なぜラグビーをしているのか ーNTTドコモを指導する私が選手に投げかけた言葉ー

撮影:高野大寿

2021シーズン ラグビーTOP LEAGUE開幕!

「ONE TEAM」

この言葉が日本国内を席巻した、2019年の「第9回ラグビーワールドカップ日本大会」。

日本は、2015年のイングランド大会において"史上最大の番狂わせ(=ジャイアントキリング)"をみせ、当時世界ランキング3位、過去2回のワールドカップ優勝を誇る南アフリカ代表から勝利を掴み取りました。そして、迎えた4年後の日本大会では、”周囲の期待”というプレッシャーの中、日本はチーム一丸となり、持ち前の体を張った低いタックル(=ディフェンス)から粘り強い戦いをみせ、数少ない好機を確実に活かし、すべての試合で熱戦を展開。日本初となる決勝トーナメント進出を果たす快挙を成し遂げました。

結果的に、その大会での活躍が認められ、日本国内最高峰のラグビーリーグ「TOP LEAGUE」は、世界屈指の注目リーグの1つへと変貌を遂げようとしています。その証拠に、強豪国の代表、しかも主力級のスター選手が続々と日本のクラブチームに移籍を果たしています。

そして、緊急事態宣言の影響から開幕が順延となっていた、TOP LEAGUE 2020-2021シーズンが今週末(2/20、21)ついにスタートします。

初めまして。私はラグビーTOP LEAGUEに所属するチームの1つ、「NTTドコモレッドハリケーンズ」のチームアドバイザー・福富信也です。

私自身、これまではサッカーの仕事をしてきたため、ラグビーに携わることは初めてですが、これまでの経験を活かし、1つでも多くチームに貢献できるように尽力しています。

チームにおける私の役割を簡潔にご説明すると、チームワーク強化、チーム力の最大化、いわゆるチームビルディングという点でサポートしていくことです。

これまでの経歴については、下記プロフィールを参照ください。

プロフィール

福富信也(ふくとみ・しんや)

Jリーグ「横浜F・マリノス」のコーチを経て、2011年東京電機大学理工学部に教員として着任(サッカー部監督兼務)。また、その傍ら、チームのメンバーが互いに違いを認め、尊重しあい、永続的に学びと発展のあるチームづくりを支援する株式会社Humanergy(ヒューマナジー)を2015年に設立。

【実績 等】

日本サッカー協会公認指導者S級ライセンス(Jリーグ監督必須ライセンス)で講師を務め、Jリーグトップチームや年代別日本代表を指導。2016-17シーズンに「北海道コンサドーレ札幌(J2優勝|J1昇格・定着)」、2018-19シーズンに「ヴィッセル神戸(天皇杯優勝:ACL 出場権獲得 / ゼロックススーパーカップ優勝 等)」。

その他、企業を対象にした研修実績も豊富。雑誌連載、新聞取材、テレビ・ラジオ出演など多数。

著書に、「個」を生かすチームビルディング/「勝つ」組織/脱トップダウン思考 がある。

参考)

チームアドバイザー・福富信也がレッドハリケーンズを診断! -2020-21シーズンのレッドハリケーンズ解体新書-

https://docomo-rugby.jp/special/2020/advisers_analysis/

私は今後、第9回ラグビーワールドカップの日本代表に勝るとも劣らない、マインド・チームワークをレッドハリケーンズに注入すべく、指導のポイントや気づきを、この場でご紹介していこうと思っています。

私の強みは、スポーツにおけるチームビルディングの考え方をビジネスでも応用する、という点にあります。拙著「脱トップダウン思考」では、チームワークに関するスポーツとビジネスの親和性について書きましたので、興味のある方はぜひお読みください。今回は、NTTドコモレッドハリケーンズの選手たちが企業チームとして何を期待されているのか、どんな責任を負っているのか、というテーマに触れながら、スポーツとビジネスの両面で役立つ視点をお届けします。

日本国内のラグビーファンの方はもちろん、ビジネスパーソン、特に(その規模は問わず)組織・チームのマネジメントやリーダーを任されている方に、1つでもよりよい気づきを感じてもらえるような情報を発信していきたいと考えております。ぜひご期待ください。

