犯罪多発地域の子育てとは ニューヨークで見た流れ弾の恐怖

テラニ・メゾック。ニューヨーク・ハーレムにて(撮影:深田志穂)

STRAY BULLET ~ 流れ弾

 あなたの普通の1日を思い浮かべて下さい。家から外に出たとたんに、突然銃撃戦が始まったらどうしますか?さらには巻き添えになって流れ弾に当たってしまったら?想像できますか?これは実際にアメリカ・ニューヨーク市のブルックリンに住むテラニ・メゾックという11歳の少女に起こったことです。2013年のことでした。

 私はテラニの事故のことを知った時、彼女とその家族に起こったことはすぐに世の中から忘れ去られてしまうのではないかと思いました。なぜならアメリカでは銃による死者や怪我人が絶えないからです。米国疾病管理予防センターのデータを基にすると銃によって命を落とす人はアメリカ国内で年間1万3千人近くいます。それに比べて日本では銃に撃たれて死亡する確率は1千万人に1人の割合だと言われています。今年2月にフロリダ州・パークランドにある高校で起きた銃乱射事件は記憶に新しい人も多いのではないでしょうか。これだけ多くの犠牲者が出ているにもかかわらず、アメリカで銃規制が困難なのは、NRA(The National Rifle Association=全米ライフル協会。銃愛好家の市民団体)のような圧力団体の政治的影響力が大きいことなどが理由の一つとして挙げられます。

 

 自分には非もないのに偶然そこに居合わせたばかりに、流れ弾に撃たれて命を落とすという矛盾をあなたはどう考えますか?ニューヨークでは他にも自宅のリビングでくつろいでいた12歳の少女が家の窓を割って入ってきた流れ弾に撃たれて死亡したり、母親が運転する車で移動中に車体を突き抜けてきた流れ弾に当たって2歳の男児が死亡したケースもあります。

テラニ(中央)と従兄弟たち。ハーレムのプロジェクト(低所得者向け集団住宅)にて。(撮影=深田志穂)
テラニ(中央)と従兄弟たち。ハーレムのプロジェクト(低所得者向け集団住宅)にて。(撮影=深田志穂)

 流れ弾による事故はあまり世間の関心を集めません。理由の一つは、流れ弾の原因となるギャング紛争が起こるのが、主に低所得者及びマイノリティーの居住地区で起こっているからかもしれません。私はこのように銃によって失われていく幼い命について憤りを感じずにはいられませんでした。

 こんな気持ちから私はこのショートドキュメンタリーを撮ることにしました。このフィルムはテラニが撃たれてから1年後の生活を追ったものです。この作品をとおして銃が一人の子どもの人生をいかに変えてしまったかを伝えたいと思いました。「テラニは走ることやダンスをすることが大好きな社交的な娘だったのよ。」と母親のプリシラ・サミュエルは言います。しかし私が訪れた時にはその活発な少女の面影はなく、テラニは心を閉ざし鬱とパニック発作と闘う日々を過ごしていました。

 テラニとその家族は今後どうなってしまうのか私は心配でした。彼女たちが住んでいたニューヨークのブルックリン地区では不動産が高騰し、一昔前は低所得者層の居住地で治安が悪かった地域も「Gentrification」(ジェントリフィケーション)が進んでいます。この現象は不動産やコミュニティーの改善によりその地域の不動産の価値が上がり、昔から居住していた低所得者が住めなくなり中流層が流入して来ることです。テラニたちが住んでいた地域もその一つであったため、一家は同じブルックリンでも比較的家賃の安いベッドフォード・スタイベサント(Bedford-Stuyvesant)という地区に移ってきました。テラニが撃たれたのはちょうどその間もない頃でした。

 流れ弾の犠牲者の大半は事故の後も治安の悪い地域から引越すことができずに、毎日銃の危険と隣り合わせの生活を続けなければなりません。しかしテラニの母プリシラは娘を守るためにもっと安全な場所を求めてマンハッタンに引越すことにしました。

 すでに困窮していたシングルマザーのプリシラにとって、テラニの事故は経済的にも身体的にも大きな負担としてのしかかりました。プリシラは看護助手として働いていましたが、テラニの怪我により仕事を辞めざるを得なくなりました。また引越してはみたものの一家が住めるのは低所得者向けのプロジェクトと呼ばれる集合住宅だけでした。そしてここもやはり同じようにギャングがはびこる危険な環境だということがすぐにわかります。それでもプリシラはテラニの将来が少しでも良くなるように努力を惜しみません。アメリカの公立学校では地域の経済格差が学校の質に顕著に表れます。プリシラはテラニを良い公立学校に入れるために、ハーレムの南側にある高級住宅地のアッパーウェストサイドの学校に彼女を入学させようと駆けずり回ります。そこは車椅子の児童もいて、そのための施設も整った良い公立学校だと聞いたのです。プリシラは市の教育委員会に例外的に越境を許可してくれるよう交渉しました。しかしすぐお隣りにあるにもかかわらず、プロジェクトに住むテラニに越境は許されませんでした。

 私はプリシラが娘のために奔走する姿に心を打たれました。子どもたちを安全な環境で育てることは、本来私たちの権利であるべきで、特権ではないのです。それが全ての人にとって叶う世の中になって欲しいと切に願います。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の動画企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】