痴漢や強姦など性犯罪被害者を生まないために ー「性障害」への医療や福祉的ケアのすすめー

(写真:アフロ)

未だに止まらない性暴力や性犯罪事件

2017年5月29日の午後、28歳の女性が記者会見を開き、元TBS記者でジャーナリストの男性から、性的暴行を受けたと訴えました。男性は不起訴になっていますが、捜査過程では、不自然に一度出た逮捕状の執行が止められていたそうです。

女性が顔を出して被害を訴えることは、大変勇気がいることであるし、今後も経緯を説明する責任が警察当局にはあるはずです。

この事件に限らず、女性に対する性暴力などが後を絶たないことは報道でよく知られているところです。

私たちの周囲にも痴漢防止の張り紙が各駅で見かけられますよね。被害者が後を絶たない状況です。

それでも、多くの被害者は声を上げることが困難な状況に置かれていることも事実であり、前述の事件でも被害女性に対するバッシングがネット上には多数散見されています。

このあたりの実情は 「彼女が顔を出して語ったもう一つの意味」(小川たまか) をお読みいただけたらと思います。

性暴力であるという認識と性依存症への治療やケアの必要性

わたしはソーシャルワーカーという仕事をしています。

だからこそ、過去には性犯罪をしてしまった方のケア、被害に遭われた方の双方に関わらせてもらったこともあります。

加害者側からは、「性犯罪を悪いことだと認識しているけれども、イライラすると繰り返してしまう恐れがある」と語られたこともあります。

要するに、性のコントロールが難しい状態に置かれている人がいるのです。

それが事件化するか否かは別として、なぜ性暴力や性犯罪は繰り返されるのでしょうか。

特に、性暴力による加害者の背景を分析し、その後のケアの話題が取り上げられることは多くありません。

性犯罪や性暴力の言動は、自身で問題を自覚し、ケアや治療によってサポートしてもらえば、行動は抑制されるものだと認識されています。

精神医療の領域では、以前から治療の対象として、性暴力や性犯罪に向き合ってきた歴史があります。

例えば依存症治療で実績がある大石クリニックでは性嗜好障害として以下のように述べています。

性的な行為は、本来、それ自体が問題になることはありません。しかし、痴漢・盗撮など(繰り返す性犯罪)の社会的に問題につながる行為をしたり、性交渉や風俗の利用回数が極端に多くなったりすると、性嗜好障害という病気の可能性があります。国際的な疾病に対する統計基準であるICD-10によると、性嗜好障害に分類されます。

一般的には身体的・社会的なリスク(性犯罪など)を冒してまで性的問題行為をすることがしばしばあったり、特定の性的行動(不倫、マスターベーション、のぞき、痴漢など)がやめられない、売買春など不特定多数の人間とセックスをする、風俗通いなどがやめられず金銭的に困窮している、強制わいせつ罪や迷惑防止条例違反など法に触れるような行為など、性的行動のコントロールが効かなくなる状態のことを言います。

出典:大石クリニック 性嗜好障害(性依存症)とは?

皆さんはどうでしょうか。

様々なストレスなどの環境要因から「性的行動のコントロールが効かなくなる状態」として、加害者、当事者の行動を見る必要があるのではないでしょうか。

あるいは非難して忌避するだけではなく、依存症による言動であるとして、治療やケアの対象として積極的に位置付けていく必要性もあるのではないでしょうか。

このあたりの認識が社会に広がることが重要だと思っています。

例えば、性依存について自覚される方たちが集まる「SA-JAPAN(無名の性依存症者の集まり)」など、自助グループも活動をおこなっています。

ひとりでは弱いので、同じ経験や近い経験を有する仲間たちで依存症と向き合い、自己を見つめ直していこうとする取り組みです。

性に限らず、アルコール依存、ギャンブル依存、薬物依存などからの脱却を目指して取り組むグループもあります。

「SA-JAPAN(無名の性依存症者の集まり)」は、セックスアホーリクス・アノニマスと呼ばれます。

セックスアホーリクス・アノニマスは、経験と力と希望を分かち合って共通の問題を解決し、他の人たちも性依存症から回復するように手助けしたい、という共同体である。

SAのメンバーになるために必要なことはただ一つ、性的な渇望をやめ、性的にしらふになりたいという願いだけである。会費もないし、料金を支払う必要もない。私たちは自分たちの献金だけで自立している。SAは、いかなる宗教、宗派、政党、組織または施設、団体にも縛られていない。また、どのような論争や運動にも参加せず、支持も反対もしない。

私たちの本来の目的は、性的なしらふにとどまることであり、他の性依存症者も性的なしらふに達するよう手助けすることである。

あなたも性依存症の当事者!?