私が行なっている指導「チームビルディング」について

ここからは、実際に私がレッドハリケーンズでどのような指導を行なっているのかをお話ししていきます。

チームからリリースが流れ、私が正式にレッドハリケーンズに帯同し始めてから約3か月が経過しました。現在は、当初1月初旬からスタートするはずだったラグビー TOP LEAGUE 2020-2021シーズンの開幕に向けて、チームワーク構築・強化を目的に指導を行なっています。

私にとっての指導初日は、今シーズンから指揮を執るヨハン・アッカーマン ヘッドコーチが来日し、本格的に現場の指揮を執り始めてまもなくしてからでした。

私にとっての初指導は、選手へのミーティング(※1)を行うことでした。そして、強烈なメッセージを発信して意識改革を起こし、ヨハンヘッドコーチの船出をスムーズにすることを使命としました。私はヨハンの来日前から”ヨハンの目指すチームづくりのコンセプト” を共有させてもらい、彼のマインドを深く理解したうえで、ミーティング資料を用意しました。ミーティング前夜には、ヨハンと打ち合わせを実施し、ミーティングで使用するスライドを投影して、内容をチェックしてもらいました。その内容を見たヨハンからは「素晴らしい!」という感想をもらい、改めて「このヘッドコーチは経験則でチームビルディングの重要性を強く認識しているな」と実感しました。

ヨハンからの太鼓判をもらった直後、ホテルに戻った私は、OKをもらったスライドに再度修正を加えました。最後に修正を加えた理由は、「(説明する)意味や内容が同じならヨハンが好んで使っていた言葉の方がいい」と思ったからです。その方がヨハンとの信頼関係も構築できますし、彼のマインドが選手に浸透しやすいはずだと考えたからです。

ちなみに、今回のミーティングでは、選手・コーチングスタッフ・通訳・トレーナーなど、すべてのチーム関係者を対象に1時間程度実施。内容としては「チームが目指す姿」「チームの存在意義・使命」「企業のシンボリックスポーツとしてのあり方」「そのためのマインド」という点を中心に話をしました。

▼Team Philosophy

私たちはラグビーを通じて夢と感動を創り、社会に貢献できる人間となる

▼Team Slogan

PLAY TO INSPIRE

レッドハリケーンズのチーム理念(Team Philosophy)は「私たちはラグビーを通じて夢と感動を創り、社会に貢献できる人間となる」であり、今シーズンのスローガン(Team Slogan)は「PLAY TO INSPIRE」です。

私は、この2つこそが最重要だと考えています。

ミーティングでは、参加した全員にこの「抽象的な」チーム理念とスローガンを「どのように捉えているのか」「どう理解しているのか」を問い、丁寧に紐解きながら「具体的な」行動に変換していきました。抽象的な言葉だと、共感はできたとしても具体的な行動には結びつきにくいからです。そして、ヨハンがたびたび口にしている「なぜラグビーをしているのか(ラグビーに携わっているのか)」「なぜ今グラウンドにいるのか」というメッセージについても今一度考え直すことが重要だと伝えました。

撮影:高野大寿
撮影:高野大寿

勝つ確率を1%でも高める努力を惜しまない

レッドハリケーンズは、NTTドコモにとってのシンボリックスポーツチームです。

皆さんは、このシンボリックスポーツチームの役割について、どのように捉えていらっしゃいますか。そもそもシンボリックスポーツという言葉をご存じでしょうか。

私の考えるシンボリックスポーツチームについてご説明しますと、「企業に務める社員の一体感(帰属意識)の高揚と会社のイメージアップ、地域貢献等を果たすことが求められたチーム・組織」であり、レッドハリケーンズはラグビーを通じてその役割を果たす形となります。

そして、すべてのチーム関係者の目指すべき方向性を合わせるためにも、重要となるのが「チーム理念」や「スローガン」です。企業にとっても、企業理念(ミッション)やビジョンが重要なのと同じです。

それに沿って考えると、レッドハリケーンズは、選手・チームスタッフ全員が、

チーム理念「ラグビーを通じて夢と感動を創り、社会に貢献できる人間となる」

チームスローガン「PLAY TO INSPIRE」を意識し続けること が必要なのです。

私がこのミーティングを実施したのが昨年末。その時点では、私がチームに関わり始めて約1か月という短い期間でしたが、私はその限られた時間の中で、「最重要であるチーム理念、チームスローガンの本当の意味がチームに浸透していないのでは」と強く感じていました。そして、それが影響し、チームとして意識が統一されず、結果的にTOP LEAGUEと1つ下のカテゴリー(トップチャレンジリーグ)の昇降格を繰り返す状況を招いているのではと考えていました。

