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赤ちゃんと大人の突然死、受動喫煙と関連 

福田芽森循環器内科専門医
家庭での受動喫煙は、赤ちゃんの突然死と関連します(写真:アフロ)

東京都議会で10月5日、「子供を受動喫煙から守る条例」が可決、成立しました。

 

参考記事:受動喫煙防止「家庭でも禁煙を」都の条例成立(日本経済新聞 2017/10/5)

 

喫煙が健康に悪いことは、ほとんどの人が少なからず知っていると思いますが、「受動喫煙」についてはどうでしょう。

最近の日本での研究で驚くべき結果が出たため、それも交えて解説していきます。

 

<目次>

1)受動喫煙で命を落とす人はいるのか?

2)受動喫煙が健康に与える影響は?

3)新しい法律で受動喫煙が防げる?

4)まとめ

 

1) 受動喫煙で命を落とす人はいるのか?

受動喫煙によって、死亡している人はいるのでしょうか。

まず、日本を含む世界50カ国以上の研究機関と世界保健機構(WHO)が行った共同研究「世界の疾病負担研究」によると、受動喫煙の影響は下記のように推定されています。(※1, 2)

 

・ 世界で年間約60万人が受動喫煙で命を落としている

・ 日本で年間約1万人が受動喫煙で命を落としている

・ 日本で年間約10万人が受動喫煙でなんらかの害を被っている。

また、厚生労働省「喫煙と健康(たばこ白書)2016年」でも、

・ 日本で年間1万5千人以上が受動喫煙で命を落としている

とされています。その原因疾患として「虚血性心疾患(心筋梗塞など)」は4459人、「脳卒中」は8014人で、喫煙と関連の強いイメージを持つ「肺癌」の2484人よりも多くなっています。

そして、睡眠中の乳幼児の突然死の原因の一つである「乳幼児突然死症候群」の73人が受動喫煙によるとしています。

2015年度は本国で96名の乳幼児が「乳幼児突然死症候群」で亡くなっており、乳児期の死亡原因としては第3位です。(※3)

つまり、受動喫煙は乳幼児の死の大きなリスクなのです。この事実からすると、家庭での禁煙を勧める「子供を受動喫煙から守る条例」には、大きな意義があると思われます。

  

2)受動喫煙が健康に与える影響

受動喫煙が健康に与える影響は、科学的に確かなことが過去の研究でわかっています。それは例えば脳卒中や肺癌、虚血性心疾患、乳幼児突然死症候群です。(※4)

 

厚生労働省 喫煙の健康影響に関する検討会報告書(平成28年8月)より抜粋)
厚生労働省 喫煙の健康影響に関する検討会報告書(平成28年8月)より抜粋)

 

子供への影響は、喘息や、乳幼児突然死症候群です。

・ 親が喫煙していると子供の喘息が増える(※5)

・ 親が家庭で喫煙する時間が長ければ長いほど、乳幼児突然死症候群の割合が多くなる(※6)

 

そして大人への影響として、2017年6月、日本における研究で、「急性大動脈解離を含めた大動脈疾患による死亡が、受動喫煙により約2倍に増える」ということが新たに分かりました。(※7)

 

まず、急性大動脈解離とは、心臓から出ている太い血管(大動脈)のどこかが裂ける病気です。通常、激痛を伴い、場合により手術を要し、急速に死に至ることもある、重大な病気です。血管は様々な臓器に血液を送るため身体中に張り巡らされているため、どの部分で裂けるかで症状や病状も異なってきます。

 

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010 年度合同研究班報告) より抜粋
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010 年度合同研究班報告) より抜粋

 

この急性大動脈解離と受動喫煙の関係について、筑波大学の研究グループが48,677人を平均16年間追跡し、分析したところ、

・ 受動喫煙の程度が高い群は、通常より2.35倍、急性大動脈解離をはじめとする大動脈疾患による死亡リスクが高い

ことが分かりました。

 

筆者は急性大動脈解離の恐ろしさを日々の診療の中で知っているため、この結果は、受動喫煙の危険性をより感じさせるものとなりました。

今回、世界で初めて大動脈疾患と受動喫煙の関連が示されましたが、今後も受動喫煙について、様々な新しい知見がうまれることでしょう。

 

