体感」を意図的に生み出すことはできると思いますか。

実は、できるのです。

ところが、サッカーの日本代表で活躍した選手たちでさえも、一体感の重要性は認識しているものの、その生み出し方まではわかっていませんでした。「勝っていれば一体感は生まれるし、負ければ失う。一体感は天気のようなものだと思っていた」という選手もいたほどです。つまり、自分たちではコントロールできないもの、という認識だったわけです。かういう私も、一体感を生み出すコツを理解するまでにずいぶんと時間を要しました。

何気なく使ってしまうこの便利な言葉。なのに、うまく説明できない感覚的な言葉。そんな「一体感」ついて、まずは私なりの考えをお伝えさせていただきます。

一体感とは……「脇役が本気になっているチーム状態」を指す言葉

私の経験上、一体感とは「脇役が本気になっているチーム状態」だと理解しています。この言葉の中にある “脇役” というのは、ピッチに立っていない選手はもちろんのこと、チームスタッフ、フロントなども含まれます。もっと俯瞰的に捉えれば、ピッチに立つことはできないけれども一緒に戦っているファン・サポーターの皆さんもここに含まれるかもしれません。本来であれば脇役と呼ばれる存在までもが「自分事」「当事者意識」「主役感」をもって前のめりに参画している状態こそ、「一体感」という表現がふさわしいと思います。

タイラー選手とマピンピ選手が過去の経験をチームに共有

高野大寿:撮影
高野大寿:撮影

私は、準備したとおりにミーティングを行うことはほとんどありません。入念な準備をして臨むいっぽうで、選手たちの興味・関心に合わせて臨機応変に流れを変えていきます。この舵取りは、経験がなければ難しいかもしれませんが、選手が受け身にならないためにも大切なことです。

レッドハリケーンズには外国籍選手が多く、ミーティングは通訳を交えるため、単純に時間は2倍かかります。ですから、選手たちの集中力が切れることも想定しなければなりません。天気が悪いとき、朝早いときは、選手たちの気持ちが高まらないこともあります。今回のミーティングでも、急遽、予定になかったトークタイムを設けました。私からの話が10分以上続いたので、このまま続けると選手が退屈してしまうと感じたからです。

そこで、3~4名のグループに分かれてもらい、以下の2つのテーマを伝え、選手同士が過去の経験を共有し合いました。

『自らが控え選手だった際、モチベーションが下がり、チームに貢献できなかった経験』

『控え選手だったにもかかわらず、チームのために全力で頑張れた経験』

私もいくつかのグループを見てまわり、興味深く聞かせてもらいました。

苦しかった過去の心境や葛藤、そしてそれをどう乗り越えたのかを思い出し、神妙な面持ちで話をしている選手が多かったのが印象的でした。また、聞いている選手も、仲間の体験を自分自身と重ね合わせながら真剣に耳を傾けていました。

お互いの過去を振り返りつつも、まるで今シーズンの決意表明をしているかのような時間でした。選手たちの表情は穏やかでしたが、そこには確かな熱量が感じられました。

そして私は、タイラー選手とマピンピ選手を指名し、彼らのエピソードをチーム全員の前でシェアしてもらうことにしました。ご紹介します。彼らの人間性が伝わってくる内容です。

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▼タイラー・ポール選手

高野大寿:撮影
高野大寿:撮影

この場にいる選手全員、誰もが、毎週やってくる試合に出場したいと思うのは当然です。それは私も同じです。ただ、メンバー入りは「23人」という制限があり、「出場したい」という希望が常に叶うわけではないことも当然わかっています。もちろん、23人の枠に入れなければ悲しいし、何故自分がその枠に入れなかったのかという理由を知りたいというのも当然です。

ただし、23人から外れた選手が何もしなくていいかというと、そうではありません。試合に出場できないからといってチームにおける役割が何もないわけではなく、むしろ出らないからこそ、チームのためにできることを見つけなければなりません。

なぜかというと『僕らのチームを代表して戦う仲間のためにも』だからです。そして、『僕らを支えてくれる全ての人のためにも』だからです。

ただ、正直、それが口で言うほど簡単なことではないことも理解しています。気持ち的には辛いと思います。何とも言えない気持ちであり、切り替えるのが大変だと思います。皆それぞれ思うこともあるだろうし、そうした気持ちを抑え、どうにか耐え、チームのためにできることをやらなければなりません。やはり大事なのは「チームファーストの心」なんです。

