音の錬金術師、久保田麻琴が手がけた最新作『RADIO MYAHK』を聴いた!

ドキュメンタリー映画『スケッチ・オブ・ミャーク』より

久保田麻琴
久保田麻琴

世界中を旅しながら名作を届けてくれる音の錬金術師、久保田麻琴が手がけた最新作『RADIO MYAHK』が届いた。3.11以降、必要な音とそうでない音が確実に二分したように思うが、今の時代に必要な必然の音が鳴っているのが本作だ。

日本列島最後の音楽秘境、宮古島。何世紀も伝わる魔術的な神歌や古謡を、久保田麻琴率いるブルー・アジアは、迫害から生まれた島のブルースを、ドープなリズム・トリートメントを試み魔法の唄として蘇生することに成功した。久保田麻琴が喜納昌吉を本土に紹介してから約30年、沖縄を通り過ぎて八重山でもなく、海外でもなく、宮古島の音に釘付けとなっていたことが興味深い。ロックでもポップスでもなく、ダンスミュージックでもない、それは代々受け継がれてきた神歌や古謡によって解き放たれる言霊とでもいうべき音楽の力。

裸のラリーズ~夕焼け楽団~サンセッツ~細野晴臣とのユニットHarry & Macとして活躍されてきた久保田麻琴の最新ワークス。音楽はただの消費物ではなく、生きる上で最も大切な根源となるアイデンティティを、時代を超えて継承していくコミュニケーション手段なのだという本質。そんな当たり前のことを忘れてしまっている世代にスイッチを入れてくれる最強の1枚に仕上がっている。

●音源も手がけられた、宮古島の祭祀を記録したドキュメンタリー映画『スケッチ・オブ・ミャーク』が、2011年ロカルノ国際映画祭のドキュメンタリー部門で準グランプリを受賞され話題となりましたね。

久保田:もともとは前作のアルバム『スケッチ・オブ・ミャーク』のCDに収録したおじい・おばあを東京に招いたコンサートを記録したかったんです。でも、話を進めていくうちに折角なので映画に撮ってみたいという話に進展しました。2009年にアルバムが出来て、映画は2011年に完成しまして、ありがたいことに昨年9月から1年近く、ロングランされました。

ドキュメンタリー映画『スケッチ・オブ・ミャーク』より
ドキュメンタリー映画『スケッチ・オブ・ミャーク』より

●観た人の感動がクチコミで広がっている凄さですよね。

久保田:そうなんです、宣伝にはほぼお金をかけてないんですよ。観てくださった方のTwitterなどで広まった感じですね。それこそ“日本列島に存在すると思わなかった世界が垣間みれた”という感想が多かったですね。観ている人は“初めて会う自分のおじいさん、おばあさんに会ったような気分になって泣いちゃう”みたいな感じなんですよ。

●映像と音楽で、根源となるアイデンティティを揺さぶる凄さですね。

久保田:私は映画館の息子なんです。子供の時からシネマで育ったから、60年代の映画の音が頭に残っているんですね。でも、日本映画はその後、音から予算をカットしだしたんですよ。それじゃ世界で勝てないんですよね。どんどん日本映画の音は元気がなくなってきている。60年代は“映像も大事だけど音も大事なんだ、音と映像が一緒になって、これが映画なんだ、ムービーなんだ”っていう時代だったんですよ。今回、自分が制作することになってあらためてそのことは意識しました。とはいえ、映画『スケッチ・オブ・ミャーク』は、録音班をつけずに、カメラについたマイクだけで制作したんです。半分は私が以前発表した『スケッチ・オブ・ミャーク』のアルバムの曲をサントラとして使って、バラバラのチープな音の素材を90分のひとつの音楽として聞けるようにまとめるのに三週間以上かかりました。その努力が観ている人にもおそらく通じているんじゃないかな。音がなかったらそんなには泣けないと思いますよ。音と、おばあのしわだらけの顔を体感すると、いきなり自分の先祖にハグされた気分になるんですよ。

●普段の生活の中で忘れていることをDNAレベルまでさかのぼって思い出させてくれるんでしょうね。『スケッチ・オブ・ミャーク』、そして本作『RADIO MYAHK』という宮古島に関する作品が続いてますが、久保田さんにとって宮古とはどんな存在なのでしょうか?

