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テクノロジーを駆使して演奏体験のハードルを下げる新世代楽器とは? 〜KAGURAの躍進〜

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
サンフランシスコ『J POP SUMMIT』でのプレゼンテーション

●新世代楽器KAGURAの躍進

音楽は時代とともにテクノロジーと融合して進化しつづけてきた。かつて、シンセサイザーやサンプラー、ボーカロイドが誕生したことで、音楽シーンに大きなイノベーションが勃発し、テクノやヒップホップ、ボカロなど、新たな音楽ジャンルが生まれた。

2016年、音楽シーンにおいて注目すべきイノベーションが起きようとしている。新世代楽器“KAGURA(カグラ)”をご存知だろうか? 開発を手掛けたのは、地元福岡で研究を行ってきた『しくみデザイン』代表のアーティスト、中村俊介(芸術工学博士)。世界各国でKAGURAをテクノロジー系アワードに出展し、インテルコーポレーション主催『Perceptual Computing Challenge 2013』(アメリカ)、エレクトロニックミュージックを中心とした音楽フェス『Sonar+D Startup Competition 2016』(スペイン)、『The CHAOS ASIA』(シンガポール)、『Microsoft Inovation Aword』(日本)などでグランプリ、準グランプリを総なめしてきた、社員数11名、少数精鋭のクリエイティヴ・チームだ。

Sonar+D Startup Competition 2016
Sonar+D Startup Competition 2016

●テクノロジーを駆使して演奏体験のハードルを下げようと夢見た

代表の中村が提案する新しい楽器体験。それは、ジェスチャーによる演奏を、カメラを使って画像認識することで、何にも触れずに体を動かして演奏をするという、これまでにないUI/UXによるエンタメ利用だ。プロジェクトの発端は、譜面を読めず楽器も弾けなかった中村が、テクノロジーを駆使して演奏体験のハードルを下げようと夢見たことから始まった。

「楽器が弾ける人が羨ましかったんですよ(苦笑)。テクノロジーの進化によって、楽器体験のハードルを下げたいと思ったんですね。なので、パソコンとカメラがあれば、KAGURAをインストールするだけで誰でもミュージシャンになれます。サンプリング機能を取り入れたり、いろいろカスタマイズ対応も出来るので、楽器ならではのやりこみの楽しさにもこだわりました。その辺は、楽器できる方の意見も取り入れてますね。」(中村)

●最終的にはユーザーに楽しみ方を委ねたい

魔法のようなテクノロジーで楽器を進化させた、まるでドラえもんの秘密道具のようなアプリ、KAGURA。技術活用において、こだわったポイントは画像認識におけるレイテンシー(データの遅延)の処理だという。

「リアルタイムでユーザーのジェスチャーを画像処理するとレイテンシー、いわゆる遅延が生まれるのですが、楽器なので“リアルタイムに音を鳴らしている感じ”、“遅延を意識させない”ということを技術として徹底的にこだわりました。これまでも次世代楽器っていろんな方々が開発してきたと思いますが、楽器を弾けなくて開発したのは僕ぐらいかもしれません(苦笑)。なので、楽器を弾けない人でも楽しめるし、楽器を弾ける人であればさらにいろんな活用法を思いつくと思います。KAGURAはあくまでツールなので、楽しみ方はユーザーに委ねたいと思っています。ターンテーブルでレコードをスピンすることでスクラッチが生まれたように、僕らが思っても無いような使われ方が起きたらと思うとワクワクしますね。プロのミュージシャンにも楽器として使って欲しいんですよ。最終的には『しくみデザイン』以外からも、たとえばヤマハやローランドからKAGURAが生まれているような状況を夢見ています。ギターやシンセサイザーは各社から発売されてますよね? 楽器という文化として浸透して欲しいんです。そして、ゆくゆくはアーティスト・オリジナル音源を販売するなどプラットホーム化したいですね。音ネタを素材としてKAGURAで遊べたら楽しいじゃないですか? ちなみに今後、よりパーソナルなガジェットであるiPadなどにも対応したいと思っています。」(中村)

KAGURAメイン画面
KAGURAメイン画面

●この夏『Kickstarter』でクラウドファンディング開始

製品版のローンチに向けて、新世代楽器KAGURAは満を持してアメリカ『Kickstarter』にてクラウドファンディング(ネット上での資金調達)を開始した。ハードウェア楽器でのクラウドファンディングはよくあるが、ソフトウェアでは珍しいという。しかしながら『Kickstarter』が厳選してお勧めするプロジェクト“Project we love!”としてお墨付きが与えられていることからも、注目の高さをうかがえる。

「自由に開発したかったので、これまでずっと自己資金でやってきました。日本ではなかなかビジネスモデルの問題などで理解されないこともあったので、VC(ベンチャーキャピタル)と交渉して投資を入れる前に、いろいろなコンテストに出て海外で実績を作りたかったんです。KAGURAへの自信は間違いなくありました。実際、海外での評価はとても高いものでした。そんなこともあり、コンテストの後は、世界市場へ向けてプロモーションとしてクラウドファンディングにチャレンジしたかったんです。ソフトウェアでの成功は前例もないので難しいのかもしれませんが、『Kickstarter』だと英語の情報がネットに残るので良いプレゼンテーションになると思っています。なぜ『Kickstarter』を選んだかといえば、楽器演奏には言葉がいらないので、いきなり海外でのチャレンジでも良いと思ったんですね。」(中村)

https://www.kickstarter.com/projects/142645468/kagura-change-your-motion-into-music

●KAGURAはまったく新しいリアルな楽器(テクノロジー)体験

昨今、AR(拡張現実)やVR(バーチャルリアリティ)が、IoT(モノのインターネット化)分野において話題となっているが、中村はKAGURAを敢えてARというワードを使って説明をしないこだわりを持っている。

「まわりからKAGURA はARだと言われがちなんですけど、自分ではARとは言ってないんです。あくまで拡張性やヴァーチャルではなく、テクノロジーを楽器として表現することでリアルな体験を提供したいと思っています。何か他の楽器の代替え体験では決して無いんです。なので、いろんな方にアドバイスされたのですが僕はKAGURAをゲームにはしませんでした。KAGURAは創作意欲を刺激する、まったく新しいリアルな楽器体験であると確信しています。ツールなんです。そこにはこだわりたいですね。」(中村)

KAGURA演奏風景
KAGURA演奏風景

2016年=ダンス・ムーヴメント全盛時代。DJが踊りながらオーディエンスを煽る昨今のEDMシーンにおけるDJプレイ風景を見れば、KAGURAを活用した、新たな演奏体験の未来像を、あなたも想像出来るかもしれない。すでに矢はアメリカ発『Kickstarter』によって世界中へ解き放たれた。あとは、KAGURAを使ってどんな次世代アーティストが誕生していくかが楽しみだ。

しくみデザイン オフィシャルサイト

http://www.shikumi.co.jp/

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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