人口減はフリーフォール、2060年には3分の2に/森田朗国立社会保障・人口問題研究所長に聞く

シャッター通りになった商店街(ペイレスイメージズ/アフロ)

「人口減少社会」と言われるようになってもう何年もたつ。少子化や高齢化はかなり前から指摘されてきた。しかし、人口減少が何をもたらすのか、そもそも対策はあるのか、社会の反応は鈍いように思える。働く人が足りない、老齢人口を背負う現役世代が足りない、社会保障の負担が大変だと個別のテーマでは議論がなされている。それでも、人口減少が現実的なイメージとしてまだ私たちの眼に映っていないのかもしれない。

私たちは分水嶺を越えた

ショッキングなグラフがある。日本の人口が歴史的にどう推移してきたかというグラフだ。期間はほぼ1500年。平安初期には550万人ほどだった人口は江戸時代直前の1600年の時点で1227万人、約800年かけてようやく2倍を超えた。そこから約270年、1872年には3倍弱になる。すなわち徳川幕府の時代に人口は順調に増えたのである。そして約140年、2010年にピークを迎えた(国勢調査によるもの。毎年の人口を推計している国立社会保障・人口問題研究所によるとピークは2008年)。第2次大戦で300万人の犠牲者を出したにもかかわらず、人口は約3.7倍になった。明治以降、急激に増えてきた人口は、ここからまさに「つるべ落とし」で減少する。

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資料:国立社会保障・人口問題研究所(社人研)「人口統計資料集」(1846年までは鬼頭宏「人口から読む日本の歴史」、1847~1870年は森田優三「人口増加の分析」、1872~1919年は内閣統計局「明治五年以降我国の人口」、1920~2010年総務省統計局「国勢調査」「推計人口」)2011~2110年国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成24年1月推計死亡中位推計).グラフは社人研作成。

国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計によると2060年(東京オリンピックのわずか40年後だ)には8474万人、ピークからおよそ4000万人強も減る。それからさらに40年たつと4959万人、そしてその10年後には4286万人となる。わずか50年の間に、2060年の半分になる。

1500年という歴史的スパンで見るとき、頂上まで登り詰めたジェットコースター「日本の人口」号は、フリーフォールと言ってもいいような角度で落ちていく。これが私たちが直面している現実だ。

私たち日本人が初めて向きあうこの人口急減にどう対応できるのか、あるいは対応できないのか。社人研の森田朗所長(東大名誉教授・写真)に聞いた。

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藤田_人口全体が急減することはわかりましたが、その構成が大きく変化することで、社会がこれまで経験したことのない状況になりますね。そこを説明していただけますか。

森田_1960年の人口ピラミッドを見ると、これはきれいなピラミッドになっています。12歳前後のところにいわゆる団塊の世代が突出していることがよくわかります。この世代の後、少子化が始まります。そして2010年にはピラミッドというより下にいくほど狭くなる壺型になっています。でもこのピラミッドでは、まだ団塊の世代が青い色、すなわち生産年齢人口(15~64歳)に属しています。

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しかし、次の2060年のピラミッドを見てください。ここの人口は推計値なので、高位推計、中位推計、低位推計の三つが重ねて描かれています。この中で最も人口が多い年齢は85歳です。そのうちとくに女性が約70万人、それに対して、生まれてくる女の赤ちゃんは、いちばん低い見積もりだと18万人、いちばん高い推計でも33万人ほどです。

この時、老年人口(65歳以上)の比率は40%、生産年齢人口(51%)をいちおう現役世代と考えると、いわゆる肩車型、1人が0.8人を支える形になるということです。

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この変化を従属人口指数(15歳未満と65歳以上の人口を生産年齢人口で除した数字)としてグラフにしてみると、人口ボーナスと人口オーナスがよくわかります。

人口ボーナスと人口オーナス

藤田_ボーナスとは経済的なメリット、オーナスとは経済的なデメリットということですね。

森田_そうです。下のグラフを見てください。戦後から現在にかけて指数が大きく凹んでいる時期があります。1970年から1990年ごろにかけてです。団塊の世代が生産年齢人口に入って来たころと団塊ジュニアが入って来たときに大きく凹んでいます。従属人口の割合が小さかったために、富を増やすことができました。だから高度経済成長が可能になりました。しかしこの従属人口指数は21世紀にかけてどんどん上がってきました。高齢者が増えてきたからです。