個人的な感情というのは可能な限り抑えて、チームのために貢献できるようにやっていけたらいいのではないか、先程のグループで私はそういう話を共有していました。

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▼マカゾレ・マピンピ選手

高野大寿:撮影
高野大寿:撮影

これは私が実際に経験したことで、あまり試合に出場できず苦しんでいた頃の話です。当時の私は、いつも「なぜ自分を起用してくれないんだ」「(出場している仲間に対して)なぜあんなプレーをするんだ」とベンチでよく文句ばかり口にしていました。悔しかったんです。単純に起用してもらえないことに苛立っていました。納得できないでいました。

でも、ある時、ふと「本当のところ、自分は何が理由で試合に出場できないのか」というのを考えたんです。その時、素直に思いました。自分がチームに貢献できていないんだ、と気づいたんです。

当時の私は、いつも自分のプレーや評価ばかり気にしていました。そして先程のグループでディスカッションをしていた時に、タイラーの話を聞いてそのことを思い出しました。私も思い悩んだ時期にそれを克服できた理由は、「チームファーストの心」を第一に考えるようにしたからでした。

「チームのために」「チームの一員として」と、常に考えるようにしたんです。試合に出場できる時もそうでない時も、チームのために何ができるだろうと考えるようにしました。それ以来、すべてが好転し始め、チームからも次第に評価してもらえるようになりました。

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皆の前で、自らの経験や考えを発表してくれた2選手には本当に感謝です。

両選手ともにラグビー強豪国である南アフリカ共和国出身で、マピンピ選手は、まだ記憶に新しい2019年日本開催のワールドカップで6トライを挙げ、優勝に大きく貢献した選手です。そんな彼に苦しい時期があったことを知っただけでも親近感が湧きます。それだけでなく、自らマインドセットすることで困難を乗り越え、スターに上り詰めたエピソードは、皆に勇気を与えてくれます。二人は、苦しいときに取るべき心構えや模範的行動を示してくれたのです。

実は、このミーティングを実施したのはシーズン開幕前のことでした。

そして、いよいよ迎えた開幕戦。

なんとメンバーにマピンピ選手の名前はありませんでした。そして、第2戦も彼の名前はありませんでした。今シーズン、鳴り物入りで加入したスーパースターが2試合連続メンバー落ち。さすがに私も心配になりましたが、その間、彼の振る舞いはチームに悪影響を及ぼすどころか、好影響を与えてくれていました。

開幕から2戦連続でメンバー落ちしたときの心境について、マピンピ選手にオンラインで聞きました。

「日本でのルール(外国籍選手の出場枠)についてはわかっていた。

チームの戦術的な事情も理解していた。

だからチームファーストを心掛けていたよ。

出られないからと言って、単にトレーニングをして終わるのではなく、自分のどこに問題があるか点検し、いつでも良い準備を続けていた」

そして、3試合目のリコーブラックラムズ戦で、待ちに待った日本デビューを果たしたのです。そして、チームに勢いをもたらすトライを決めるなど大活躍し、開幕3連勝に貢献してくれました。

過去のスポーツ事例からみる!脇役がチームを支えた実績

ここでは、実際に脇役がチームに多大な好影響を与えたスポーツ事例をご紹介します。

この記事でも以前触れたことのある、2016年リオデジャネイロオリンピックの陸上男子4×100mリレーの話です。日本代表チームは、この大会で銀メダル獲得という快挙を成し遂げました。

ところで、皆さんはリレーを4人チームだと思っていませんか?実はリレー日本代表チームは4人以外の2選手が大きな役割を果たしていたのです。第2走者の飯塚翔太選手の帰国後のインタビューでは、こんなエピソードが語られました。

「高瀬さん、藤光さん(選ばれなかった2選手)がいなければ、間違いなくここまでこられていなかったと思います。2人が僕らより年上というのがすごく大きかったです。

だって、絶対に悔しいと思うんですよ。でもアップで一緒に流しとかやっているときとかも、絶対にいろいろな思いがあるはずなのに、そういうのを見せず、僕らをサポートしてくれました。

それは若い選手だったらできなかったことじゃないかと思うし、2人がそばにいてくれたからこそ、僕らは1つも困ることなく、いつもと変わることなく競技に臨めました。

決勝の前も『頑張ってこい』と、いつもと同じように送り出してくれて、レース後は心から喜んでくれました。

あの二人がいてくれて本当に良かったです。感謝しています」とコメントしています(日本陸上競技連盟公式サイトより引用)。

この事例は、まさしくタイラー選手が語ってくれたエピソードと同じです。出場できない状況を受け入れ、気持ちを切り替えることは簡単なことではありませんが、チームのためにできることをやり抜いた、脇役の勝利なのです。

