東洋大学生の竹中平蔵氏批判の背景にある若者の貧困とワーキングプア

当時の小泉総理大臣と竹中平蔵氏(写真:ロイター/アフロ)

東洋大学大学生の立て看板設置とビラ配布

東洋大学学内において、同大学4年生が竹中平蔵氏の言動に対して批判的な主張をおこない、その宣伝ビラを配布したことが明らかになった。

東洋大学に設置された立て看板([東洋大学立て看同好会Twitterより])
東洋大学に設置された立て看板([東洋大学立て看同好会Twitterより])

まず、同大学教授であり、近年の政治・政策にも深く関与してきた権威である竹中平蔵氏を真正面から批判した学生の行動に敬意を表したい。

日本の教育のなかで、自発的に考え、社会政策や社会情勢に批評を加えることが出来る学生がいるということは歓迎すべきことだろう。

残念ながら、現在の大学を就職までの一過程ととらえ、自分たちが生活を送っていく社会について深く考察することに興味を示さない学生もいる。

そのなかで、彼が真剣に竹中平蔵氏と向き合い、自身の知見を活かして行動を起こしたことが称賛されることはあっても非難される理由はないだろう。

東洋大学大学生の配布ビラは以下の通りであるので、一読いただきたい。

この大学はこのままでいいのだろうか?

我々の生活が危ない!

竹中氏の過悪、その一つは大規模な規制緩和である。特に2003年の労働者派遣法の改悪がこの国にもたらしたものは大きい。それまで限定されていた業種が大幅に拡大されることで、この国には非正規雇用者が増大したのである。「正社員をなくせばいい」や「若者には貧しくなる自由がある」といった発言は、当時の世論を騒がせた。

しかしながら、この男まるで反省の素振りを見せない。

「朝まで生テレビ!」という番組では、自らの政策の肝であったトリクルダウン(お金持ちが富むことでその富が貧しい者にも浸透するという理論)について、「あり得ない」というある種開き直ったかのような発言をしており、まるで自分がやった責任について無自覚なようだ。

また、昨年可決された高度プロフェッショナル制度については、「個人的には、結果的に(対象が)拡大していくことを期待している」などという驚くべき思惑を公言している。つまり、初めは限定的なものだからという理由で可決された労働者派遣法が、今これほどまでに対象を拡大したように、高度プロフェッショナル制度は、今後とも更なる拡大が予想されるのである。

無論、我々も例外ではない。労働者はこれから一層使い捨てにされることになるのだ!!

様々な利権への関与!?

竹中氏が人材派遣会社のパソナグループの会長を務めているということも忘れてはならない。というのも労働者派遣法の改悪は、自らが会長を務める会社の利権獲得に通じていたからだ。まさに国家の私物化である。

また、最近では昨年法案の正当性について全く審議されずに可決された水道法改正案と入管法改正案についても関与していたことが明るみになっている。更に加計学園との関連も取りざたされており、今後ともこの男の暴走を追及する必要がありそうだ。

今こそ変えよう、この大学を、この国を

皆さんは恥ずかしくないですか、こんな男がいる大学に在籍していることが。僕は恥ずかしい。そして、将来自分や友達や自分の子どもが使い捨てにされていくのを見ながら、何も行動を起こさなかったことを悔いる自分が、僕は恥ずかしい。意志ある者たちよ、立ち上がれ!大学の主役は、我々学生なのだ。右も左も前も後も何にも分からない人も、みんな集まれ。民主主義は決して難しいものではない。共に考え、議論し、周りに訴えながら、もう一度みんなでこの社会を立て直そう!!

読んでいただいてどうだろうか。

これは彼のソーシャルアクションであり、社会活動法を駆使した問題提起なのである。

各種報道や竹中氏の言動から学生が受け取ったメッセージが分かりやすく記載されているし、学内、社会に発信して議論を喚起しているのである。

これは学生・竹中氏の当事者に限らず、多くの大人、大学教員も含めて議論を展開してほしいと思う。

ビラの内容に賛同する者もいるだろうし、反対する者もいるだろう。

多様な意見があっていいし、それを受け入れて議論をしていくのが大学の役目である。

一部で当該学生に対する処分が検討されているようだが、それ自体あり得ないことであり、冷静な対応を願いたい

個人投資家の山本一郎氏のように、「竹中平蔵の講義に反対」ビラ配った学生に東洋大学が退学勧告との報において「このような実にけしからん誹謗中傷が竹中さんに対して行われることは、いろんな意味で東洋大学の品位を貶める行為に他ならず、仮にこれらの批判が事実であり正鵠を射ているものであったとしても、書き方が悪く望ましいものとは言えない」という主張もあるが、一切ためらう必要もない。

