ましのみ、よりエモーショナルに覚醒した最新作『つらなってODORIVA』が解き放つ音像の魅力

Photo by ポニーキャニオン

●重要キーワードは“エモーショナル”

ニテン年代(2020年)の音楽シーン、良質な作品が続々と登場している。しかし、COVID-19騒動で、悲しくもライブが自粛されている昨今。そんななか注目したいのが、録音芸術として楽曲作品へのこだわりだ。ヴォーカリゼーションとなる歌いまわしのフロウやトラックと共存する音像のあり方。ポップ・ミュージックは時代を映し出す鏡であり、常に進化を続けている。

シンガーソングライター、ましのみが覚醒した。その兆候はsasakure.UKをアレンジャーに迎えた配信シングル「エスパーとスケルトン」からあった。3月18日にリリースした5曲入りミニアルバム『つらなってODORIVA』の完成によって、その予感は確信へと変わった。

ここ数年、ポップ・ミュージックの重要キーワードに“エモーショナル”がある。それはビートの効いた“エモい”ロックのみならず、ミディアムテンポや少しこじれたバラードな作品にも見受けられる。米津玄師「Lemon」、King Gnu「白日」、須田景凪「はるどなり」、秋山黄色「モノローグ」やOfficial髭男dismによるヒット作品など枚挙にいとまがない。

共通するのは、TVドラマ主題歌であることだ。

●ドラマ作品と主題歌における相乗効果

ヒットの方程式がなくなったと言われて久しいが、ドラマ作品と主題歌における相乗効果は、音楽ストリーミングサービスへの再生回数増にも反映され、未来の見えづらい日々の生活からモヤモヤが離れない昨今、僕らの心へと寄り添う安定剤となり羅針盤となる。

ましのみが、賀来賢人主演、今クール話題のMBS/TBS系ドラマ『死にたい夜にかぎって』のオープニング曲「7」を手がけた。エモーショナルなナンバーだ。

メジャーにおいて『ぺっとぼとリテラシー』、『ぺっとぼとレセプション』という2枚のアルバムをリリース。昨年、大学を卒業し、現在23歳を迎えた彼女。自分と社会の接点を深く意識しだしたアイデンティティーの模索が、ドラマとシンクロした“まあいいの口癖”の精神、“ろくでもない僕ら”を歌ったという名曲「7」を生み出した。そこで描かれたのは日常でありフィルムライクな生活感だ。こういった共通点を5曲のベクトルで表現する傑作ミニアルバム『つらなってODORIVA』が完成した。

特徴となる、繊細な歌いまわしとなるヴォーカリゼーションの妙。音像へのこだわり。創作秘話をましのみに訊いた。

<ましのみ『つらなってODORIVA』インタビュー>

●日々のいろんな状況に寄り添える作品

――『つらなってODORIVA』めちゃいいですね。歌が伝わるし気持ちも伝わる。とてもエモーショナルでありながらも音像は繊細であって、言葉の選び方がアップデートしているような覚悟を感じる1枚だと思いました。

ましのみ:嬉しいです。2ndアルバムを作り終わったころから、もっとトータルで自分のセンスを活かしてプロデュースしたい欲が出てきたんです。いままで、エレクトロなテイストが強かったと思うんですけど、もう少し生活感に寄り添いたいなって思って。

――作品にあらわれていますよね。

ましのみ:ノスタルジックではないけど体温を感じられるというか。あと、もっとたくさん音楽を聴こうと思いました。知識や技術を勉強しても感性は潰れないんじゃないかなって。そのためにもいろんな人に会おうって。音楽を中心に私生活が変わったタイミングだったので、新しいステージを表現できた1枚だと思います。

――ミニアルバムのタイトル『つらなってODORIVA』にも、様々な角度から意味合いがありそうですね。ODORIVAとは逃げ場? 休まる場所?

ましのみ:休憩する場ってイメージですね。トントンと進んでいかない場所。これまでと違う点で言えば、本作は最初からこんな5曲にしたいなってイメージがありました。恋愛を軸に「エスパーとスケルトン」だったら恋のはじまりを描いて、「薄っぺらじゃないキスをして」だったら恋にのめりこんじゃっているところ。「NOW LOADING」はメロウでたゆたえる感じなんだけど、自分に酔って自暴自棄になっている要素があったり。日々のいろんな状況に寄り添える、休憩ができる、逃げ場となる作品にしたかったんです。それを“ODORIVA”と表現しました。なかなか前に進めないときでも、前に進んでいくための一段に後から振り返ったらなっているというか。“ODORIVA”が連なることで前に進んでいけるというイメージがあって。

