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次世代バンド、The BiscatsがTeddyLoidと仕掛ける “ニュースタイル・ロカビリー”

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
photo by The Biscats

ロカビリーというとどんなイメージが思い浮かぶだろう? 

ロカビリーとは、1950年代初期のアメリカ南部、メンフィスにて黒人音楽のブルースと白人音楽のヒルビリー&カントリーが融合して生まれた音楽だ。日本だったらBLACK CATS、MAGIC。海外ではストレイ・キャッツ、ブライアン・セッツァーなど、ネオロカビリーブーム以降のアーティストの活躍が思い当たるかもしれない。

実はその影響は多くのポップスターにも与えている。沢田研二、布袋寅泰、藤井フミヤ、BUCK-TICK、BLANKEY JET CITY、氣志團など、様々なアーティストがロカビリーのセンスをファッション、音楽性など、自らのオリジナリティーに取り込んできた。

そもそもロカビリーとはダンスミュージックのスタイルのひとつであり、そんなロカビリーを新しいスタイルで進化させようと試みた新世代バンドが2019年に結成したThe Biscats(ザ・ビスキャッツ)だ。ヴォーカリスト、Misaki(青野美沙稀)は、日本を代表するロカビリー・バンド BLACK CATS、MAGICのドラマー、久米浩司を父に持つ由緒ある後継者だ。そして、バンドメンバーであるKenji(Gt)、Suke(W.Ba)、Ikuo(Dr)の演奏力の高さやロカビリーへの愛情もただ者ではない熱量の高さを持つ。

そんなThe Biscats が10月14日に最新作EP『Teddy Boy feat. TeddyLoid』をリリースした。

「はじまりは1年前にさかのぼるんですけど、TeddyLoidさんからTwitterでフォローしていただいたんです。突然すごい方からメッセージがきたので驚いて。しかも、ちゃんと私たちの音楽性を理解してくださっていて。そこからやりとりがあって今回のコラボとなりました。後で知ったのですが驚くことに、TeddyLoidさんもルーツがロカビリーだったんですよ。だんだん話すうちにそのことを伺って。本当に素敵なご縁となりました。」(Misaki / Vo)

注目すべきは、エレクトロニックなダンスミュージック・シーンで活躍するTeddyLoidをフィーチャリング・アーティストに迎えたことだろう。ストリーミング・サービスSpotifyにて、“2016年度日本以外の海外で最も再生された日本人アーティスト”、第5位に選ばれたことのある実力派だ(1位 RADWIMPS、2位 BABYMETAL、3位 ONE OK ROCK、4位 ピコ太郎、5位 TeddyLoid)。2008年には、MIYAVIバンドのDJとしてTeddyLoidが18歳の時にワールドツアーに同行しているなど、世界で活躍する開拓者なのである。

「まず曲を作って、TeddyLoidさんに歌詞を準備してもらって、バンドヴァージョン『Teddy Boy』と『Hot and Cool』を先にレコーディングしてから、TeddyLoidさんにフィーチャリングバージョンのアレンジをしていただいたんです。」(Kenji / Gt)

「『Teddy Boy』の歌詞はロカビリーの世界観があるんですけど、現代にも置き換えられるってTeddyLoidさんがおっしゃっていて。今回、思い切って新しい世界観を表現できたなと思っています。」(Misaki / Vo)

「ロカビリーもダンスミュージックのひとつであり、EDMと合わせてみても違和感ないんですよ。そこはTeddyLoidさんがご作法を大事にアレンジをしてくださったからですね。ロカビリーのはずせない要素を残した上で、新しいビートが好きなリスナーも踊れるサウンドに仕上がっています。」(Ikuo / Dr)

こうして生まれたのがEPに収録したTeddyLoidとのタッグ曲「Teddy Boy feat. TeddyLoid」と「Hot and Cool feat. TeddyLoid」だ。両作とも、ロカビリーで外してはならないマナーであるリズムスタイルを大切に、シンセアレンジによって随所に装飾が施されている。今の時代感の匂い付けであり新しいセンスを持ち合わせており、洋服でいうリメイク、リビルドを感じさせるリプロダクションな手法だ。

「私がソロでデビューした時から目標に掲げていたのが、“今の時代に合った新しい時代のロカビリー”だったんです。今回、TeddyLoidさんがコラボレーションしてくださったのですが、ロカビリーって実はジャンルを熟知していないとアレンジしづらい独特のリズムやビート、楽器の奏法があるのですが、自分たちと同世代で、ロカビリーに詳しくて、最新のダンスミュージックを手がけているプロフェッショナルな方に出会えたことは宝物だと思っています。The Biscatsの幅が広がった、良い化学反応が起きました。」(Misaki / Vo)

実はTeddyLoidの父親はロカビリー文化に長けた方だった。TeddyLoidの名前も、そもそもは今作のタイトルである“Teddy Boy(※50年代に流行ったファッションスタイルの意)”をきっかけに名付けられた逸話を持つ。

さらに、The Biscatsは原曲となるバンドヴァージョンでの「Teddy Boy」と「Hot and Cool」もレコーディングしている。先入観なしで聴いてほしい。ロカビリーが持つフレッシュなライブ感が今の時代では新鮮なセンスとして伝わることだろう。「Teddy Boy」では、オープニングの掛け声が男性ヴォイスに変わり、より血湧き肉踊るハードなスタイルが披露されている。レコーディングでの出音のアタック感など、これもまた2020年代以降のサウンドを感じられたのが印象的だった。