なぜなら、この批判は学生らの背景にある生活不安や近年の雇用政策への怒りに対して鈍感であり、若者の不安に寄り添って考えていく姿勢ではないからだ。

若者の貧困とブラック企業、ワーキングプア問題

少し彼のビラの主張に応答しておきたい。

例えば「労働者派遣法の改悪がこの国にもたらしたものは大きい。それまで限定されていた業種が大幅に拡大されることで、この国には非正規雇用者が増大したのである。」という主張からだ。

まず、労働者派遣法改正によってその業種が拡大されて、派遣労働者が増えたことは正しい事実認識である。同様に非正規雇用も増えた。

厚生労働省の資料(「非正規雇用」の現状と課題 2017)でも、非正規雇用が増えてきたのは事実だと裏付けてくれている。

さらに、今でこそ非正規雇用は高齢者のところで増加が顕著だが、相変わらず学生らを含む若年層が非正規雇用で働いている実態がある。

若者の自殺率も相変わらず先進諸国と比較して高水準であり、若者の死因トップは常に病気や事故ではなく自殺である。

社会に絶望する若者は依然として多い。

平成期は30年間で正社員雇用は増えず、非正規雇用急拡大の時代だった。若者にとっては苦難の時代である。

この期間を振り返っても、雇用構造の変化に起因して、ニートや引きこもりも社会問題化したが、「若者が意欲を失い変質した」という言説が振り撒かれ、安易な若者批判も多かった。

その平成期を象徴する政策に関与し続けてきた竹中平蔵氏を学生が糾弾するということは、平成期最後の宿題のようなものとしても興味深い。

実際に、低賃金がゆえに若者の貧困、子どもの貧困が拡大し続けてきたのもまぎれもない事実である。

国民生活基礎調査によれば、安定して給料を得ているはずの年齢である30歳~49歳のところで、11,8%(2000年)から14,4%(2012年)に相対的貧困率が上昇をしている。

リーマンショック前後は例外としても、断続的に好景気が継続しているにもかかわらず、若者や労働者の貧困、ワーキングプアは減らない。

それに伴い、若者の未婚率はもはや先進諸国でトップレベルであり、世帯を形成したいのにその選択肢すら保障されない雇用環境である。

この社会において、当該学生が社会人になり働き続けることへの不安や複雑な思いを有すること、友人や先輩の働き方を見て憤りを感じることに、わたしは何ら疑問を持たない

さらに、「竹中氏が人材派遣会社のパソナグループの会長を務めているということも忘れてはならない。というのも労働者派遣法の改悪は、自らが会長を務める会社の利権獲得に通じていたからだ。まさに国家の私物化である。」 という主張はどうだろうか。

まず竹中平蔵氏は現在も(株)パソナグループ取締役会長である。これも事実だ。

大学教授、実業家という肩書きを使い分けているのだろうが、利害関係者が公平性を是とする政府の社会政策を議論する際に、彼を重用することが適切なのか、という問題提起だろう。

彼が「利権獲得に通じていた」「国家の私物化」だと思って批判しても致し方ないと思う。

パソナグループは人材派遣業を中心に業務を急拡大させてきた。現在では生活困窮者支援として自治体の業務委託も多数受けている。

いずれにしても、東洋大学でも学生が社会に疑問を持ち、具体的な行動に移すことが出来た。

議論するだけでなく、実際の行動に出たことは、諦念に縛られ、閉塞感がある日本社会において希望のひとつだろう。

わたしたちはこのような異議申し立てをしてくれた若者を尊重するのか、抑圧するのか、その方向性で今後の社会の行く末すら左右するだろう。

彼の言葉を借りれば、まさに「意志ある者たちよ、立ち上がれ!(中略)民主主義は決して難しいものではない。共に考え、議論し、周りに訴えながら、もう一度みんなでこの社会を立て直そう!! 」という志こそ、行き詰っている日本に重要な点ではないだろうか。