『私たちは単にラグビーを見せるだけの職業ではない!ファンやサポーターの皆さんは、単にラグビーを観ることにお金を払っているのではない!ラグビー観戦を通じて得られる”素敵な体験”に期待をしてスタジアムに来てくださるんだ!』

『俺たちのプレーを観たビジネスパーソンが「よし!月曜日からも仕事を頑張るぞ!」と言ってくれるか?観戦してくれた家族の食卓が、レッドハリケーンズの話題でもちきりになっているか?』

これが、私にとっての初ミーティングで、選手たちに投げかけたメッセージです。

”理念の追求”を忘れずに、試合や練習を観に来てくれた方々が、「果たして今日は、”夢と感動”を持ち帰ってくれただろうか?」と、自分自身に毎日問い続けてほしいのです。「スタジアムへ来てくれる人たちに”素敵な体験”を約束できるような私生活だろうか?」と問い続けながら毎日を過ごしていってほしいのです。ロッカールームの整理整頓、練習時の素早い集合、円陣の際の選手同士の距離感、妥協のないコミュニケーション、最後まで走り切る精神力、疲労回復のための食事や睡眠など、”抽象的な”チーム理念を1つずつ噛み砕いていくことで、”具体的な”行動の変化に繋げようとしたのです。

今回、私が指導した際の狙いは、チームの「あたりまえ基準」を1段階上げて、ラグビー選手として24時間を高い意識で過ごすマインドセットの浸透でした。抽象的だった理念やスローガンを具体的な場面・行動に落とし込んだことで、今後変化が見られるかもしれません。根本的なところからチームを見直す考え方もヨハンと共感し合えているポイントです。

日本ラグビーの最高峰リーグ "TOP LEAGUE"から目が離せない!

昨年のワールドカップ優勝国の南アフリカ代表の主力選手「マカゾレ・マピンピ」や、ニュージーランド代表(オールブラックス)のスクラムハーフ「TJ・ペレナラ」などといった選手が加入したレッドハリケーンズをはじめ、そのほかにもニュージーランド代表の「ボーデン・バレット(サントリーサンゴリアス)」、スコットランド代表の「グレイグ・レイドロー(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)」、イングランド代表の「ジョージ・クルーズ(パナソニック ワイルドナイツ)」、ウェールズ代表の「ハドレー・パークス(パナソニック ワイルドナイツ)」など、多くの国際経験豊かな選手が日本のTOP LEAGUEに活躍の場を移した今シーズン。開幕前から、かつてないほどその注目度は増しています。

今シーズン、皆さんに着目していただきたいポイントは2つ。1つ目は、言うまでもなくワールドクラスの個人技(スピードやテクニック)です。そして2つ目は、日本代表がワールドカップでみせたようなチームワーク。2019年の新語流行語大賞にも選ばれた「ONE TEAM」というチームスローガン。この”抽象的な”スローガンから、山ほどの感動プレーが生まれたのです。いま、レッドハリケーンズも”PLAY TO INSPIRE”という抽象的なスローガンのもと、山ほどの具体的な行動変容を起こそうとしています。

『どんなに強いチームであっても、”勝利”を約束できるチームはこの世に1つもない。勝利は約束できなくても、全力で取り組む姿だけは約束してほしい!』

これも、私がミーティングで選手たちに投げかけた言葉です。それが、今シーズンのレッドハリケーンズのラグビーです。まずは私が選手たちをINSPIREできる存在になっていけるよう努力していきます。

今シーズンのレッドハリケーンズは「最後まで諦めない、アグレッシブなラグビー」を展開します。試合に向けた入念な準備、最後まで闘い続ける姿勢、1%の可能性がある限り努力を惜しまない、for The Teamの精神でチャレンジし続けるレッドハリケーンズの今シーズンに期待してください。

そして、今シーズンの日本ラグビーの最高峰リーグ "TOP LEAGUE"にぜひ注目してください。

注釈)

※1:チームワークを実現していくためには、選手自身がそれらの知識を身につけていることが重要です。そこで、理論や知識のインプットを目的とした「ミーティング」と、実際に体を動かしながら体得する実践形式の「トレーニング」の2パターンを使い分けながら、指導を行なっております。