ひとつのテレビ番組が時代を動かすことがある。

COVID‑19が国内に広がる直前、2019年正月にNHK Eテレで2夜連続放送された『平成ネット史(仮)』という特別番組があった。国内のインターネット文化の歴史を総括したかつてない機知に富んだ番組だった。

その取材班が2022年3月19日、注目のデジタルトレンドを徹底分析するフューチャートーク番組『令和ネット論』にて、昨今バズワードであるデジタルデータの唯一性を証明するテクノロジーである“NFT(※非代替性トークン)”と、コンピュータやコンピュータネットワークの中に構築された、現実世界とは異なる3次元の仮想空間やそのサービスを指す“メタバース”を考察する番組を作り上げた。

https://www.nhk.jp/p/nethistory/ts/8N4MVQLZLW/

時代の羅針盤となる先進的なテーマを、未来志向でわかりやすく解説した内容が話題となった。ポップカルチャーが資源である、日本の将来に希望を与えてくれたのだ。

本番組で主題歌としてフックアップされたのが、昨年10月に再起動、そして最新曲「How Crash?」を発表した2022年4月21日にデビュー38周年を迎えたTM NETWORKだ。

もちろん、NFTやメタバースが今後、世界にどんな影響を与えるかは、まだまだ未知数だ。法整備など課題も多い。

しかし、GAFA(※Google、Apple、Facebook、Amazonの4社の総称)と呼ばれる、Web2.0の時代に躍進したインターネット界のインフラを担う巨大IT企業が制覇している中央集権時代における課題の数々。そして、それら諸問題を解決すべく、その次と謳われるパブリック型のブロックチェーンを基盤とした非中央集権のインターネットによる概念であるWeb3(※ウェブスリー)では、“分散型コミュニティーの時代”が到来するという。独立した個が緩やかに結びつく時代といえるだろう。

そんな時代において、ネットワーク内で発生した全ての取引を記録するブロックチェーンを駆使したDAOと呼ばれる自律分散型組織のあり方は、NFTや暗号資産など、いわゆる独自の地域通貨のようなコミュニティー・トークンの発行によって運営がされていく。すでにサポーターを重要視するサッカーでは実験的な事例がある。NFTや暗号資産である地域通貨を発行して、サポーターによる投票によって運営の意思決定がなされていく、というわけだ。

スポーツもエンタテインメントもコミュニティーの運営に、コンテンツホルダーや企業のみならずファンも参加する時代といえるだろう。それもそうだ。21世紀、宣伝力の高いSNSの普及によって個の力=ファンの力が増大している。そう、ファンの力=ファンダムが重要な時代だ。

ファンダムといえば、今や世界的スターとなったBTSのファンはARMY(アーミー)と呼ばれ、ファンがプロダクションの株を購入したり、広告枠を購入し自主的に宣伝を担ったりするなど新たな試みが注目を集めている。

思えば、TM NETWORKは、1986年に自らが定義した音楽ジャンルのこと、そしてファンのことを併記し“FANKS”と命名していた。このことはファンとアーティストを同等に扱う、新たな関係性を定義したように思える。BTSより30年以上早いファンダム宣言だった。

そして、再起動したTM NETWORKは2022年4月21日に最新映像『How Do You Crash It?』をリリースした(※最新曲「How Crash?」は、初回限定版に特典として封入)。本作は極秘収録された配信ライブとして発表した3部作を、本来の形として3時間近い内容の映像作品として再構築した。ライブ映像の間に、ストーリーを展開するドラマ映像が挟まれ、SFめいた物語が現実とリンクするスタイルで展開していく。

さらに、TM NETWORKは7月から7年ぶりのツアーもはじまる。ツアータイトルは『TM NETWORK TOUR 2022 "FANKS intelligence Days"』だ。ファンを定義した“FANKS”とアーティスト名であるTM NETWORKが並列したネーミングに注目をしたい。

ツアータイトルにおける“intelligence Days”の意味は、“諜報活動”を指す。活動を休止していた期間、FANKSはTM NETWORKからとあるミッションを受けていた(※前回30周年シリーズでのツアーを参照)。その続編が有観客ライブとして再びはじまろうとしているのだ。

TM NETWORKは究極のフィクションユニットである。SF的なストーリーを現実社会の課題と結びつけて、ストーリーを紡ぎ、メッセージを伝えていく。最新映像作品『How Do You Crash It?』でも、その片鱗は垣間見れた。

NHK『令和ネット論』の主題歌にTM NETWORKを起用した理由を、番組チーフ・プロデューサーの神原一光はこう語る。

「『令和ネット論』を皆さんにお届けしたいと企画した時に、10代〜20代の若い方はもちろん、30代〜40代以降の現役世代の皆さんにこそ、いまのデジタルの加速度的な動きを知ってもらいたいなと強く思いました。