脇役の存在こそが躍進のカギ!チームが1つになるための必須条件

NTTドコモレッドハリケーンズ:提供
NTTドコモレッドハリケーンズ:提供

試合内容は主力で決まるが、勝敗は脇役の熱量が大きく左右する。

私は、今回のコラムを通じて、脇役の重要性をお伝えしたいと考えていました。まさに上の言葉に凝縮されていると思っております。

ラグビーで、全員を主役にする方法は簡単です。

メンバーを15人しか集めなければいいのです。

しかし・・・。

15人しかいないラグビーチームを想像してみてください。

紅白戦はできません。

紅白戦がしたければ30人を集めればいいのです。

しかし、

30人しかいないラグビーチームを想像してみてください。

たった1人がケガをしたら、またしても紅白戦ができません。

勝利のために激しく妥協のない練習をしていくには、30人でもまったく足りないのです。

現在、NTTドコモレッドハリケーンズには、約50名の選手が在籍していますが、全員の存在が欠かせないのです。必ず一人ひとりに存在価値があります。それを見出せないチームには「一体感」は備わりません。お互いの存在意義に気づき、感謝し、それを言葉と態度で伝えあってほしいと思います。

また、日本語には「競争」という言葉と「切磋琢磨」という言葉があります。

競争は「勝ち負け・優劣を人と競り合うこと」を指し、切磋琢磨は「お互いに高め合う」という意味があります。競争は、一歩間違うと「足の引っ張り合いや蹴落とし合い」に繋がってしまいます。「蹴落とし合い」はチーム内に敵を作ることになり、「一体感」とは真逆の行為になっていきます。

ちなみに、そのような「仲間のやる気を削ぐ」行為は、結果的に自分の夢も遠ざけてしまうことになります。なぜなら、やる気を失った仲間と紅白戦をしていても、自分の成長が鈍るからです。チームメイトは蹴落とす対象ではなく、高め合う仲間でなければならないのです。

現在、リーグ戦は3節が終了しました。ここまで試合出場している選手であっても、出場機会が減ってくることはあり得ます。先ほどのタイラー選手とマピンピ選手の言葉にもあったように「チームファースト」を貫けるかが「一体感」のポイントです。そのためにも、試合に出ている選手が周囲を見渡し、出場機会の少ない仲間に感謝し、全体の士気を高めるようなアクションをとることが必要です。

また、リーグ戦が進むに連れて、ケガ人も増えてくるのは当然です。ケガしたメンバーは、全体練習から外れて別メニュートレーニングとなるので、チームメイトと顔を合わせる機会が減ります。それを放置していると、思いがけずそこに溝が生じてくるものです。

それを防ぐためには、常にお互いが関心を寄せ合い、コミュニケーションを図ることです。Vol.3でご紹介したヨハンのメッセージにもあったとおり、短い時間でも良いのでコーヒーを片手にお互いを「INSPIREする」時間をつくれるかどうか。その積み重ねが、一体感という目に見えないパワーを生み出すのです。

今回は、一体感というテーマのもと、脇役の存在にフォーカスしました。試合に出場しているメンバーではなく、それを支える脇役(控え選手、フロントスタッフ、サポーターなど)が主役級の存在感を発揮している状態こそが真の「一体感」であり、”脇役の存在こそが勝敗を左右する” というテーマの話をさせていただきました。

試合内容は主力で決まるが、勝敗は脇役の熱量が大きく左右する。

これまでの指導経験から、私はこの言葉に辿り着きました。

今シーズンのファーストステージも折り返しを迎えます。ここまでレッドハリケーンズは開幕から無傷の3連勝、グループ3位につけています。チームも、個々も、着実に力をつけており、成長しています。次節、第4節は常勝チーム「パナソニック ワイルドナイツ」との一戦です。この試合こそ、今のレッドハリケーンズの立ち位置を知る絶好の機会です。

きっとレッドハリケーンズは、チーム一丸となって1つの生命体の如く躍動してくれるはずです。

東京電機大学理工学部/(株)ヒューマナジー代表取締役

横浜F・マリノスコーチを経て、現在は東京電機大学理工学部の教員。 Jリーグ監督に必要なS級ライセンス講習会の講師を務める。2016-17年北海道コンサドーレ札幌(J2優勝、J1昇格)、2018-19年ヴィッセル神戸(天皇杯優勝)、2020-21年ラグビーNTTdocomo(リーグワン参入)、2022-23藤枝MYFC(J2初昇格)、2024年からはFC東京のアドバイザーに就任。 スポーツチームのみならず、大企業から中小企業まで研修実績多数。その他、講演・メディア出演・雑誌連載など。著書→脱トップダウン思考(2019)、チームワークの強化書(2022)など。(株)ヒューマナジー代表取締役。

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