「『Teddy Boy』のTeddyLoidヴァージョンはキュートな女の子を意識したイメージで歌いました。バンドヴァージョンは、挑発するような感じでクールで色っぽい女性を表現していて、そこで敢えて男たちのワイルドなテイストをイントロから表現しています。野獣の中に美女がいる感じ。あ、美女って言っちゃった(笑)。」(Misaki / Vo)

「バンドヴァージョンではベースの音は生っぽく、TeddyLoidヴァージョンでは、ローを強めに出していますね。」(Suke / W.Ba)

「『Hot and Cool』の歌詞は、サウンドがポップなので言葉遊びを意識していて、“ゆらゆら”とか“きらきらり”とか“ふわふわり”とか譜割が独特ですね。ロカビリーにはないテイストなんですよ。そこは新しいですね。歌詞の世界観のイメージとしてTeddyLoidさんにメッセージで送ったのが、今の時代テレビを観ているとコロナとか暗くなっちゃうじゃないですか? そんな時だからこそみんなで楽しくなれるような感じを、TeddyLoidさんがうまく歌詞で表現してくれています。」(Misaki / Vo)

「2曲目の『Hot and Cool』は、ロカビリーの8ビートのノリが強く出ていますね。この曲はロックパイルや、デイヴ・エドモンズとかアルバート・リーなど、カントリーギタリストがするロックンロールなギターを意識しています。TeddyLoidヴァージョンでは、出だしからポップなのでギターソロのフレーズは同じなんですけど、ニュアンスとしては優しさに寄せています。僕らは、アレンジを二刀流で表現ができるので、より多くのリスナーの方に楽曲が届いてくれたら嬉しいですね。」(Kenji / Gt)

「『Hot and Cool』は、バンドヴァージョンの大サビ前に8っぽいトレインビートになる瞬間があるんですよ。その辺のニュアンスにとても気を使いましたね。」(Ikuo / Dr)

メンバーの発言の通り、The Biscatsのサウンドは懐古主義では一切ない。歴史を積み重ね由緒あるロカビリーを継承し、新たなロカビリースタイルを生み出す新世代バンドなのだ。こだわりの強さ、夢への憧れ。ここからまた“ハイブリッドなニューロカビリー”カルチャーが勃発するかもしれない。

さらにEP、3曲目には、The Biscatsによる王道バラード「magic hour」が収録されている。80’s感、いや、誤解を恐れずに言えば、松田聖子「赤いスイートピー」ばりのロマンティックな名曲チューンなのだ。

「本当ですか、ありがとうございます(嬉)。歌詞のイメージは、Nintendo Switch専用ゲーム『キューピット・パラサイト』エンディング・ソングとして書き下ろしたラブソングだったので、ゲームからの印象が強いです。タイトルの“magic hour”は日没前と日没後に数分間だけ見られる綺麗な景色なんですね。そんな風景でカップルがこれから先の未来を感じながらラブラブしているという雰囲気です。」(Misaki / Vo)

「ロカビリーにとってバラードは、良い感じで箸休めというか男女がゆったり二人の世界で踊れるイメージですね。一番気を使ったのは、うっすらスライドギターが入っているところですね。」(Kenji / Gt)

「エレキベースでは出せないウッドベースのスライドの音に気を配りましたね。」(Suke / W.Ba)

ちなみに、The Biscatsが公式YouTubeチャンネル『Biscatube』にアップする歌謡曲やポップスのロカビリーアレンジによるお遊びコーナーのカバーセンスが毎回素晴らしいのでチェックして欲しい。ロカビリーが持つ自由度の高さ、ジャンルとしての特異性がポップに伝わることだろう。

そして、10月25日に青山RiZMで開催された『The Biscats Release Party “ROCK’A BEAT from TOKYO vol.1”』を皮切りに全国ツアー『The Biscats TOUR 2020~2021 “Cat’s Style”』がスタートした。当日は、TeddyLoidも飛び入り出演し、ダンサブルなロッカビートを最高のセットリストで堪能させてくれた。ツアーは2021年2月6日まで続く。注目すべきは演奏力の強さと、Misakiによるボーカリゼーションが邂逅するエッジーなライブサウンドだ。気になったリスナーがいたら是非ライブを体感して欲しい。

「ツアーはずっと延期になっていたんですけど、この期間でよりグルーヴが出てくるようになりました。いち早く、みなさんへ生で届けられたらなと思っています!」(Suke / W.Ba)

「前回出したデビュー・ミニ・アルバム『Cat's Style』でのツアーも延期のままだったので、はじめてライブで聴く曲がいっぱいあると思うんですよ。よりパワーアップしたThe Biscatsを楽しみにしていてください!」(Ikuo / Dr)

「あなたの街にThe Biscatsが行きます!!! このコロナの期間で新しいことにもチャレンジしているので、パワーアップしたグルーヴを楽しみにして欲しいです!」(Kenji / Gt)

「もう一度、熱く新たなロカビリーブームをハイブリッドに起こしたいと思っているのでよろしくお願いします!!!」(Misaki / Vo)

カルチャー細分化時代。いまだThe Biscatsを知らないロックファンは多いことだろう。しかしながら、ロックフェスなどに出演する機会があれば一気にシーンをひっくり返しそうな逸材なのだ。ロカビリーという枠を飛び越え、メインストリームが似合う華やかさも持ち合わせるThe Biscats。2021年へ向けて、その動向にさらに注目していきたい。

photo by The Biscats / EP『Teddy Boy feat. TeddyLoid』
photo by The Biscats / EP『Teddy Boy feat. TeddyLoid』

The Biscatsオフィシャルサイト

https://thebiscats.com

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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