――すっげえ、よく考えてますよね(感動)。

ましのみ:ははは(笑)。こだわりは趣味ですねぇ。それが作品へとつながっていくので。

●映像にする手ブレが入ったフィルムのような質感

――「7」とか、歌詞も素晴らしく考え練られていて。シンガーソングライターというセンスをアップデートしようとしている気概を感じました。

ましのみ:「7」は、同じようなテイストなんですけど、違うパターンの歌詞やメロがあったり、たしかにいろいろ試しながらこだわって構築した曲ですね。

――内なる想いに火が灯されていく感じというか、あらわになっていく感じ。とてもエモーショナルな曲だと思いました。“時代と寄り添い合ういい曲感”が伝わってきます。言葉とサウンドのシンクロ率がとても高い。

ましのみ:「7」に関しては力んではいない、気だるいエモーショナルなテイストがありますね。映像にすると定点ではない手ブレが入ったフィルムのような質感というか。

――百聞は一聴に過ぎずなんだけど、歌いまわしの繊細な表現へのこだわり。ましのみらしさが形となった作品だと思いました。声という楽器が、アレンジとのシンクロ率を高めていくというか。

ましのみ:これまでの2枚のアルバムは獣のような感覚で“突き刺そう!”と思っていたんですよ。世間に向かっていたというか。声も一番耳につくところを考えて激しい音程だったりして。でも、今回は聴き心地の良さと面白さを同居させたかったんです。声とピアノ。あと、生音感を前に出して、そこにエレクトロな要素をプラスして。だけど、余白を作ることを大事に考えました。キーも歌で遊べる要素を大事に考えていたというか。自分らしさの確立になったかもしれません。

――それは、表現として自由さのあらわれということなのかもしれないね。

ましのみ:ありがとうございます。スキマ感、温度感を出したかったんですよ。以前は、自由に作っているはずなのに自由さがどこかの過程で失っている感じがあって。そんな意味で、過程も全部自分でみることによって自由さを表現したかったところがあるかもしれません。

――今回、アートワークもいいよね。果物がつらなっている感じで。これもまた踊り場感。

ましのみ:フルーツが一部腐っていたり、雫が滴ってタイトルになっていたり、とても好きなジャケットですね。ぜひ、CDで手にとってみてもらえたら嬉しいです。

<【全曲解説】ましのみ『つらなってODORIVA』セルフライナートーク>

M1.「7」 作詞・作曲:ましのみ 編曲:横山裕章

 ノンフィクションの原作があるドラマ主題歌で、タイトルは“ろくでもない”我々に幸がありますようにとラッキーセブンの「7」にしました。主人公がすべてにおいて“まあいいか”と言えてしまうところに魅力を感じて。曲を通して歌詞でも表現しています。

M2.「NOW LOADING」 作詞・作曲:ましのみ 編曲:パソコン音楽クラブ

 パソコン音楽クラブが好きで、ライブに行ってお願いしたら編曲をやっていただけることになりました。中毒性ある最高なリフとビートにしていただいて。やりとりも1ターンで完成して。浮かべている状況は、渋谷(神泉)や新宿(歌舞伎町)の奥の方なイメージでした。

M3. 「エスパーとスケルトン」 作詞・作曲:ましのみ 編曲:sasakure.UK

 全人類の中にあるクヨクヨした乙女心に向けて書いた曲です。女性ではなく“乙女心”というのがポイントで。sasakure.UKさんと作った、生音とエレクトロの融合。それこそスキマ感とノれる感じ。心地いいんだけど面白さがあるサウンドへのこだわりですね。

M4. 「薄っぺらじゃないキスをして」 作詞・作曲:ましのみ 編曲:sasakure.UK

 「エスパー~」を書いた後、やりたいことが明確になったタイミングで作りました。声とピアノをテーマにおいて映えるように軸としました。自由なピアノを弾きたかったんです。囁くような歌声であり、バラードなんだけどサビでハッと開ける感じにこだわりました。

M5.「のみ込む」 作詞・作曲・編曲:ましのみ

 ピアノと歌は一緒に録って、ドラムは後で合わせました。自由度というところで、感情のままにジャジーな感じを取り入れました。生活感やフィルムライクなところ、環境音というか空気のノイズというか、昔のアンビエントなセンスを表現したかったんです。

なお、本作に収録されたナンバーがSpotify公式プレイリスト『キラキラポップ:ジャパン』にて、3月24日(火)のTOPカバーへの抜擢が決定している。

『つらなってODORIVA』各配信サービスへのリンク一覧

https://lnk.to/odoriva

ましのみ オフィシャルサイト

http://mashinomi.com/