久保田:70年代に沖縄には縁があったんだけど、そのうち自分のバンドやアジアでのプロデュース活動が忙しくなったんですね。だけどしばらくして、たまたま熊野の山を歩いていたらすごくいろいろ感じることがあって……。それまで自分は日本人で日本語を喋っているのに、そこまであまり日本にピンときてなかったんです。教科書で習う古典なんかを習っても、なんだかあまり自分と近い気がしないというか。でも沖縄で受けた影響はすごく強くて。なんかこれは自分の一番深いものを引き出してるなって感じだったんですよね。それで、熊野の山を歩いて強いインスピレーションを受けたとき、また沖縄に行きたいなって思ったんです。それで沖縄の旧い友人に相談したら、私が求めているような日本の古いフィーリングはもはや沖縄本島にはないと言われて、宮古島を勧められたんです。それで行ってみると、人がやっぱり元気で面白い。さらに何度か足を運んでいるうちに、神歌があると分かったんです。沖縄には、女性が神職に就いて、五年なり十年なり神とともに歌を歌うという文化があったんですけど、それはもう久高島で1970年代に終わってたはずなんです。ところが宮古島では、まだおばあたちが白い着物を着て、神社ですらない森の中の聖地で、神様を讃えたり、豊穣を祈願したりする歌を夜通し歌っていたんですよ。もう驚きですよね。

ドキュメンタリー映画『スケッチ・オブ・ミャーク』
ドキュメンタリー映画『スケッチ・オブ・ミャーク』

●おばあ達はいくつくらいの方なんですか?

久保田:そもそも昔は50歳で「おばあ」だったんですよ。子供たちも大きくなって、孫もできて、あとはもうお祈りの世界に入るっていう。ところが今は50歳でも普通に働いていたり子供が東京に行っていたり、それどころではない。だからやっぱり受け継いでいくことが難しいんですよね。ほんの110年前までですが、宮古島は琉球王朝に、人頭税を納める義務があったんです。税といっても貨幣経済がないようなものなので、穀物で収めるという無理難題、しかも所望されたものは海の魚でも自分の妻でも、役人に差し出さなければならない。基本的人権がなかったんですよ。だから彼らにとって歌うことが祈ることであり、それが生きることだった。ブラックミュージックの背景に奴隷制度があるように、宮古島や八重山の歌の背景には多くの苦労があるんですよね。

●沖縄と宮古島って遠くから見ていると近いように見えますけど、全然違うんですねぇ。

久保田:そうなんです。宮古島には独自の言語があって、宮古島の古謡は沖縄民謡にはならなかったんですよ。ただ沖縄の芸能は宮古から音楽の要素を学んでるから、沖縄の民謡のルーツはナークニー(宮古根)と呼ばれてるんです。宮古島は小さいけど、とてもラウドなマイノリティで、成功している人は多いけど、自分たちの文化はひっそりと保ってきた、そういう特殊な場所なんですね。ただ、それが今後どうなっていくか心配なところなんですけど。

最新作『RADIO MYAHK』
最新作『RADIO MYAHK』

●それもあって今回『RADIO MYAHK』の制作をされたということですよね。古来語り継がれてきた歌が、リズムトリートメントされて、今の音にアップデートされているのがすごく面白いなと思いました。

久保田:これぞコラボレーションですよね。ユニバーサルということなんだと思います。まさに「MYAHK」ってコスモロジー、現世、宇宙という意味があるそうなんですよ。誰もが心の中に「MYAHK」があり、それは自分の現世であって、人間が生きる中心の場所だそうなんです。学者は言わないけど、おそらく「MYAHK」と日本語の都は同じ語源ではないかと思います。心の中に軸を持った人たちが三世紀間、過酷な重税の中でずっと守ってきたヘリテージ(遺産)なんですよね。人間の苦労と福音ってやっぱり関係があるのかもしれません。

●なるほど。

久保田:さて3.11の後、我々日本はいまどうすべきか? これから何をどう鍛えていくのか? 生きるということを突き詰めないといけないですよね。そして音楽産業は、ダウンロード技術が発達して、録音物を売るという産業が難しくなっている。その中でどう強く生きていくかということに対して、黒人音楽や、宮古島の音楽からすごくヒントをもらったんですよ。

●宮古島のアイデンティティが歌として語り継がれ、ルーツ音楽だからこそ時代をこえてコラボレーションされているという面白さ。まさに時代をこえて、様々な音源を組み合わせて生み出されている『RADIO MYAHK』ですが、そもそも元の音源はどのように探されたのですか?

久保田:古いレコードやカセットで音源に宮古の旅で出会いました。それで歌ってるおじい・おばあ、録音した権利者を探しあてたんです。現地で録音して残すってことは本当に偉大なことですよね。

●その出会いが映画に発展したんですね。そして、とても感動的なのが2曲目「HIDAGAWA」のブードゥーロックなアレンジなのですが、このインスピレーションはやはり歌い手さんの声から受けたのですか?

