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アイラヴミー、全国ラジオパワープレイ続出現象! 〜不安定な時代を生き延びるためのポップミュージック〜

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
アイラヴミー / photo by 小川愛晃

CDフォーマットからストリーミングへの過渡期。SNSの影響力が、マスメディアを超えて肥大化しつつある2019年、日本の音楽シーン。令和時代を代表するであろうバンドを発見した。新世代のポップスター、アイラヴミーだ。

もともとは、シンガー・ソングライターとして活動していた さとうみほのを中心に、ギタリスト野中大司、ベーシスト井嶋素充が音楽学校メーザー・ハウスで出会い結成した3人組バンドだ。アイラヴミーの楽曲は強度の共感力を持ち、誰しもの感情をストレートに揺さぶってくれる。

心に残る音楽とは刹那的なものではなく、たとえそれが幻だとしても永遠を感じられるような瞬間を共有できるものであることをアイラヴミーは教えてくれた。音楽とはすべてのカルチャーに溶け合える存在であり、カナリアのようにいち早く世の憂いを自分ごととして受け止める存在なのだ。

詞曲を手がける、さとうみほのによる“心の痛み”に寄り添う歌詞のチカラ。いや、より日常に近いというか、自分を責めがちな、そして怒られることが苦手な若い世代ならではの葛藤を見事に描ききっている言葉がすごい。

フォークソング的と言ったら誤解を招くかもしれない。しかし、J-POPで歌い継がれるレジェンドなスタンダードナンバーはMr.Childrenであり、スピッツ、宇多田ヒカル、椎名林檎、RADWIMPS、SEKAI NO OWARI、BUMP OF CHICKEN、米津玄師、あいみょんなど、第一線で活躍をし続けるアーティストは皆そんな要素を持っている。アイラヴミーもしかりだ。

3人組バンド、アイラヴミーが満を持して解き放つ最新曲「でも生きている」が素晴らしかった。

“ボロボロになるのは新しい自分になるため”と宣言する、すでにライブでも定番のキラーチューンだ。イントロダクションから〈ほめられたい ほめられない ほめられないと伸びないのに チヤホヤされたい 才能無い あの子はいいな世渡り上手〉と、誰もが一度は感じたことがある心の片隅に抱え込んでいた負の感情にジャブを打つ。さとうみほのは、バンドのコンセプトを表すキーワードを“ダメンタル”と名付けた。しかし、負けっぱなしではない。タイトルでもある〈でも生きている〉というパワーワードによって楽曲は急展開して加速していく。〈まだ生きてんだからさ またここからはじめるんだよ〉と、表現者アイラヴミー=負け犬戦士(←負けたっていい、そんな名曲も収録!)は歌いあげるのだ。

楽曲の洋楽的な構造も興味深い。80年代、90年代リバイバルという、旧世代再構築的な作品が目立つ昨今のJ-POPシーンにおいて、リアルタイムに世界照準なサウンドとシンクロするネクストを提示してくれる。海外ビルボードなど世界最旬チャートシーンでもお馴染みの、シンプルなコード感、シンプルな音使いやリズムのループ。そして、何より大切なのは歌を聴かせること。メロディを伝えることを重視し、さらにコードに逃げることなく単音で隠れキャラ的にインパクトあるフレーズを挟む、遊び心ある演奏でまとめ上げていく構成力の妙。そして、キーとなるのがキックの強さだ。そんな、絶妙なるバランス感、ヒットのセンス、自由度の高い歌メロの強さがズバ抜けているのだ。

ヒットの法則に、“世の中の流れ×自分だけが出来ること”という式がある。そして生まれるのが一期一会となるオリジナリティーだ。ポップミュージックの世界で大事なのは感情に訴えかけるメロディ、湧き上がる衝動を突き動かす言葉のパワー、そして文脈を紡ぐ心に染み渡るアレンジメントのバランスの妙だ。ポップとは、世の中を露わにする鏡みたいなものなのだ。

アイラヴミーの楽曲構成は洋楽的であり、足し算思考のJ-POPとは真逆のそぎ落とされたシンプルさが魅力だ。エレクトロ、EDMライクな四つ打ちビートではじまる踊れるニューロック2019。シンセポップなフレーズ、高揚感に胸が高まる突き抜けたポップセンス。“心の痛み”に寄り添う魔法めいた歌詞のチカラに琴線を刺激される。サウンドとシンクロする日本語詞による言葉のノリ方が絶妙なのだ。

ほら生きている 朝日が私を照らしてる

ほら生きている ちゃんと今もまだ息をしている

幸せになるために生まれて来たんだから

ほら生きている ほら生きている

出典:「でも生きている」より引用

ライブでは、3人組というキャラクター性の濃さも炸裂する。劣等感と自信の間を揺れ動く、さとうみほのによる気持ちの伝わる歌声の素晴らしさ。ギターをトリッキーにプレイするハットが似合うファッショナブルなギタリスト野中大司。スポーティーでアグレッシヴなベース&シンセ使いがキャッチーな井嶋素充というメンバーの存在感の強さ。さらに、サポートでドラマーも加え、踊れるロックというべき音楽の楽しさをこれでもかと表現してくれる。

アイラヴミー さとうみほの / photo by 小川愛晃
アイラヴミー さとうみほの / photo by 小川愛晃

9月4日にリリースしたばかりの、メジャーデビュー・ミニアルバム『でも生きている』には、2019年3月〜5月〜7月と先行配信してきたリードとなる“ダメンタル3部作”「負け犬戦士」、「社会の歯車」、「でも生きている」に加え、せつなポップにメロウな「朝焼け」、素直になれない気持ちを描いた「さよならドライブ」、シティポップ・センスをロマンティックに表現する「鎌倉サイクリング」など、全6曲となる魔法めいたナンバーを収録している。サウンド感、メッセージ性、キャラクターの強さなど、掛け合わされるアイラヴミーの可能性は無限大だ。2020年へ向かって不安定な時代を生き抜く“幸せになるために生まれてきた”ポップミュージックのポジティヴな可能性を具現化する新しい才能の誕生に注目したい。

アイラヴミー オフィシャルサイト

http://iloveme.info

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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