さらに「SA-JAPAN(無名の性依存症者の集まり)」が挙げている20の質問は、私たちの日常の言動に振り返りや問いを投げかけ、気づきを与えるものとなっています。

皆さんは以下の20問に該当したり、「あれ?」と思うことはないですか。

該当するから性依存症であるとは言えませんが、コントロールが難しい場合には医療や福祉的なケアを頼ってみてほしいのです。

1.性的な思考や行動に対して、助けが必要だとこれまで考えたことはありませんか。

2.セックスに「屈しない」ほうが、楽だと思っていませんか。

3.セックスや刺激にコントロールされていませんか。

4.あなたの性的な行動で、間違えていると思ったことをやめよう、または制限しようとしたりしたことはありませんか。

5.逃避や不安をやわらげるため、または何かに耐えられず、セックスに頼ることはありませんか。

6.セックスの後、罪悪感や自責の念を感じ、落ち込むことはありませんか。

7.求めるセックスがより強迫的になってはいませんか。 (「強迫」とは、その行為に囚われてしまうことです)

8.セックスに対して強迫的になっていることで、配偶者との関係がギクシャクしてはいませんか。

9.イメージや過去の記憶に頼らないとセックスできなくなっていませんか。

10.他の人に言い寄られ、セックスを誘われると、抑えられない渇望が起きませんか。

11.あなたは、次から次へと恋愛関係を持つ相手を変えてはいませんか。

12.あなたは「この人こそ」という相手との関係があれば、自分の性的渇望やマスターベーションや乱交は止まると思ってはいませんか。

13.あなたは、自暴自棄になってセックスを求め、強烈に人恋しくなることはありませんか。

14.あなたがセックスを求めることによって、自分自身だけでなく、家族や他人をなおざりにしていませんか。

15.セックスがより強迫的になって、能率や集中力が低下していませんか。

16.セックスのために時間を無駄にしたことはありませんか。

17.あなたはより悪い環境でのセックスを求めていませんか。

18.あなたはセックスが終わると、できるだけ早くセックスした相手から離れたいと思いませんか。

19.配偶者と性的にうまくいっているにもかかわらず、まだマスターベーション (自慰)や他の人とのセックスを続けてはいませんか。

(註:ここでいう「配偶者」とは男女の結婚のパートナーを指します)

20.これまでに性犯罪で逮捕されたことがありませんか。

※『いくつチェックがつけば性依存症者です』というものではありません。

他にも性障害専門医療センターSOMECでは、認知行動療法などを用いて、相談者に医療やケアを提供する事業を実施しています。 

性障害専門医療センターでは、性嗜好障害(パラフィリア)、性依存症(セックス依存症)、小児性愛(ペドフィリア)、性的倒錯、児童ポルノ、窃視症(のぞき)、盗撮、露出、痴漢、強制わいせつ、強姦、ストーカー、DVなど、性暴力・性加害行為者に対するカウンセリング(CBT:認知行動療法プログラム)、薬物療法(ホルモン/抗アンドロゲン療法、SSRIなど)を実施しています。

出典:性障害専門医療センターSOMEC

これらの医療機関や相談機関、自助グループは、社会のなかに少ないとはいえ、存在しているのです。

そして、自身や周囲が問題を認識して、少しでも適切なケアが提供されれば、事件化や悪化を食い止めることも可能なはずです。

今回はこれらの機関を皆さんに知ってほしかったのです。

悩んでいたり、苦しんでいたら利用してほしいし、身近な人が困っていたら相談に活かしてほしいとも思います。

人は程度の差はあっても何かに依存して生きています。

そして、私たちが生きている情報社会は、ポルノやわいせつ動画・画像の大量拡散時代でもあります。

情報へのアクセスも非常に容易であり、意図しなくても溢れる情報に流されてしまうこともあるでしょう。

そのなかで、知らない間に、誰でも自己の性のコントロールが効かなくなってしまうことがあるといえます。

場合によっては、刺激を求めて他者に迷惑をかけたり、暴力をしてしまうこともあるかもしれません。

その日常における言動を自覚したり、治療や他者の援助を受けるなど、制御しながら生きていくことが大事だと思います。

自分だけで難しいときには、他者の力も借りて、適切に依存対象物と向き合っていく必要があります。

誰も性の加害者にならず、被害者にもならないために、社会全体で医療や福祉的なケアの認識を拡大させていきたいものです。

最後に、既存メディアにおいては今後の報道の際、少しはこれら相談機関や医療機関を紹介し、市民に周知を図ってほしいと思っています。