デジタルは、時代の“必須科目”ですよ、とか今一度“学び直し”しないといけないタイミングですよ、という思いです。その時に、真っ先に浮かんだのがTM NETWORKでした。メンバーの3人(小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登)は、インターネットが登場以前の80年代から、デジタルを駆使して音楽の可能性を広げてきました。

レコード、カセット、CD、MD、ダウンロード、配信という音楽の進化もすべて経験されていらっしゃいますし、ラジオ、ビデオ、テレビ、レーザーディスク(LD)、DVD、Blu-ray Disc、インターネットというメディアの進化も経験されていますよね。また楽曲の世界観も、デジタルでありながらヒューマンを意識するところがあったり、世界や地球、そして時代を俯瞰するような視点があって、“世界”と“ひとり”を同時に感じることができる音楽だと感じていました。

若い世代の皆さんには“ニュートロ(※“新しい(New)”と“レトロ(Retro)”を組み合わせた言葉)”が来ていますし、30代以降の現役世代の皆さんにとっては、自分たちの青春とともに駆け抜けた音楽でもある、ということからTM NETWORKなら、あらゆる世代をつなぐことができると感じました。6年ぶりに再起動されたというタイミングもあり、今しかない、と思ってお声がけさせていただきました。」

さらに、主題歌となったTM NETWORK最新曲「How Crash?」について、神原はこう続ける。

「デジタルの進化を取り入れて、次の時代に転換しなければならない時に、いかに過去の成功体験を壊していくか、そして失敗を恐れず挑戦を続けていくかが大切だと思っていましたが、タイトルが『How Crash?』で、歌詞にも“Everyone makes mistakes”という言葉が登場していて、グッときました。この時代に絶妙な提案をされていると感じました。」

音楽は、どんなカルチャーにも溶け合える存在だ。そして、優れた表現者は時代の空気の変化をいち早く察知し、作品として表現する。

実際、小室哲哉の行動は早かった。

昨年11月に誰よりも早くNFTを活用した作品づくりに取り組んでいた。音楽NFTマーケットプレイス.muraとのコラボレーションによるNFT作品の発表だ。

https://dot-mura.com

番組でも触れられていたが、J-WAVEによるテックイベント『J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2021』において、屋外会場での有観客の前で宇宙を感じる荘厳な即興演奏を行い、その音源をNFT化した。デジタルアートながら、まさしく1点ものである価値がテクノロジーによって証明された一期一会の作品だ。

https://news.j-wave.co.jp/2021/10/post-8578.html

サブスクなストリーミング時代、音楽は月1,000円程度を払えばいくらでも聴き放題な時代となった。YouTubeを活用すれば、広告を見ることでいくらでも音楽や映像作品を楽しめる時代となった。しかし、アーティストによる表現作品の価格決定権は、成熟した音楽マーケットに明らかに奪われてしまったようにも思える。

どちらが正しいかといえば、そのどちらも正しい。

しかしながら、バランスを取るためには、アーティストはNFTを活用することで今こそ、自らの作品の価格決定権を取り戻す必要性を感じたのだ。そして、ストリーミングやCD、物販、ダウンロード販売など、様々な選択肢を駆使することでアーティスト活動を持続させることへの大切さを痛感したのだ。

NHK『令和ネット論』では、番組中にゲストとして登場したアーティスト・草野絵美が「クリエイターにとって画期的なシステムで、NFTをはじめてからは少数の熱量の高いファンがいればバズらなくても作品を売って生活ができるようになったクリエイターが増えています。逆にいうと、バズらなくても良い世界線になりました。より個性の強いアート作品がこれから生まれてくるのでは。」と発言していたことが示唆的だ。

この数年、加速度的に普及したストリーミングや動画サービス時代のキーワードは“バズる”だった。しかし、NFTを活用することで、不特定多数をターゲットとしなくても、ファンと呼べるコミュニティーのメンバーを中心に作品を購入してもらうことで、たとえバズらなくても自ら信じる挑戦的なアーティスト活動を続けられる可能性が見えてきた。もちろん、不特定多数への作品発表も、売り上げの回収はロングテールとなるがストリーミングサービスなどを活用すれば継続しやすい時代だ。この両輪を表現者が手にできることは、アート表現において大きな可能性を示すことになるだろう。

ひとつのテレビ番組が時代を動かすことがある。

新たな次世代カルチャーの可能性を示したNHK『令和ネット論』。今後、音楽カルチャーはレコード、カセットテープ、CD、MD、ダウンロード、ストリーミング、そして最新の音楽の入れ物となるNFTという作品の伝え方を活用することで、ポップアートのファインアート化、その逆であるファインアートのポップアート化への可能性へ突き進むはずだ。旧来の価値観の壁が壊されていくことによって、時代は変わっていくかもしれない。

・・・そして、ここにきてまさかの速報だ。『令和ネット論』続編の制作が発表された。次回はどんなワクワクする未来を教えてくれるのだろうか。引き続き注目をしていきたい。