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定額制音楽ストリーミングサービスとは有料フル試聴マシーン!?

ふくりゅう音楽コンシェルジュ

【ポイントは音楽文化の継承、そして音楽の楽しみ方の提案】

レコチョクBest
レコチョクBest

本日3月4日、レコチョクが定額制音楽ストリーミングサービス『レコチョクBest』を開始した。月額980円(Apple決済の場合、1,000円)で100万曲をスマホ上で聴き放題という、新たな音楽の楽しみ方を提案するアプリがいろいろ波紋を呼びそうだ。

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【定額制音楽ストリーミングサービスは、CDやダウンロード配信の代替えサービスではない】

●違法サービスよりも便利なフル試聴サービスを提供

そもそも誤解したくないのは定額制音楽ストリーミングサービスは、CDやダウンロード配信の代替えのために生まれたサービスではない。海外で定額制音楽ストリーミングサービスとは、違法ダウンロードや違法アップロード映像があふれるYouTubeなど動画配信サービスへ対して、違法サービスよりも便利なフル試聴サービスを提供するというコンセプトではじまった歴史がある。その代表格として知られるのが、今や欧米を席巻しているスウェーデン生まれの定額制音楽ストリーミングサービスSpotifyだ。

●『レコチョクBest』とはレコチョクの有料フル試聴マシーン

たくさんの音楽に出会いたい音楽ファンに向けて、フル試聴を有料で提供しているのが定額制音楽ストリーミングサービスだと言えるだろう。リスナーとしては、楽曲の試聴を一元管理することで、今後、スマホ〜PC〜TV〜車などユビキタスに自分が選曲した音楽や履歴データを楽しむことで、選曲プレイリストを、まるで日記のように懐かしむことで“あの頃、どんな音楽が好きだったか?”を振り返りやすくなるかもしれない。もちろん、SNSと連動することで、プレイリストの交換など音楽を通じての友達も増えることだろう。

●国内市場のみの戦いだとマーケットに限界値が見える

なお、定額制音楽ストリーミングサービスが月額で集めた会費は、再生回数によって権利者に分配されていくというシステムは明快だ。一方、“還元率が低すぎるのでは?“という懸念は、会員数が増えれば解決されるだろう。しかし、権利者にとって国内市場のみの戦いだとマーケットに限界値が見え、厳しくなるかもしれない。定額制音楽ストリーミングサービス時代の成功は、韓国のPSYの成功に習い、欧米を席巻するグローバルポップ・サウンドを選ぶことが秘訣となるかもしれない。とはいえ、権利者のマネタイズは今のところ別事業で確保するか、または自らプラットホーム化(ファンクラブ化)することが正解で、今のところ定額制音楽ストリーミングサービスはCDやダウンロード配信の代替えサービスには適応せず、権利者にとってはファンを増やす為に活用する試聴機であることを忘れない方がよいだろう。

●SNSを駆使するなどコミュニティを形成し、情報ネットワークを構築

音楽をたくさん聴くことによって、好きな作品やアーティストへの愛着が生まれること。なによりも、そのサイクルを生み出すことが音楽文化の継承においてとても大切だ。そこで生まれた購買チャンスを、アーティストや音楽事業者はCDやDVDなどパッケージ商品の提供、ファンクラブビジネスへの誘導、ライブやコンサート・ビジネスへ結びつけていかねばならない。そのためには、アーティストや権利者は日々リスナーとコミュニケーションを取り続け、SNSを駆使するなどコミュニティを形成し、情報ネットワークを構築することは必須となってくるだろう。

●90年代末に勃発した音楽バブルはドラマタイアップやCMタイアップが生んでいた

昨今、ビジネス誌で、定額制音楽ストリーミングサービスの話とともに、CDが売れなくなった音楽業界に対して様々な憶測が、まるで犯人探しのように議論されているが、冷静に考えれば90年代末に勃発した音楽バブルはTVメディアの活性によるドラマタイアップやCMタイアップが生んでいたという事実にたどり着くように思う。TVの視聴率が下がり続ける一方、視聴者に音楽プロモーションが行き届かなくなるのは当然だ。さらに、CDを聴くためのCDプレイヤーの生産はレコード会社の親会社が撤退することで年々減っていった。TV全盛であれば、マーケティング的にも極地集中的にプロモーションをコントロールすることで流行歌を生み出しやすかったことだろう。しかし、インターネットの普及によって、YouTubeなどの浸透で、無料で音楽が聴きやすくなる機会が増えた。ユーザー各自がそれぞれ違う情報経路で音楽を楽しみやすくなったことで、音楽の楽しみ方が多様化されたというのが答えの一つだと思う。その多様化に答えた回答の一つが定額制音楽ストリーミングサービスなのかもしれない。

●ボカロソングでは、10代を中心に流行歌が誕生している

その反面、TVや音楽チャート、YouTubeとは別次元の独自音楽コミュニティとしてブレイクした『ニコニコ動画』では、熱量を感じられる独自ランキングが好評となり、10代を中心に流行歌が誕生していることは忘れてはならない。日本発の世界へ誇るべきオルタナティヴな音楽文化=ボーカロイドカルチャーが、二次創作を推奨すること、初音ミクのようなボーカロイドと呼ばれる歌うシンセサイザーをフロントに、ボーカロイドクリエイターが音楽競作をした結果、あらたなマーケットと才能が誕生している状況は、オーバーグラウンドの音楽不況に対して、カウンターカルチャーとして誕生したのだとすれば興味深い現象だと思う。

●定額制音楽ストリーミングサービスは、Spotifyが本丸となりそうだ

さっと『レコチョクBEST』を楽しんでみたところ、邦楽曲をたくさん楽しめることは魅力だが、品揃え的にはまだまだ廃盤の復刻というメリットの提案までは届いておらず、やはり配信サービスであるレコチョクの有料フル試聴マシーンというのがわかりやすい評価だ(それでも凄いことで待望すべきだと思うが)。本命は、音楽好きにとって使い勝手の優れた音楽プレイヤーとして欧米の音楽ファンからの評価も高く、まさに黒船である定額制音楽ストリーミングサービスSpotifyとなりそうだ(極力余計な機能は省きつつ、プレイヤー内アプリとして第三者に機能性を開いているのも好感触)。日本の音楽事業者は音楽プラットフォームをSpotifyにゆだねるのか、それとも自国でSpotifyをこえるサービスを作り上げるのか? 果たして『レコチョクBest』に注力し続けるのか? それとも、iTunesにおけるソニーミュージックの初期のように鎖国するかの判断を迫られているのかもしれない。

●音楽のあらたな楽しみ方を提案する、定額制音楽ストリーミングサービス

情報経路として有効だったTV番組の視聴率が下がったこと、CDプレイヤーの普及率が落ちたこと、どんな音楽を聴いたら良いかわかならい音楽ファン予備軍の増加などなど、それら問題をクリアし、音楽ファンと音楽との接点を増やし、音楽事業の売り上げを底上げを目的とする定額制音楽ストリーミングサービスの未来。2013年はまさに過渡期だと思うが、果たして結果はいつ出てくるのだろうか? しかし、欧米では、デジタルの売り上げ増加など、すでに結果が出始めているというデータもある。もちろん、日本市場はいまだCDがAKB48などの活躍によって売れ続けている特殊性があるが、CDプレイヤーの再普及に改善の余地が見られないなど、このままでは行き詰まりが来ることは明白だ。引き続き、音楽のあらたな楽しみ方を提案する、定額制音楽ストリーミングサービスの在り方に注目をしていきたい。

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音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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