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『LAST GIGS』東京ドーム公演まであとわずか。キング・オブ・ロック 氷室京介の音楽的魅力とは?

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
BEST ALBUM『L'EPILOGUE』氷室京介
BEST ALBUM『L'EPILOGUE』氷室京介

日本を代表するロック・アーティスト、氷室京介。ライヴ活動休止宣言後の、最後のライヴツアー『KYOSUKE HIMURO LAST GIGS』が、残すところ東京ドームでの2016年5月21日(土)、22日(日)、23日(月)の3日間となりました。

先日、質問されてふと我に返った「氷室京介の魅力とは?」という問い……。そんなきっかけもあり、あらためて歴史を紐解きながら考えてみました。

何より、忘れられないのはソロ活動のはじまりでした。布袋寅泰、松井恒松、高橋まことと組んでいた80年代を駆け抜けた伝説的なバンド、BOφWY。1988年4月5日、東京ドームでの最後のライヴとなった『LAST GIGS』からわずか3か月後に、氷室京介は1stシングル「ANGEL」でソロデビューしました。歌詞で描かれた決意表明のようなメッセージ性。それは、今もなお続いている、“眠れぬ魂の行方”を探す旅のはじまりだったのです。

氷室京介=ビートロックがメインなイメージがあるかもしれません。名刺となるようなシングル曲「ANGEL」、「SUMMER GAME」、「JEALOUSYを眠らせて」、「KISS ME」など、数々のヒットはたしかにポップな8ビートに支えられています。

しかし、本人が試みた「ビートを外した時にどれだけメロディーが残るか?」という数々の創作アプローチをご存知でしょうか?

ブルージーな魅力を持つ「独りファシズム」、ラップを取り入れた「CHARISMA」、珠玉なピアノバラード「LOVE SONG」、時代をこえて映像作品『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』(2005年)のテーマ曲に起用された「CALLING」、氷室自身も思い入れの深い「DEAR ALGERNON」や「LOVER'S DAY」というスローなナンバー、重いビートにマイナーなメロディーを持つ「CRIME OF LOVE」、ミドルにダンサブルな異色作「Urban Dance」、上質なポップセンスを感じさせる「Good Luck My Love」、プログレッシヴ・ロック的な「LOST IN THE DARKNESS」、サイケデリックかつ変拍子ながらもメロディーへの執着を感じさせる「FLOWER DIMENSION」などなど、作品を聴き進めると、音楽的なこだわりを感じさせる様々なサウンドへと辿り着きます。

洋楽カバー曲にも積極的で、これまでデヴィッド・ボウイ「SUFFRAGETTE CITY」、エルヴィス・コステロ「ACCIDENTS WILL HAPPEN」、ビートルズ「カム・トゥゲザー」、ジミー・イート・ワールド「PAIN」、AFI「MISS MURDER」などを手掛けています。カバー手法からうかがえる音楽センスに注目してほしいです。さらに、2009年にはマイ・ケミカル・ロマンスのヴォーカル、ジェラルド・ウェイとオリジナルなシングル曲「Safe And Sound」でコラボレーションも実現しました。この曲、かなりイイです。

アルバム作品の遍歴にも目を向けてみましょう。

1988年、ファースト・ソロ・アルバム『Flowers for Algernon』で目指したロックのポピュラリティー化。その反動もあったのか、2ndアルバム『NEO FASCIO』ではカリスマの否定やファシズムの持つ危険性をコンセピュチュアルに表現したコアな世界観。“コンセプトがないのがコンセプト”と語ったロックンロール回帰な3rdアルバム『Higher Self』。そして、130万枚のヒットとなった代表作といえる4thアルバム『Memories Of Blue』。大ヒット作後ゆえの、レコーディングに難色を示した異色5thアルバム『SHAKE THE FAKE』。個人レーベルBeatNix設立、洋書絵本『僕を探しに』をモチーフに生み出されたヒットシングルばかりの6thアルバム『MISSING PIECE』。渡米し自らスタジオやミュージシャンをブッキングして制作した大傑作な7thアルバム『I・DE・A』。バラードをテーマとした8thアルバム『MELLOW』。成熟を感じさせる9thアルバム『beat haze odyssey』。その後も、いまに通じるLA色を強く感じさせるヘヴィかつせつなきメロディー満載の『Follow the wind』、『IN THE MOOD』、『"B"ORDERLESS』というアルバム作品たち。

