ZOZO賃上げの大きすぎる功績ー非正規労働者への賃上げは日本全体に何をもたらすのかー

(株)ZOZO前澤友作社長(写真:ロイター/アフロ)

ZOZO賃上げによる求人の殺到

(株)ZOZOが2000人のアルバイトの新規求人と時給1300円への引き上げや賞与を支給する発表をおこなった。

各業界とも人手不足が顕著だといわれていたが、当初の時給1000円から300円引き上げただけで、応募者が殺到する事態となった。

非正規雇用に依存した経営方針は変わらないので、引き続き安定雇用を増やすように尽力いただきたいが、時給の引き上げによる労働分配率の改善は歓迎したいものである。

人手不足に苦しんでいる企業は、事業費全体を見直し、労働者に支払う賃金へ傾斜配分すれば、問題が改善に向かうことも示すことが出来ただろう。人がいないのではない。まともな求人にしないから人がいないのである。

近年の日本企業の特徴は、東証一部上場企業も例外なく、非正規雇用を拡大させ、労働分配率を著しく抑え込んできた

利潤が過去最高益であっても、労働者に支払われる賃金、特に非正規雇用の労働者への賃金は大して上がらないままであった。

一方で、役員報酬は増加、株主配当は増配という状況でもある。

(株)ZOZOの功績は、この現代の雇用状況に改善の一手を打ったことにあると言ってもいいだろう。

賃上げ効果は日本全体にどのような影響を与えるのか

では、そもそもZOZOのように、非正規労働者の賃金を引き上げると日本全体にどのような効果があるのか考えてみたい。

結論から先に言えば、非正規労働者への賃上げは日本を救うと言っても言い過ぎではないということだ。

子どもの貧困、ワーキングプアが減る

まず、1つ目に、子どもの貧困、ワーキングプアが縮減されることになる。

日本における子どもの相対的貧困率は、13.9%と言われている。この数字は先進諸国でも高い方に属する。

なかでも、母子家庭などシングルマザーの世帯に至っては、50%を超える相対的貧困率が計測されており、世界最悪の実態と酷評される異常事態である。

ましてや日本の貧困問題の深刻なところは、子育て世帯の親たちが働いているのに貧困であるという、いわゆるワーキングプア状態にある。諸外国と比較しても、日本の貧困世帯、低所得世帯の人々はよく働いているといえる。

