ピエール瀧容疑者の逮捕から考える薬物依存症と治療やケア、周囲の理解の必要性

コカイン使用と所持で逮捕されたピエール瀧さん(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

ピエール瀧容疑者の逮捕と薬物

コカインの所持と使用によって、ピエール瀧氏(51)が麻薬及び向精神薬取締法違反で逮捕された。

尿検査で陽性反応が出ており、本人は容疑を認めているそうだ。

その後の報道でも、常習性が疑われるような発表が続いている。

過去の相談者の事例を見れば、薬物依存症者は「止めたくても止められない」というような状態に陥っている人々も多く、使用歴が長い人もいる。

大麻や覚醒剤、向精神薬などと僕たちはどのように向き合って生活していけばいいのか考えてみたい。

欧米と比べても少ない薬物使用経験者

まず日本では薬物使用経験者が主要先進国と比較して極めて少ない。

広報や周知がされており「薬物=危険」であり、絶対に手を出してはいけないものという認識は相対的に広がっている。

「ダメ。ゼッタイ。」というポスターを見かけることもあるし、子どもたちに「薬物乱用防止」ポスターを描かせて、薬物乱用を社会全体で抑止してきた。効果は絶大と言ってもいいだろう。

主要な国の薬物別生涯経験率(厚生労働省2018)
主要な国の薬物別生涯経験率(厚生労働省2018)

アメリカでは大麻を使用したことがある人は40%を超えているし、今回のコカイン使用経験者では14%程度いる。

他の主要先進国でも大麻から覚醒剤含めて使用経験者は日本よりもはるかに多い。

日本は相対的に薬物乱用を抑え込めている国といえるだろう。

さらに、薬物事犯で検挙される容疑者も全体としては減少傾向にある。

薬物事犯法令別検挙者数(厚生労働省2018)
薬物事犯法令別検挙者数(厚生労働省2018)

報道で芸能人が逮捕されて話題になるが、薬物乱用が広がっているわけでも、薬物事犯がはっきり増えているわけでもないことは覚えておいてほしい。

薬物依存症者に必要なのは厳罰ではなく治療とケア

日本ではピエール瀧さんや他の芸能人も同様に、みんながやっていないこと、やってはいけないことを犯したのだから、処罰されるべきだという感情にもつながってくる。

ピエール瀧さんも仕事まで降板させられることが検討され、すでにいくつかの仕事は解約を示唆されているそうだ。

このような対応になる背景には、薬物事犯に対する市民感情も厳しいことがうかがえる。

もちろん、現在の日本では薬物事犯に対して、刑事司法の領域で刑事罰が科せられることが一般的だ。

ましてや社会全体で薬物乱用は「ダメ。ゼッタイ。」と啓発をし続けてきた。

「ダメ。ゼッタイ。」を犯したのだから処罰されるのは当たり前のように見られている。

しかし、そのようなメッセージは現在、少数ながら薬物を使用して、場合によっては依存傾向が強まっている当事者にとって、どのような効果があるだろうか。

はっきりと下記の事例でも見受けられるとおり、治療やケアから足を遠のかせる効果がある。

薬物使用の告白をしたら逮捕され、職場に迷惑をかけて仕事を奪われ、再起不能になってしまうのではないか、と誰でも不安に陥るだろう。

その不安から逃れるために、さらなる薬物の使用をしなければならない事態も考えられる。

例えば、僕が過去に出会った30代の男性は10代から覚醒剤所持と使用によって、複数回、刑事施設や病院への入所、入院を繰り返している。

彼は仕事上のストレスを抱えていた際に、友人から誘われて若かったこともあり、興味本位から覚醒剤を使用してしまったそうだ。

それ以降はストレスを感じるたびに、覚醒剤を入手しては友人や恋人と使用してきたという。

僕と出会ったのは失業中に生活が困窮してストレスから覚醒剤を使用し、入院している最中のことだった。

彼は「覚醒剤は犯罪なので見つからないようにこっそりと使用していた。誰にも相談できなかった。」と使用理由を述べていた。

別の大麻を20代から使用していた40代男性は、大麻使用の疑いで逮捕されて仕事を失い、執行猶予判決が出た後に生活困窮して相談に来られた。

出会った際に、気分が悪かったり、イライラする際に大麻を使用する癖が続いていたと述べていた。

彼とは生活保護申請に同行し、精神科病院やダルクへ通うことになった。付き合い始めて10年近くなるが、彼は今のところ、依存症者の仲間と交流を続け、大麻使用を繰り返すには至っていない。孤独感も仲間との交流で解消される様子が見られる。

一度、薬物に手を出したら人生が終わり、などではない。その後の人生は辛くとも続いていく。

よく薬物事犯は再犯率が高いといわれるが、適切な治療に結びついたり、本人のストレスや生活状況を把握して、ダルクを含む継続的なケアを受けられる体制があれば、依存対象から逃れられる人もいる

周囲の理解や温かい関わり方も治療やケアを後押ししていくだろう。

海外では大麻など違法薬物だったものを合法、非犯罪化して、依存症者には早めに治療やケアに結び付けようとする「ハームリダクション」という方針がとられている国や地域もある。

厳罰化や犯罪化、刑事施設への収容が問題解決には繋がらないというスタンスである。

「ダメ。ゼッタイ。」からやってしまったら「気軽に治療やケアを受けてみよう」へ転換するまでに日本では時間がかかりそうだ。

いずれにしても、現在も薬物依存によって苦しんでいる方、薬物依存から抜け出したい方は、まず全国各地にある依存症専門外来などの専門家である精神科医やソーシャルワーカーへ相談してほしい。

医師やソーシャルワーカーは厳しくも温かく、今後の治療や生活について一緒に考えてくれる存在と言ってもいいだろう。

またダルクなど必要なケアができるグループやプログラムに案内してくれることもある。

これまで誰にも打ち明けられなかった悩みや苦しみを吐露してみてほしい。

自身の語る言葉から今後どうしていきたいのか、社会関係や人間関係を見直す契機にもなるはずだ。

例えば、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部部長の松本俊彦医師は、以前からインタビューでも刑事司法での手続きよりも、治療やケアへの連携が重要だと説き「尿検査もしますが、(薬物反応が)陽性になったからといって、もちろん通報もしないし、責めない。だって本人たちは尿検査で陽性になることを分かって来ているのです。それは、すごいことですよ」と述べている。

薬物依存症者への理解は医療や福祉領域でも広がり続けている

だからこそ、当事者は気軽に相談してほしいし、他の方も刑事司法での厳罰化から治療やケアに繋がるように、引き続き薬物事犯ニュース報道を冷静に見ていただけたらと思う。