流行語大賞候補ノミネート『下流老人』ー言葉の力を信じてー

<流行語大賞候補ノミネートと拡大する高齢者の貧困>

2015年11月10日(火)14時に「ユーキャン2015年新語・流行語大賞候補50語」がノミネートされた。

ノミネートされた言葉は以下のとおりである。

このなかから流行語大賞とトップテンが選考委員の審査によって12月1日に決まる。毎年恒例のイベントである。

爆買い/インバウンド/刀剣女子/ラブライバー/アゴクイ/ドラゲナイ/プロ彼女/ラッスンゴレライ/あったかいんだからぁ/はい、論破!/安心して下さい、穿いてますよ。/福山ロス(ましゃロス)/まいにち、修造!/火花/結果にコミットする/五郎丸ポーズ/トリプルスリー/1億総活躍社会/エンブレム/上級国民/白紙撤回/I AM KENJI/I am not ABE/粛々と/切れ目のない対応/存立危機事態/駆けつけ警護/国民の理解が深まっていない/レッテル貼り/テロに屈しない/早く質問しろよ/アベ政治を許さない/戦争法案/自民党、感じ悪いよね/シールズ(SEALDs)/とりま、廃案/大阪都構想/マイナンバー/下流老人/チャレンジ/オワハラ/スーパームーン/北陸新幹線/ドローン/ミニマリスト/ルーティン/モラハラ/フレネミー/サードウェーブコーヒー/おにぎらず

そのなかにわたしが創造した「下流老人」という言葉もノミネートいただいた。

下流老人とは「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」と定義してみた。

あまりの刺激的な言葉に、「差別的だ」、「高齢者をバカにしている」、「著者の見識を疑う」など多くのご批判もいただいた。

真摯にそれらの言葉は受け止めたいと思う。

一方で、高齢者の貧困について、これまでも私たち社会福祉関係者は問題提起を繰り返し行ってきた。

問題は深刻であり、今後も貧困が拡大することには反対で早急に対処するべきだと。

日本における高齢者の相対的貧困率は20%程度であり、5人に1人は健康で文化的な暮らしが送れていない可能性があると指摘できる。

1人暮らし高齢者に至っては、さらに相対的貧困率は急上昇する。高齢者の孤立死の背景に貧困も見え隠れする。

しかし、高齢者の貧困問題に政治や政策が積極的に関与してきたとはいえない。

むしろ、消費税増税や年金削減(マクロ経済スライド)、生活保護基準引き下げ、介護保険制度の利用基準引き下げと自己負担割合の増加など貧困や格差を拡大させる政策が強いように思う。

案の定、高齢者の貧困に限らず、年々日本における相対的貧困率や格差は拡大する傾向にある。

<言葉の持つ力を信じる>

要するに、高齢者の貧困が拡大しているにもかかわらず、社会福祉関係者が打開策を提示できず、貧困に苦しむ当事者の現状を変えることができずに時間が過ぎていった。

従来の枠組みで問題提起や発言を続けても、高齢者の貧困対策は前に進まないばかりか、後退局面に向かうだろう。

さらなる貧困を生み出し、苦しむ高齢者をこれ以上増やしたくないと思っている。

そこで「下流老人」という言葉の持つ力を信じて、大きなアクションに打って出ようと考えた。

これが奏功して大きな成果を上げたといってもいいだろう。

高齢者の貧困をまさに「見える化」して、多くの方たちに関心を持ってもらうことができた。

同名の拙著「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 」は2015年6月に発表以来、約半年間で20万部を超える発行部数を記録している(2015年11月15日現在)。

出版不況の現状において、異例の大きな数字といえるだろう。

それだけの方たちに本書を届けられたことは感無量である。

これまでは高齢者の貧困について、国会でも質問は極めて少数であった。

しかし、「下流老人」現象を受けて、早速、衆議院予算委員会でも質問に取り上げていただいた。

2015年11月10日、衆議院予算委員会における民主党の前原誠司衆議院議員の質問である

民主党 前原誠司衆院議員 衆院予算委員会資料
民主党 前原誠司衆院議員 衆院予算委員会資料

前原議員は、日本の人口の31%に当たる3950万人が年金生活者であること、そのうち基礎年金のみを受給しているのが1023万人にも及ぶ事実を紹介。年金生活者と賃金生活者の将来推計で2030年にはほぼ拮抗する可能性もあるとして、「すでに『下流老人』が社会問題になっている。非効率な低所得者対策ではなく、ある程度の負担を国民にお願いして、日本の構造問題を解決すると説明すれば、国民はきっと理解してくれる。

出典:【衆院予算委】「消費税の負担軽減は給付付き税額控除が効率的」前原誠司議員

他にも各種メディアが頻繁に高齢者の貧困の実態や生活のしづらさを取り上げるようになった。

さらにこれから高齢者になる若者に対する「未来予想図」という形で、雇用の不安定さや賃金の低さ、年金の少なさを指摘する報道も拡大している。

わたしたちは現象を表現する言葉を得ることによって、その問題を社会に伝えることができるのだと確信している。

過去には「ブラック企業」、「派遣切り」、「ネットカフェ難民」、「ホームレス」などの言葉が生み出され、問題の発見や社会問題化することに成功してきている。

高齢者の貧困問題への解決策、これから高齢期を迎える若者への支援策は十分ではない。

だからこそ、改めて言葉の持つ力を信じて、生活に苦しむ当事者の生活実態から改善を求めていく活動の重要性を感じている。

「下流老人」という言葉の普及・啓発によって、まずは問題認識を社会全体で共有するところから解決策は生まれると信じている。