レコーディングやライブ・メンバーには国内の著名ミュージシャンはもちろん、ボブ・ディラン・バンドのギタリストとしても活躍するチャーリー・セクストン、キング・クリムゾンのトニー・レヴィン、ロキシー・ミュージックのアンディ・ニューマーク、そしてマイケル・ジャクソンとの共演でも知られるスティーブ・スティーブンスなども参加しています。

作品ごとにキャラクターを演じたデヴィッド・ボウイではないけれど、アルバムごとに“顔”が変わるような、毎回打ち出すテーマやサウンド感は違えど、“自分がどこから来てどこへ向かっていくのか?”という哲学的な本質をブレることなく作品化し続け、ツアーではオーディエンスと向き合って表現し続けてきたのが氷室京介のアーティスト・ヒストリーだと思います。

時には、音楽ライターとしてお仕事としても関わらせていただきました。最初に記事を書いたのは2003年『KYOSUKE HIMURO "Case of HIMURO"15th Anniversary Special LIVE』のときに、オフィシャルマガジンの『KING SWING』でのツアーレポート。初めて本人とお話ししたのは、ポリドールから東芝EMIに戻ってきた2007年『KYOSUKE HIMURO TOUR 2007 "IN THE MOOD"』の際の、東京国際フォーラムの楽屋でした。コアなファンの方ならわかると思いますが、きさくな人柄に触れられた瞬間でした。その後も作品がリリースされるごとに、作品の魅力について定期的に書いていきました。

2013年には、ムック本『氷室京介ぴあ』でキャリアの全て振り返るという、3時間越えの4万字インタビューを担当。たくさんの質問すべてを真摯に答えていただきました。当初2万字だったムック本の台割は、編集部に掛け合って無理言って倍に増やしてもらいました。ほぼノーカットで全テキストを使ったと思います。そんな取材はなかなかないですね。トークに一切の無駄なフレーズが無かったのです。すべての表現者に読んで欲しいモノ作りをしていくうえでの葛藤、モチベーション、根源へと向き合った内容だと思います。

そして、2016年春。氷室さん自身が決めた、氷室京介最後のライヴとなる『KYOSUKE HIMURO LAST GIGS』まで残すところあと1週間となりました。本編はある意味、全国各地50本をまわられた2014年の『25th Anniversary TOUR GREATEST ANTHOLOGY-NAKED-』で終わっていたのだと思います。「氷室京介はお前らが作ってくれた」というファンへ向けられたメッセージ。アンコールとしての、最後のプレゼントとしてのドームツアー。もちろん、今後も楽曲作品は作られていくと思いますが、氷室京介らしい引き際の美学……。

氷室京介の魅力、それはビートロックを基調としながらも、様々なミュージシャンとコラボレーションすることで生まれた、気品あるロックサウンドのグラマラスなオリジナリティ。カチっと決めこみすぎない粋な着崩し感覚な発声から生まれる絶妙なグルーヴ感。わかりやすさ一辺倒のポップソングや発声方法とは一線を画しながら、どんなマニアックなアプローチにもポピュラリティーを与えてしまう、巧すぎる歌唱が誘発する天性のポップさ。“誰にも似たくない、どこにも属さない”とは、BOφWYのキャッチコピーでしたが、BOφWY以上のセールス、ツアー規模を更新し続けながらも、信念を貫き通し、バンドの再結成の道を選ぶことのなかった自己との闘い。

結果、日本のロック市場を牽引し、大きく広げた立役者であることは間違いないと思います。影響を与えたアーティストも数多く存在します。氷室京介以前と以降で音楽シーンには大きな変化が起きました。それこそが、氷室京介=キング・オブ・ロックと呼ばれる所以なのでしょう。

氷室京介のライヴは、残すところ東京ドームでの3日間のみ。強烈なるオリジナリティーを全身で受け止めたいと思います。

『KYOSUKE HIMURO LAST GIGS』

2016年5月21日(土)@東京ドーム

2016年5月22日(日)@東京ドーム

2016年5月23日(月)@東京ドーム

http://sp.wmg.jp/himuro/

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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