橋下徹氏「生活に困っていない人は10万円受け取るな」の危険性 誤った正義感と弱者救済が失敗する理由

「生活に困っていない人に10万円は受け取るな」とお願いするように主張する橋下徹氏(写真:アフロ)

橋下徹氏「生活に困っていない人は10万円受け取るな」

4月22日の配信記事では橋下徹氏の発言の何が問題なのか指摘している。

橋下徹氏「給料、ボーナスが減らない人に給付する必要なし」対立や敵対心を煽らず、もう静かにしてほしい

橋下氏はまだ静かにしていないようだ。今日もTwitterで吠えている。

「一部の業種の人たちには生活を奪う営業停止を強力にお願いする。それなら、なんで生活に困っていない人に10万円は受け取るな、くらいのお願いができないの。日本の政治は「全国民一致団結しよう」「国民を分断するな」なんていう美談に腰砕けになった。」

政治家や公務員、生活保護受給世帯など、収入が減っていない、困っていない人が10万円を受け取ることがどうしても許せないそうだ。

「生活に困っていない人」という定義も毎回不十分で、どこから突っ込めばいいのか悩ましいが、とにかく一律給付は嫌で嫌で仕方がないらしい。

「全国民一致団結しよう」「国民を分断するな」という一般論として受け入れられやすい言葉すら「美談」として揶揄(やゆ)する。

私は美談と言われようが、美辞麗句だと非難されようが、従来からみんなに一律給付し、お金もちは勝手に経済や社会のことも想定しながら、消費や寄付に回せばいいと主張している。

そのような主張は私個人の考えではなく、学説にも基づいている。

誤った正義感、弱者救済論が失敗してきた理由

ただ、橋下氏は悪者で、意地悪だから「生活困窮していない者は10万円受け取るな」と言っているのではない。

彼は以下のツイートでも分かる通り、収入が減らない人、生活できている人の受け取りを控えてもらって、出てきた財源を生活困窮者に配れないか、と構想しているようだ。いわゆる「弱者救済論」である。いい人らしい。

Twitter画面にもある通り、橋下徹氏はこのように正義を主張する。非常に重要なヒューマニズムだが、実はいささか古い。

「政治が今やらなければならないことは、生活に困っている人に少しでも多くのお金を届ける知恵を出すこと収入が減らない人、なんとか生活できる人には受け取りを控えてもらうように強力にお願いし、余った予算を生活に困っている人に再分配するのが本来の政治の役割だ。」

この思想に決定的な誤りがある、とあえて指摘しておきたい。

みんなが何らか困っている状況下で、橋下氏の政治手法を取るならば、生活に困っている人に再分配は及ばないと過去の失敗経験から振り返っておく必要がある。

慶應義塾大学の井手英策教授(財政社会学)は、私との共著や数々の書籍のなかで、近年の弱者を選別して支援する、あるいは給付する方式の失敗を指摘している。

彼の指摘から橋下氏が陥っている誤謬(ごびゅう)や橋下氏に反発する人々の抱える声の真意が見えてくるはずだ。

井手英策教授は「たしかに、所得制限をつけ、貧しい人たちにターゲットをしぼって給付をおこなえば、安あがりで、効率的に格差を小さくすることができます。お金もちに税をかけ、貧しい人たちに給付すれば、確実に格差を小さくすることができます。でも肝心なのは、経済的に効率的な方法が、政治的に、あるいは社会的に効率的だとはかぎらないということです。」「財政から読みとく日本社会」(岩波ジュニア新書P205 2017年)と述べている。

そして「貧しい人たちやお年寄りなど、一部の人たちだけを受益者(給付の対象者※著者補足)にしてしまうと、受益感にとぼしく、負担だけをもとめられる中間層やお金もちは、その政策に反対の声をあげるのではないでしょうか。そうすれば、サービスをくばるお金が足りなくなり、結局困っている人たちは、ほったらかしにされるかもしれません。」「財政から読みとく日本社会」(岩波ジュニア新書P206 2017年)と述べる。

かなり限定した世帯に30万円配布する弱者救済策がなぜあれだけ支持を得られなかったのか、振り返るまでもない秀逸な指摘だろう。

井手教授は現金給付ではなく、現物給付(教育、介護、医療などのサービス給付)の文脈で述べているが、その給付対象を誰にするのか、政策による受益感はあるのか、という点では重要な問題提起だ。

橋下氏の主張にこれまで受益感がなかった人々からも反発が起こり、自分たちにも配れ、自分たちも対象にしろ、という声が上がっている理由でもある。

また、弱者指定された人々、困っている指定された人々は、多くの人が望まない受益感の低い給付を受ける際に、肩身が狭い思いをしなければならない。

現金給付を受けていいのだろうか、サービス給付を受けていいのだろうか、という戸惑いも起こるだろう。

一部は、制度批判だけでなく、あいつらだけずるい、俺たちには配られていないのに、という当事者への非難、不正受給者探しの声が広がり、場合によっては生活保護バッシングのように、生活保護制度自体の解体まで主張する人々も出てくる。

昔のように、多くの人に一定の余裕があった社会ではない。格差社会である。みんな何らか困りごとを抱えている社会と言ってもいい。

つまり、橋下徹氏の誤った正義論、弱者救済論は、結果的に人々の間の憎悪や分断を招き、給付対象者にお金やサービスが行き渡らなくなる事態を巻き起こす。

弱者を本気で救済したいと思うなら、受益者を増やし、広範に給付対象者を増やす方式にならざるを得ないのである。

ぜひ橋下氏には最新の財政社会学、社会福祉学の知見も取り入れた上で、政策提言や制度批評をおこなっていただきたい。

今のままでは古すぎる時代遅れの制度批評だと言わざるを得ないし、支持も得られまい。