久保田:唄い手というより元の曲そのものが宗教的な要素を持ってますよね。このトラックはテルアヴィヴのBOOM PANというサーフロック・バンドのメンバーがリミックスしたのですが、私も気に入っています。単純な五音階の組み合わせの中に宇宙的なエネルギーがあったり、リズムの中に真理があったりするんですよ。原始的な南洋音楽と一言でいえないものがたくさんある。それこそ神歌の中でディープなものは、複雑な変拍子だったりするんですよ。

●なるほど。ところで、本作の名義であるブルーアジアというのはマレーシアの方とのプロデューサーチームなんですね。

久保田:私がアジアでのプロデュースをしてきた中で付き合いのある仲間で、今は中国のスターたちのコンサートディレクターとしてツアーをしていたりします。メンバーの一人はジャカルタにもいるんですよ。参加した二人のリミキサーは話題のイスラエルとオランダです。今世界で一番濃い音楽があるのは間違いなくテルアビブだと思ってます。酷い状況な国なんですけど良い音楽があるんです。酷い時代と良い音楽ってなぜか一緒にやってくるんだよね。大地震、津波、原発事故は本当に最低だけど、逆に起きてしまったことでやるべきことがより一層ブレなくなったというか。強い意志とブレない心で放射能と闘っていくしかない。

●覚悟が、行動を動かすのでしょうね。今まで音楽好きの人たちの興味が一局集中していたのが、これからどんどん多様化していきそうですよね。

久保田:そうだね。国とか都市ってバイオリズムがあるからね。

●今回のアルバムのタイトル『RADIO MYAHK』というのはどんな由来からつけられたんですか?

久保田:ラジオってもともとは音楽を伝搬する一番のメディアだったわけですよね。宮古島には、有線ラジオがあるんですよ。音楽好きな若者が自分で機材から作って放送しちゃうような、そんなイメージで付けたタイトルです。

●今回様々なコラボレーションがおこなわれているアルバムですが、久保田さんとしてはこの曲をまず聞いてほしいというポイントってありますか?

久保田:一番聞いてほしい曲はちゃんと一曲目「愛しゃがま」にいれてあります(笑)。もともとカセット音源の歌声なんですけど。アジアのいろんなところで、歌垣と言って歌で男女が即興で掛け合いをする風習があるんですね。これは元々宮古島の歌垣なんです。アフリカ音楽のような歌なんだよね。歌にアレンジは引っ張られていくんです。ギターも当然「こういうアレンジをくっつける」というより、リズムに合うように弾かされていく。それだけ元の音に力があるんです。でも音楽ってそうあるべきですよね。自分の言葉で伝えたくて、残したいことを歌にする。そんな時代が宮古島にはつい最近まで残ってたということなんですよ。

●それは驚きですね。

久保田:でも、そんな深みのあるカルチャーは衰退の運命にある。ところが若い世代でとんでもないのが出てきた。BLACK WAX です。私が2枚プロデュースしたファンク・ジャムバンドです。1週間の東京ツアーはソールドアウト、連戦連勝でした。音楽的にイケてるだけではなく、いとうせいこうがツイットしたように”精神性を受け継いでいる”ということが重要です。世代間のバトンを渡す手助けができたようです。

●そのソウルは脈々と受け継がれていくのですね。今回、映画『スケッチ・オブ・ミャーク』の評判が高まったことで、アルバム『RADIO MYAHK』が注目されたり、またその逆で映画が注目されたりしましたが、いかがですか?

久保田:“三部作”という言葉がありますけど、一つの大きいコスモス、ユニバースを三点で人に伝えるというのは理想的なことかも知れないですよね、私たちはいま本当に存続の危機がかかってるんじゃないかな? でも我々はこれからどう鍛えていくかというチャンスを頂いたと思ってるんですね。そんな時に、長い歴史の中で少しずつ失ってきたことが、宮古島にはまだまだコアとしてそこにあったことを知った。そこから学ぶべきことがあるんだろうなと思っています。

free culture magazine
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※今回のテキストはトリリンガルフリーカルチャーマガジン『Wooly』からの転載です。下記イベントで配布予定です。

http://wooly-web.com/

『ぐうたら江ノ島 GUTARA NIGHT in SUMMER』

20130705(FRI)@GARB

神奈川県藤沢市片瀬海岸2-17-23 THE BEACH HOUSE 2・3F

OPEN&START:19時半~

CLOSE:~23時半

1drink+food:4,000

http://www.thebeachhouse.jp/

毎年恒例、満員御礼の夏ぐうたら。今年は、Wooly release partyも兼ね、江の島で開催決定!! お馴染みGUTARAと豪華DJ陣に加え、WDTによるジャンルを越えたダンスの融合パフォーマンス、2012年10月にiTunesデビューしヴォーカルチャートで1位を飾ったFANGのライブと、内容盛り沢山!!!! 二十歳のパワフル編集長SALLYが手掛けたWooly Vol.18もゲットすべし★話題のビーチレストランGARB江ノ島の屋上にて、皆様のお越しをお待ちしております!2013年夏の駆け出しの思い出をWoolyとともに…♪

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