芸能人と一般人で、同じ犯罪をした場合の処罰に違いはあるか??-弁護士が解説

(ペイレスイメージズ/アフロ)

タレントの松本伊代さんと早見優さんが、京都の嵐山でJR山陰線の線路内に侵入した鉄道営業法違反の疑いで書類送検されました。

松本伊代さんら書類送検 嵐山の線路内立ち入り

以前から芸能人が犯罪をした場合には、芸能人でない一般人が同じ犯罪をした場合以上に世間から厳しい非難を浴びたり、仕事を制限されたりするなどの社会的制裁を受けることが少なくありません。

ただ、刑事事件として扱う場合に、芸能人と一般人とで扱いが異なることが法的にありえるのでしょうか?

そもそも今回の事件はどのような罪に該当するか?

ニュースによりますと、今回の事件については、鉄道営業法違反の疑いで書類送検したと報道されています。

刑事手続きでは、基本的に、まずは警察が捜査をし、その結果を検察官に送って(これを送検といいます)、次に検察官が起訴をするかどうかを決定するという流れになっており、今回の事件では、今は検察官の判断待ちということになりますので、まだ起訴されるかどうかが決まったわけではありません。

そして、容疑の内容は、鉄道営業法違反とのことですが、今回対象となることが考えられる鉄道営業法37条違反は、1000円以上1万円未満という軽い罰則が定められた罪です。

これだけ罰則が軽いのは、あくまでも鉄道地内にみだりに立ち入ったことが問題となっているものの、電車の往来に危険が生じていないことが前提となっている罪だからです。

また、書類送検時の容疑とは別の容疑で起訴することも可能で、軽犯罪法による起訴も考えられますが、これも処罰規定は拘留(30日未満の身柄拘束)か科料(1000円以上1万円未満)のみです。

なお今回の事件くらいでは、危険往来罪や業務妨害罪が成立する可能性は皆無でしょう。

刑事手続きにおける芸能人の扱いは?

何となく、犯罪をした人が芸能人であると、それだけで罪を重くすべきだという人がいるかもしれませんし、逆に司法は芸能人には甘いというイメージを持っている人もいるかもしれません。

刑事手続きにおける芸能人の扱いを考えるについては、検察官がどのような起訴をするかを決める段階と、起訴された後に裁判所がどのような処罰(判決)を科すかを決める段階とに分けて考える必要があります。

検察官が起訴をする場合の芸能人の扱いは??

検察官がどのような起訴をするかについては、基本的に検察官には裁量が与えられています。

参照「刑事訴訟法第248条:犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」

このように、検察官が起訴をするかどうかについては、様々な要素を考慮して判断してもよいこととなっていますので、容疑者が芸能人かどうかということについても、1つの考慮要素にすることは可能です。

ただ、それは単に芸能人だからという理由だけでみせしめとして厳しくするのではなく、今回の事件のように、一般人が同じことをするよりも犯罪事実の拡散力があって、第二の犯罪を誘発してしまう悪影響が大きかったという事情などが、結果的に処罰の必要性を高めているのではないかと思います。ただブログに載せる行為は犯罪事実そのものとは直接関係なく、本来的には線路内に立ち入った事実関係を中心にどのような処罰がされるべきかが検討されます。

他方で、今回の事件のきっかけとなった番組がお蔵入りになるなど、一般人が同じことをする以上に、社会的制裁を強く受けているという事情もあるため、刑事処罰を受けなくてもすでに十分な制裁を受けたという評価に傾くこともあるかと思います。

松本伊代、早見優が書類送検 当該番組はお蔵入り

裁判官の判断について芸能人の扱いは??

検察官による総合考慮の結果、もし起訴された場合には、次は刑事裁判により裁判官の判断を仰ぐことになります。

刑事裁判における量刑について、裁判員裁判をきっかけに、最高裁判所が量刑の基本的な考え方を示していますが、その中では、犯行の態様や結果、動機といった犯罪事実そのものに対する評価が第一に重要で、量刑は被告人の社会的地位に応じて変化してはならないのが原則であると指摘されています。

つまり、刑事裁判における量刑については、被告人が芸能人であることで、社会的影響力が大きいことなどについても考慮にすることはできますが、あくまでも副次的な限りで考慮されるにとどまるのです。

ちなみに、たまに、罪を犯しても反省の弁を述べれば罪が軽くなるといったネット記事を見かけることがありますが、これも不正確で、判決文で被告人の反省の有無や内容について何かしらの評価をされることは多いものの、このことが量刑にそこまで大きな影響を与えているわけではありません。

本件についてどう扱うべきか

完全に個人的な意見ですが、そもそも今回の犯罪行為が、鉄道営業法や軽犯罪法違反に該当するとしても、実際に行った犯罪事実は、電車に迷惑や危険を及ぼすものではない短時間の線路内の立ち入りで、かつ積極的な害意のあるようなものではなかったわけで、違法性の程度は高くはありません。

そして、(副次的な考慮要素ではありますが)元々が比較的軽微な罪であるにもかかわらず、刑事処罰とは別にすでに非難を浴びたり、番組がお蔵入りになったりという社会的制裁を受けていることからすれば、起訴をしないという判断が相当ではないかと思います。

ネットなどの公の場では、犯罪である以上、必ず処罰すべき!という意見が好まれるとは思いますが、電車には迷惑や危険を発生させない程度でふざけて線路に立ち入ったとして、もちろん違法行為であることには間違いないのですが、多くの人からバッシングを受けた上で仕事までなくなり、さらに刑事処罰まで受けるとしたら、犯した罪に対して、制裁が大き過ぎないですかね・・・(もちろん電車の往来に迷惑や危険を生じさせていたら話は全く別ですが)。

刑事司法には、犯した罪と、処罰の程度は比例させるべきという考えがありますが、今回の罪は1万円以下の罪で、法定刑だけで言えば立ちションと同じぐらいの罪なわけです。みなさんも、例えば立ちションしてしまったとして、警察にコラって怒られるところまでは納得できても、起訴されて前科がつくことになったら、マジかよって思いません?

* 鉄道営業法は明治33年に制定された法律で、制定当時は今とは物価も異なるため、罰則はわずか10円以下の科料と定められていますが、物価変動の影響を考慮し、罰金等臨時措置法により、1000円以上1万円未満の範囲で科料を科すこととなっています。

鉄道営業法

第三十七条 停車場其ノ他鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス

出典:法令データ提供システム

罰金等臨時措置法(略)

第二条第三項 刑法等以外の罪につき定めた科料で特にその額の定めのあるものについては、その定めがないものとする。

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刑法

第十七条  科料は、千円以上一万円未満とする。

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軽犯罪法

第一条  左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

三十二  入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者

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※本事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。