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2060年ぐらいにはほぼ100%、つまり生産年齢人口と従属人口がほぼ同じ。年少従属人口は減っているので教育にかかるお金はあまり増えないでしょうが、高齢者に関わる社会保障費が急増していきます。

この人口ボーナスによる高度成長を自分たちの実力だと思ったのが大きな勘違いでした。政府は、今でもGDP(国内総生産)を600兆円にするという目標を掲げていますが、労働生産性をかなり上げてもその目標の達成はまず無理でしょう。

高齢化率のトップを走る日伊独韓

藤田_先進国では程度の差こそあれ、人口減少と高齢化率の上昇という現象が見られます。日本だけが断トツというわけでもないようですね。

森田_国連の見通しでは、2060年ぐらいに韓国が日本を追い抜いてしまいます。社人研の予想ではそうはならず、日本が高齢化社会の先頭を走り続けます(笑い)。それにドイツやイタリアもかなり進みますね。国民には反発されていますが、メルケル首相が難民問題で寛大な姿勢を示してきたのは、こうした事情が背景にあるのではないでしょうか。多少の社会的コストはあっても、人口減少を食い止めたいということだと思います。

藤田_都知事選にも立候補した増田寛也さんが「地方消滅」という衝撃的な言葉を使いました。日本という国全体もそうですが、地方によっては人口が急激に減少するところもありますね。

森田_2010年から2040年の人口増減率を見るといちばん大きく減るという推計が出ているのが秋田県です。減少率は35.6%、すなわち人口が3分の2になるという推計です(社人研の「日本の地域別将来推計人口」平成25年3月推計による)。これは大変なことです。もちろん秋田だけの話ではありません。地方で言うと、東北、山陰、四国などでの減少が著しいという結果が出ています。

ただ気をつけなければいけないのは、東京のような都市部も2020年を境にピークアウトするということです。その時点から後は、程度の差こそあれ、若年人口の減少によって、人口縮小という問題が現実としてすべての国民の前に立ちはだかるということです。

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人口が減るということだけではありません。ここに高齢化というもう一つの問題があります。たとえば2010年から2040年にかけて、東京で65歳以上の人口はほぼ150万人増えます。そして神奈川はほぼ100万人増えます。千葉や埼玉を含めて首都圏ということで見れば、高齢者として区分される人の数が今よりも400万人増加します。

今でも待機老人(老人施設に入れない人たち)問題が騒がれているのに、2040年時点には400万人もの高齢者が増えるということになったら、老人難民が大量に発生することは目に見えているのです。経済が縮小し、税収が上がらないなかで、この問題にどう対応するのか。これはとても大きな問題です。

移民では解決できない

藤田_人口が減るのだから、移民の導入を考えるべきだという議論がありますが、これについてはどのようにお考えですか。

森田_1年に100万人以上減るようなときに、移民でカバーするというのは無理があるでしょう。しかも単純な労働力の問題ではありません。高等教育を受けた「高度な」移民が欲しいというのでしたら、なおさら非現実的です。しかもお隣の韓国や東南アジアの国とも高度な移民の取り合いになります。ほぼどこの国も人口減少という問題に直面しているからです。しかも日本は移民の受け入れに慣れていないし、外国の文化にも慣れているとは言えません。そのような状況を考えると、人口減少を移民で止めるというのは現実的選択肢とは思えません。

藤田_人口が減り、高齢者の割合が高まってくると、当然のことながら年金や介護、医療という社会保障のコストが急増してきますね。その負担がどうなるのか、どう解決すればいいのかはまた改めてお話を伺いたいと思いますが、だいたいのところをお話しいただけますか。

森田_2015年度の総医療費は前年度に比べて1.5兆円増加して41.5兆円になりました。10年後の2025年には60兆円ぐらいになると見積もられています。団塊の世代が後期高齢者に入って来ますから、医療費は当然増えます。この増え方はGDPの成長率よりはるかに高く、しかも税金で負担する分の増加が著しいのです。今よりもざっと7兆円から8兆円は増えるでしょう。これを吸収しきれるのかという問題があります。

藤田_聞けば聞くほど暗くなってきますね。8兆円といったら、消費税でざっと3%分です。増税は不可避なわけで、これを政治がどう受け止めていくのか、注目していきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。