3)受動喫煙防止法の効果

では次に、受動喫煙防止法の効果について考えます。

実は過去の研究で、「受動喫煙防止法の実施で病気が減る」ことは証明されています。(※8)

 

世界の43つの研究について、心筋梗塞や突然死、脳卒中や慢性閉塞性肺疾患(COPD)について分析すると、受動喫煙防止法の施行後では施行前に比べ、それぞれの病気による入院リスクが下がっていたのです。

 

受動喫煙防止法が心臓・脳・呼吸器疾患入院率に及ぼす影響: メタアナリシス(日本禁煙学会理事 松崎道幸翻訳)より抜粋
受動喫煙防止法が心臓・脳・呼吸器疾患入院率に及ぼす影響: メタアナリシス(日本禁煙学会理事 松崎道幸翻訳)より抜粋

 

実際に法令化することは効果がある、と証明されていれば、より力強く我が国でも受動喫煙防止を法令化するとなるのではないでしょうか。この研究は職場やレストランだけでの研究ですが、今回の条例成立によって、本邦から家庭内での受動喫煙防止法の成果が出ても良いですね。

 

4)まとめ

以上よりまとめると、

・ 日本では年間約1万〜1万五千人が受動喫煙で命を落としている

・ 受動喫煙は心筋梗塞や急性大動脈解離、脳卒中、肺癌のリスクである

・ 親が家庭で喫煙する時間が長ければ長いほど、乳幼児突然死症候群の割合が多くなる

・ 家庭内での受動喫煙防止は、子供の突然死を防げる可能性がある

・ 職場やレストランでの受動喫煙防止は、禁煙範囲が広いほどより健康に効果がある

ということです。

 

受動喫煙の健康への影響は明らかであり、特に乳幼児が受動喫煙する場は、家庭が主だと思われます。今回の条例により、家庭内での受動喫煙が減り、効果があることを願います。

 

 

 

 

 

 

 

※尚、本記事執筆にあたり、東京医療センター循環器内科 布施淳先生に、(※7)に関する資料提供についてご協力をいただきました。ありがとうございました。

<参考文献>

※1 Forouzanfar MH et al., Global, regional, and national comparative risk assessment of 79 behavioural, environmental and occupational, and metabolic risks or clusters of risks in 188 countries, 1990-2013: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2013. Lancet. 2015;386(10010):2287-323

※2Global Burden of Disease Study 2015, Seattle, United States: Institute for Health Metrics and Evaluation (IHME)2016. (accessed 2017 October 10)

※3厚生労働省 乳幼児突然死症候群について(accessed 2017 October 10)

※4 The health consequences of smoking- 50 years of progresss. U.S. Department of Health and Human Services, Centers for Disease Control and Prevention

※5 Maternal and paternal indoor or outdoor smoking and the risk of asthma in their children: a nationwide prospective birth cohort study. Drug Alcohol Depend. 2015 Feb 1;147:103-8.

※6 Smoking and the sud- den infant death syndrome: results from 1993-5 case-control study for confidential inquiry into stillbirths and deaths in infancy. BMJ 1996;313:195-8.

※7 Passive smoking and mortality from aortic dissection or aneurysm Atherosclerosis. 2017 Jun 9;263:145-150.

※8 Association Between Smoke-Free Legislation and Hospitalizations for Cardiac, Cerebrovascular, and Respiratory Diseases Circulation 2012; 126: 2177-83

循環器内科専門医

東京女子医科大学卒業後、独立行政法人国立病院機構 東京医療センターで初期研修を積む。同院循環器内科に所属ののち、慶應義塾大学循環器内科に勤務。現在はAI医療機器開発ベンチャー企業で臨床開発を担当し、京都大学公衆衛生大学院に在学中。産業医としても活動し、働く人の健康をサポートしている。循環器内科専門医、日本循環器学会広報部会/COVID-19対策特命チーム所属、認定産業医、ACLS(米国心臓協会二次救命処置)インストラクター、JMECC(日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会)インストラクター、レジリエンストレーニング講師(The School of Positive Psychology)。

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