しかし、その賃金では暮らしが安定しないばかりか、子育てに必要な費用も得られにくい。

パートやアルバイトの時給が低すぎて、長時間働いても生活が困難なため、仕事を掛け持ちする労働者も珍しくない。

もちろん、長時間働けば、子どもと向き合う時間も十分取れないため、子育てや家事もままならなくなってしまう。

全国各地で子ども食堂や無料の学習支援塾が話題になるが、根本的な問題改善に向かいたいのであれば、賃上げが極めて有効だということだ。

働いたら普通に子育てができるように、非正規労働者の賃上げは必須の要素である。

正社員の給与も引き上げる要素になる

2つ目に、正社員の賃金にも大きく影響をする。

ZOZOは非正規労働者の時給を引き上げた。

正社員であると一見、非正規労働者の賃上げは自分とは関係ない出来事のように見えるかもしれない。

しかし、生活相談や労働相談を受けていて実感することだが、正社員の給与が低い会社が多くある。

いまでは正社員の給与基準が残業代込みで、地域の最低賃金と同じく設定されている企業も珍しくない。

要するに、正社員の給与や待遇は、地域の最低賃金や平均的なアルバイトの時給を勘案して決められている場合がある。

正規雇用、非正規雇用と分けて議論されることもあるが、両者とも労働者であることには変わりがない。

正社員の賃金が上がりにくい背景に、非正規労働者への賃上げが追い付いていない状況もある。

だからこそ、雇用形態によって、分断がされないように、正規雇用、非正規雇用の双方が手を取り合って賃上げ要求していくことが望ましい。

賃上げ競争の発生による国民生活の底上げ

3つ目に、地域における賃上げ競争がはじまる。いわゆる賃上げ圧力が発生するということだ。

ZOZOがアルバイトの時給を引き上げて求人が殺到したことを思い出してみてほしい。

周辺地域から眠っていた労働力が新たに掘り起こされただけでなく、いまの仕事を辞めてZOZOに転職したいという「労働力の移動」も見られる。

同じような業務内容であれば、時給が高いところに転職したいと思うのは、労働市場では当たり前のことである。

むしろ、多くの労働者が低い賃金に我慢したまま働いてしまえば、賃上げ圧力は一向に発生しない。

同じような業務内容であれば、ぜひ賃金や処遇が少しでもよい環境へ移動してほしいと思う。

それによって、他企業や同業種の雇用は賃金を上げなければ、人が集まらないようになるだろう。

最善の人手不足解消方法は賃上げだと証明された瞬間だった。

要するに、他企業や産業全体もZOZOの賃上げの影響を受けざるを得ないし、労働者が自由に賃金を求めて移動を始めるなら、労働市場はそれに合わせてくるということだ。

一方で、「時給が引き上げられる企業はいい。余裕がない企業は時給を引き上げられない。」という声も聞かれる。

何も労働者へのメリットは時給だけに限らない。賞与の支給、福利厚生の拡充、正社員と同様の待遇、長期休暇の支給、子育てや家事との両立策など、賃上げ以外の取り組みで雇用をとどめ置くことも可能だろう。

時給が上げられない場合は、住宅手当や社宅の提供など、別のメリットを創設してみることもお勧めしたい。

いずれにしても、相対的にメリットがないなら労働者は移動を始めるということである。

個人消費が活性化すれば日本経済が活性化する

4つ目は、賃上げした給与が地域経済を潤すということだ。

日本はGDPのうち、6割弱に及ぶ規模が個人消費に依存している内需傾倒の経済圏である。

金融資産の配当や利益で暮らしている高所得層にお金が回っても、すべて消費には使いきれずに、貯蓄や投資になってしまう。

しかし、ZOZOの非正規雇用を含む労働者層は、日々の暮らしや子育ての費用など旺盛な消費に回ることだろう。

賃上げされて得られたお金は確実に地域経済に還元されることになる。ZOZOの倉庫周辺の商店や地域経済圏では消費も活性化して、多くの人が助かることだろう。

商品が売れない、デフレから脱却できない、と騒いでいるが、労働者の賃上げによって、消費を喚起するという当たり前の取り組みが評価されていくべきだ。

賃上げは労働時間短縮につながる

5つ目に、労働時間が短縮できて生活に余裕ができるということだ。

ZOZOの賃上げにより300円の時給単価が上がったフルタイムの労働者は、1日あたり2,400円(300円×8時間)、月あたり52,800円(2,400円×22日)、年にすると633,600円が引き上がる。

賃金が上がるということは、労働時間を減らす選択肢も選べることになる。これが労働者を賃労働から解放する意味で極めて重要な点だ。

例えば、学生の場合は、月にアルバイトで10万円収入があれば、他の時間を勉強や研究、余暇に費やすことも可能だ。

子育て世帯の場合も、ある程度稼いだら、残りは無理せずに子どもと過ごす時間に充てようという選択もできる。

賃金が低ければ、必死に働かなければならず、長時間働いても暮らしに余裕はないが、時給単価が上がれば様々な選択肢がとれるようになる。

前澤友作社長が言うように、バンド活動に余暇を使えるし、貯金をするにしても目標額への達成が早まることだろう。

事実として、年金がある程度の金額で支給されている高齢者は、働かなくても生活ができるし、働いたとしても短時間勤務で生活が維持できる場合もある。

今回は5つの賃上げ効果を挙げたが、ZOZOの決定は政府が決める最低賃金の引き上げ圧力にも効果が及ぶだろうし、他にも良い影響が多数ある。

ZOZOの賃上げの功績は、そういう点で計り知れないインパクトを与えている。

もちろん、わずか300円だろうという声もあるし、継続して賃上げを求めたり、より安定雇用へ結びつけるべきだという声もある。

それもその通りだ。

ZOZOに限らず、他の企業、産業へと効果を波及されていくべきだ。

そのためにも、まず多くの人に非正規労働者の賃上げにどのような意味があるのか、その大きな効果を理解いただきたい。

そして、賃上げを求める労働運動や労働組合を通じた要求が日本社会を救うことになるという前提で問題を継続してみてほしいと思う。